新たなる展開
時間は11時を回ったところなので、お昼ご飯を兼ねて、今後の動きの確認しようということになった。市街地まで戻るとファミリーレストランがあったのでそこに入ることにした。いずみは、念のために茶碗も店内に持って入った。
「ふう、これで茶碗を届けたら任務完了だね。」
俺はお冷を一口飲みながら言った。
「そうね、何とか5日以内に解決できたわね。」
いずみも一口お冷を含んで言った。ランチタイムには入っていたが、時間的に11時30分過ぎだったのでまだ込み合ってはいなかった。
何となく疲れて考えるのが面倒だったので、「今日のランチ」を注文することにした。今日は、自家製ハンバーグランチだった。自家製のデミグラスソースがたっぷりかかったハンバーグに、スープバーとサラダバーがついて、パンとライスのどちらかを選べるものだった。
注文が来る間に、いずみが篤二さんに連絡を取り、「15時ごろにお伺いします」とアポを取った。注文したランチが届き、俺といずみはゆっくりと食べた。もう、後は篤二さんに茶碗を渡すだけなので気分はとても気楽だった。食べ終わり、会計を済ませて車に戻ると、今味わっていた気楽さが一気に吹き飛んでしまう事態が出来していた。なんと、車のワイパーのところに白い封筒が挟まれてあったのだ。
「もう、いったい何なのよ・・。」
いずみがうんざりしたように言った。俺も同じ気分だった。驚きというよりも、「もう勘弁して」という倦怠感のような気分だった。正直、やりきった感があったので、もう、うんざりだった。
でも、見ない訳にはいかないので、俺といずみは封筒を取って車に乗り込み、中の手紙を取り出した。その手紙は、こう書かれてあった。
「大事なものは預かった。返して欲しければ、お宝を持って、今夜8時に夕立受山の駐車場に来い 黒焔院隼」
俺といずみは顔を見合わせた。差出人は「黒祈仙術一派」の首領、「黒焔院隼」だった。手紙の中身にある「大事なもの」って何だろうと考えた。なかなか結論は出なかったが、あずさちゃんのことではないかということになった。
いずみが、スマホであずさちゃんに連絡を取ってみたが応答はなかった。今日は、クラブの練習があると言っていたから、スマホを確認できない状況なのかもしれない。でも、不安は残るので、運転は俺がすることにして、いずみが連絡を取り続けることにした。こと、こうなれば早く備前市に戻るしかなかった。俺は、車を発進させた。
ひとまずは、予定通りに篤二さんのところへ行くことにした。その道中で、あずさちゃんに連絡を取り続け、連絡がつかなかったらその時に対応を考えようとすることにした。高速道路に入り、車は順調に走り続けたが、あずさちゃんとはなかなか連絡が付かなかった。車は山陽道の和気インターチェンジを降りた。
「まだ、連絡がつかないのか?」
俺は高速道路を降り、一般道に入ったところで聞いた。
「まだつかないのよ。こうなると心配だわ。このまま篤二さんのところに行って、篤二さんに何か心当たりはないか聞いてみましょう。」
「そうだね。篤二さんの方が、俺たちよりもあずさちゃんのことをよく知っているからね。」
俺は車を「柴﨑窯苑」へ向けて走らせた。時間は14時半少し前だった。連絡していた時間よりも少し早く着きそうだったが、時間調整はせずにそのまま向かうことにした。
ほどなくして、「柴﨑窯苑」が見えてきた。駐車場に車を停めて、俺といずみはまず、店舗の方に向かった。自動扉が開いて、店舗に入った。
「いらっしゃいませ。」
奥の方から若い女性の声が出迎えてくれた。聞き覚えのある声だと思って、奥からやってくる若い女性を見てみると、なんと!あずさちゃんではないか!
「あずさちゃん、無事だったのね!良かったわ。」
いずみがあずさちゃんの手を握って言った。
「無事だったってどういうことですか?」
あずさちゃんは訳がわからない感じで問い返してきた。
「実はね、こんなことがあったのよ。」
いずみが、車にワイパーに挟んであった手紙のことをあずさちゃんに説明した。
「そんなことがあったのですか。私は大丈夫ですよ。今日は、お昼からお仕事させていただいています。返信できずにすみませんでした。それにしても、その「大事なもの」って気になりますよね。」
あずさちゃんも「大事なもの」が何であるかを考えているようだった。
「うーん。ちょっと分からないですね。この内容はご主人様には言えないので後で考えましょう。では、ご主人様に声をかけてきますね。」
あずさちゃんが奥へと向かった。しばらくして、あずさちゃんと篤二さんが姿を現わした。
「これはお疲れさまでした。まあ、上がってください。」
そう言って家の方の応接室に案内された。
「新見の方はいかがでしたか?」
今ここには俺といずみ、それに篤二さんと奥様がいた。あずさちゃんが店番をしてくれているようだ。
「はい、新見のご実家の方に金庫があり、あの鍵で開きました。中には手紙にあった通り、掛軸と茶碗が入っていました。茶碗をお持ちしましたので、ご確認ください。」
いずみはそう言って紙袋に入った茶碗を大事そうに手渡した。
「ありがとうございます。確認させていただきますね。」
篤二さんは手袋をして茶碗を確認した。
「おお、これは「備州翁」の茶碗ですね。かなりの高級品になりますね。母の言いつけ通り、家宝として柴﨑家で受け継いでいきます。」
篤二さんは茶碗を桐箱に丁寧にしまいながら言った。
「今回はいろいろとご苦労をおかけしましてありがとうございました。これで、母の望みも達成されたはずです。また、早いうちに墓参をして母に報告したいと思います。まずは、仏壇にご報告しておきますね。」
「そうしていただければ良いかと思います。その声がお母様に通じれば、ピアノの不可解な現象も収まると思います。」
それからしばらく雑談をしてお暇させていただくこととなった。
「この度は本当にありがとうございました。こちらは少ないですけど謝礼です。受け取ってください。」
篤二さんは俺といずみに封筒を半ば押し付けるように渡してきた。
「そんな、頂けないですよ。依頼主の施設長からも調査費でいただいていますので。」
俺といずみはお断りしようとした。
「まあまあ、そう言わずに受け取ってください。あと、こちらは私の焼いた備前焼の湯呑みです。よかったら使ってください。」
そう言って、桐箱に入った湯呑まで手渡してくれた。
「お気遣いいただきまして申し訳ありません。それでは、ありがたく頂戴いたします。「嘉笑苑」さんの方にはきちんと報告させていただきます。」
「何から何までありがとうございます。それでは、気を付けてお帰りくださいね。また、いつでも遊びに来てください。」
篤二さんと奥様、あずさちゃんまで俺といずみの車が出るまで見送ってくれた。




