新見市へ 開かずの金庫を求めて
部屋に戻り、お風呂に入ることにした。それぞれ、荷物をまとめ、大浴場に向かった。例にもれず、俺の方がはるかに早く部屋に戻っていた。自販機でアイスコーヒーを2本買っておいた。
「あー、気持ちよかったわ。相変わらず、柊太は早いわね。」
いずみが部屋に戻ってきて言った。俺は、いずみにアイスコーヒーを渡した。
「あら、ありがと。」
いずみがアイスコーヒーを受け取ってソファーに腰かけた。俺もその向かいに腰かけた。
「いよいよ明日ね。実質、こちらでの最終日よ。段取りだけ確認しておくわね。」
いずみが、資料などを取り出しながら言った。
「朝は7時過ぎには出るわね。早く着いて向こうで時間調整をする方がいいものね。必要な物は、金庫の鍵と樫原貞彦さん宛のお手紙、それと柴﨑篤二さんが書いてくれたお手紙ね。明日は朝早いし、今日は早く寝ましょう。」
「分かったよ。明日はすんなりいくといいね。」
「大丈夫じゃないかしら。あとは、金庫の中身や、とき江さんの手紙の中身次第だもの。」
いずみがベッドに入りながら言った。お互いにしばらくスマホをいじっていたが、気付かないうちに寝落ちしていたみたいだ。気が付いたら朝の5時だった。
アラームは5時30分に合わせているのでまだ30分あるが、十分に寝たせいか頭はスッキリしていた。俺はそのまま起きておくことにした。
昨日、コンビニで買った朝食を食べることにした。俺は菓子パンとバナナとヨーグルトを買っておいた。コーヒーはここで沸かせばいい。スマホを眺めながらゆっくりと食事を摂り、その後コーヒーを沸かした。ゆっくりコーヒーを飲んでいると5時30分になり、アラームが鳴った。
「ううー、もう朝なのね。あら?柊太、もう起きていたの?このごろ早く起きるわね。やっぱりお酒を控え目にしているからかしら。」
いずみが伸びをしながら言った。確かに、こっちに来てからは毎日飲んではいるが、量的にはかなり控え目だ。まあ、これを機に少しお酒の量を減らしてもいいかなとは思うが・・。多分、無理だろう。
「おはよう、いずみ。俺はもう朝ごはん食べたよ。」
「あら、そうなの。そしたら、私も食べようかしら。」
いずみがベッドから起き出して、こちらも昨日買っていた朝食を食べ始めた。しばらくして、食べ終わり、しばらく二人ともまったりと過ごしていた。
そろそろ動かないといけない時間になったので、荷物の確認など、出発の準備を始めた。7時になったので、部屋を出てフロントにキーを預け車に向かった。今日も快晴でとても暑くなりそうだ。セミがミンミンとうるさく鳴いている。今日の運転はいずみだ。
「さあ、出発するわよ。ナビを合わせてね。」
俺は、先方の住所をナビに入れた。行程としては、和気インターチェンジから、山陽道に乗り、岡山ジャンクションで岡山道に入る。そのまま岡山道を北上して北房ジャンクションまで行く。
そこで中国道に入り新見インターチェンジまで行くという感じだ。同じ岡山県内でも結構かかるものだなと思った。車は順調に走り、山陽道に入った。ここからは高速道路の梯子だ。
「いずみ、大丈夫か?疲れたらいつでも変わるからな。」
「ありがとう。大丈夫よ。新見で降りるまではこのまま行くわね。」
いずみが元気に言った。高速道路に入ってからも順調に進み、予定通り、9時前に新見インターチェンジを降りることができた。ここからは15分程で到着するみたいなので少し休憩と時間調整をすることにした。コンビニがあったので、車を入れた。店内に入り、コーヒーを買ってイートインコーナーでゆっくり飲むことにした。
「思ったより順調だったわね。少し休憩してから向かいましょう。」
テーブルに向かい合って座り、コーヒーを飲みながら今日の行程を確認した。10時に樫原貞彦さんにお会いして手紙を渡し、金庫を開けさせてもらう。
金庫の中身については、とき江さんの手紙によることになるだろうと思われた。さていったいどんな掛軸と壺が入っているのだろうか?そして、柴﨑家が受け継ぐことになるだろう壺を篤二さんのところに持って帰る訳だ。そこまですれば一件落着と考えていいだろう。最後に、柏原施設長とうちの四谷所長に報告して終了だ。
「さて、そろそろ行こうか。」
俺は時間を確認して立ち上がった。今は9時半少し前だ。少し早いが、出発して樫原家の場所を確認したいと思った。時間が早ければ、一旦通り過ぎて少し車を走らせてから行けばいいと思った。
「そうね、少し早いけど、場所を確認したいものね。」
いずみも同じことを考えていたみたいだった。コーヒーのカップを回収ボックスに入れて車に戻った。少し車を離れていただけで、車の中は灼熱だった。すぐにクーラーを強めに入れて車を発進させた。
少し市街地を進んで途中の信号で山間に向かう細い道に入った。その道を進んで行くと家が少なくなってきて、豊かな田園風景になってきた。家も瓦屋根風の立派な佇まいの大きな家が多くなった。ナビはその中の一軒を指していた。
まだ、9時40分過ぎだったので、一旦行き過ごした。まあ、どこかでUターンできるだろう。しばらく進み、空き地のようなところがあったのでそこで車をUターンさせた。そこで時間を確認すると、9時45分だったので、今から伺うとちょうど良い時刻になると思われた。そこから、ものの5分で目的地に辿り着いた。道路脇にハザードを焚いて車を停め、俺がインターホンを押しに行った。
「はい、どちら様ですか?」
インターホン越しに女性の声で応答があった。
「おはようございます。私は、本日10時にお約束させていただいております、紫王院と申します。」
俺は粗相がないように注意しながら言った。
「ああ、あなたがそうなのですね。主人から聞いております。今、外に行きますから少しお待ちください。」
玄関から一人の女性が現れた。年のころは60歳前後かと思われた。おそらくは、樫原貞彦さんの奥様だろうと思った。
「遠いところをわざわざありがとうございます。篤二さんから話を聞いて、主人ともども驚いていたところです。さあ、上がってください。」
その女性が言った。
「ありがとうございます。車はどちらに停めさせていただいたらよろしいでしょうか?」
「ああ、隣の空き地に止めておいてください。そこも私どもの土地なので大丈夫です。」
そう言って、家の横にあるまあまあ広い空き地を指さして言った。俺は、いずみのところに戻り、車を停める場所を伝えた。いずみは、言われたとおりに空き地に車を停めて降りてきた。俺といずみは、その女性のあとに従って、家の中へと誘われた。




