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新見市へ 開かずの金庫、ついに開く!

「こちらにどうぞ。」

 俺といずみは応接間と思しき部屋に案内された。部屋の中はクーラーが入っていて気持ち良かった。

「お掛けになってしばらくお待ちください。」

 俺といずみは案内された座布団に座らせていただいた。しばらくして、先程の女性ともう一人、男性が姿を現わした。この男性が樫原貞彦さんであろう。

「ようこそ、新見へ。私は樫原貞彦といいます。こちらは妻の宏子です。」

貞彦さんがごあいさつをしてくださった。

「本日はお忙しい中、お時間をいただきましてありがとうございます。私は蒼ノ京と申します。こちらは紫王院と申します。よろしくお願いいたします。」

いずみが丁寧にあいさつをした。

「話は篤二から聞いて驚いております。まさか、あの金庫にそのようなものが入っているとは思ってもみませんでしたし、叔母にそのような秘密があるとも思いませんでした。」

 貞彦さんが言った。そこに、宏子さんが飲み物を準備して持って来てくれた。人数分の冷たいお茶と和菓子を置いてくれた。

「私も驚いています。あの金庫は鍵もないし、きっと中身も入っていないだろうから処分しようと思っていたところなのです。」

宏子さんがお茶を配り終えて、座りながら言った。

「それで、こちらが樫原貞彦さんあてのお手紙になっています。こちらが、篤二さんからのお手紙です。それと、こちらが金庫の鍵です。」

いずみが、カバンから2通の手紙と金庫の鍵を取り出して貞彦さんに渡した。

「ありがとうございます。見させていただきますね。」

 貞彦さんが手紙を開きながら言った。そばらく、じっくりと手紙を読んでいた。読み終わった手紙は、奥様の宏子さんに手渡し、宏子さんも読んでいた。

「篤二からはおおよその話は聞いておりましたが、叔母が寄付したピアノが事の発端だったのですね。これは、お二方にはご迷惑をおかけしました。大変だったでしょう。暑い中穴を掘ったり、あちらこちらを回ったりと。本当に申し訳なかったですね。」

貞彦さんが申し訳なさそうに言った。

「いえいえ、いろいろな方にお会いすることができましたし、行ったことがなかったところに行くことができて楽しかったですよ。」

いずみが笑いながら言った。

 とき江さんからの手紙の内容を伺ってみると、昨日、篤二さんが言った内容とほぼ同じ内容が書かれてあったそうだ。「掛軸を受け継いで欲しい。お金に困ったら売っても良い。あと、迷惑をかけて申し訳ない。」といったことが切々と書かれていたそうだった。


「では、金庫の方に案内しましょう。蔵の中にあるので少し暑いですよ。」

 貞彦さんがそう言って立ち上がった。貞彦さんに連れられて庭にある蔵に移動してきた。蔵の鍵を開けて中に入った。中は薄暗く、壺や置物などが乱雑に置かれてあった。宏子さんが懐中電灯を点けてくれた。奥の方に大きな黒い金庫があるのが目に入った。

「あの奥の方にある金庫です。」

貞彦さんと宏子さん、俺といずみは金庫を取り囲むように並んだ。

「さあ、開けてみますね。」

 貞彦さんが金庫の鍵を鍵穴に差し込んで回した。「カチッ」と音がして鍵が開いたようだった。貞彦さんは、金庫の扉についてあるレバーを左右に広げた。

 「ギギギ」と擦れたような音が鳴りながらも、レバーは左右に広がった。そこで、貞彦さんは一呼吸おいて、今度は思い切りよくレバーを手前に引いた。長い間、日の目を見ることがなかった金庫の扉が今ここに開いた瞬間だった。

「ついに開きましたね。さて、中を見てみましょう。」

 貞彦さんがホッとした感じで言った。ここにいる4人全員がホッとしたことだろうと思った。懐中電灯に照らされた金庫の中を見てみると、内部は2段に分かれていた。上段には風呂敷に包まれた細長い物体があり、下段にはこちらも風呂敷に包まれた箱状の物体があった。


「部屋に戻って確認しましょう。」

 貞彦さんはそう言って金庫に入っていた物を取り出して鍵を閉めた。そして、物を持って先程の応接間に戻った。

「これが、叔母の言っていた掛軸と茶壷なのでしょうか?」

 貞彦さんが手袋をしてそれぞれの風呂敷を開きながら言った。一つは細長い二重箱で、もう一つが直方体の形をした桐箱だった。細長い二重箱が掛軸で、直方体の桐箱が茶碗と考えて間違いないだろう。

「では、細長い方から開きますね。」

 貞彦さんはそう言って二重箱から中身を取り出した。中には、「共箱」と呼ばれる作者本人が署名捺印した箱が入っていた。名は「三笑斎」と記されていた。俺は聞いたことはないが、きっと名のあるものなのだろうと思った。共箱を開くと掛軸が出てきた。それは、風景画が描かれた掛軸だった。俺は知識がないから分からないが、鑑定に出すときっと数百万円はするのだろうと思った。

「私も聞いたことのない名前の方の掛軸ですが、叔母のことですから、きっと貴重な物なのでしょう。さて、もうひとつの桐箱の方も開けてみますね。」

 貞彦さんが桐箱を開けにかかった。紐を解いて蓋を開けた。中には古びた茶碗が入っていた。桐箱には「備前 茶碗」と書かれ、作者名は「備州翁」と記され落款も記されてあった。こちらも俺は知らないが、きっと名のある作者の茶碗なのだろうと思った。

「こちらも私は知らないですね。篤二なら知っているかもしれませんが。お手数ですが、こちらの茶碗は篤二に届けていただいてもよろしいでしょうか?」

「はい、分かりました。」

「ありがとうございます。できれば、叔母の遺志に添うようにしたいと思いますからね。この掛軸は大切に受け継いでいきたいと思います。」

 貞彦さんが言った。いずみは、丁寧に梱包された茶壷を受け取り、持参した紙袋にしまいこんでいた。そこに、先程席を外した宏子さんが戻ってきた。

「こちらは、新見市特産のワインになります。この度は、私どものためにいろいろとご尽力いただきましてありがとうございました。こんなものでしか、お礼はできませんが是非飲んでください。きっと美味しいと思いますよ。」

宏子さんがワインを2本差し出してくれた。

「そんな、申し訳ありません。こちらに来てからいろいろな方に親切にしていただいて大変うれしく思っています。お心遣い、ありがたく頂戴いたします。」

そう言っていずみはワインを受け取った。

「それでは、私たちはこれで失礼いたします。この茶碗は確実に篤二さんにお届けしますね。」

「よろしくお願いします。」

俺といずみは、貞彦さんと宏子さんに見送られながら家を後にした。

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