太一郎と不思議な壺
「ふう、疲れたわね。いったいどうなることかと思ったわ。」
助手席でいずみが大きく伸びをしながら言った。
「そうだね、警察を呼ばれていたら大変なことになっていたからね。」
俺はいただいた飲み物、スポーツドリンクのペットボトルを開けながら言った。
「でも、おそらく次で最後だと思うわ。」
いずみは、ペットボトルのレモンティーを開けながら言った。
「それはどうしてそう思われるのですか?」
こちらはあずさちゃんだ。あずさちゃんは、オレンジジュースを開けながら言った。
「それはね、今までは行き先がヒントになっていたけど、今回はどちらかの実家に限定されているからよ。手紙の宛先が2通あって、それぞれ届けなきゃいけないけど、今まで見たいに謎解きではないわよね。」
いずみがレモンティーを飲みながら言った。
「でも、金庫か何かの鍵をあけたらまた「謎」だったってことはないかな?」
俺が聞いた。
「それはないと思うわ。これだけはっきりした形で名前が出ているからね。ここから振出しに戻るようなことはしないと思うわ。そうしないと、本来の目的が達せられないもの。」
「本来の目的って何だい?」
「それは、その2通の手紙の中に書かれていると思うわ。きっと、金庫の中に入っている遺産的な物の処遇についてだと思うの。」
「手紙の中身を知りたいな。」
俺はぼそっと言った。
「気持ちは分かるけどそれはダメよ。宛名の主に確認してから教えてもらえたら教えてもらいましょう。」
いずみが最もなことを言った。
「今は15時少し前ね。このまま一旦「柴﨑窯苑」さんに寄りましょう。あずさちゃん、この流れを篤二さんに連絡して、今からお伺いする旨を連絡してくれるかな?」
「分かりました。連絡しますね。」
あずさちゃんはスマホを取り出して篤二さんに連絡を入れてくれた。しばらくして、篤二さんから返信があった。
「『了解しました。待っているから気を付けておいで。』と返信がありました。」
あずさちゃんが報告してくれた。
「じゃあ、「柴﨑窯苑」に向けて出発だね。」
俺はナビを設定して車を発進させた。
場面は変わってここは「柴﨑工作所」である。
「ああ、流石にこの歳で京都往復は疲れるな。」
声の主は柴﨑太一郎である。先程、京都から帰ってきたところだ。誰もいない工場の事務室兼応接室に入り、応接セットのソファーに腰かけた。
「あとは、あの黒焔院とかいう奴からの連絡待ちだな。まあ、失敗しても金は払わなくていいから、まあ良しとするか。」
太一郎は帰り際にコンビニで買ってきた弁当とビールを取り出した。ここは、住居と工場が併設されているので、いわば太一郎の家でもある。太一郎が弁当を広げようとしたときにインターホンが鳴った。時間はもう夜の10時を過ぎていた。
「こんな時間にいったい誰なんだ」
太一郎はブツブツと文句を言いながらもインターホンに向かった。
「はい、こちら柴﨑工作所です。」
「夜分遅くに申し訳ありません。あなたに是非お話したいことがあるのですが、よろしいですか?」
相手が思わせぶりに言った。
「いったい何なんだ!こんな夜分に失礼じゃないか!」
太一郎が怒って言った。
「そう怒らないでくださいよ。あなたは壺を持っていますよね。その壺についてお話があるのですよ。実は、その壺はとんでもない力を秘めているのですよ。興味はないですか?」
「なんだ、怪しげだな。セールスではないんだな?」
太一郎が確認するように言った。
「違いますよ。お金はびた一文いただきません。お話させていただいてよろしいですか?」
「仕方ないな。今から表に行くから少し待ってろ。」
太一郎は事務所兼応接室から出て工場の門扉へと向かった。
車は「柴﨑窯苑」に到着した。時間は17時少し前でそろそろ閉店の時間になるところだった。傾いてきている夕日がやけに眩しく感じられた。
俺は車からお借りしたシャベルなどの用具一式を取り出した。篤二さんは店内にいた。俺たちに気付くと、外に出てきてくれた。
「これはみなさん、お疲れさまでした。中にどうぞ。」
篤二さんが言った。
「こちら、お借りしていたものです。洗えていなくて申し訳ありません。」
俺はそう言ってお借りしていた用具一式を篤二さんにお返しした。
「そんなのは別にいいですよ。それよりも、今日のお話をきかせてくれますか?」
俺たち三人は篤二さんの自宅の応接室に案内された。そこに、あずさちゃんがお茶を入れて持ってきてくれた。
「ごめんね、あずさちゃん。今日はお客さまなのに。」
篤二さんが申し訳なさそうに言った。
「いいですよ。このぐらい、おかみさんも忙しいですからね。」
「どうぞ、召し上がってください。今日は疲れたでしょう。何でも湯郷の方まで行っていたと聞きましたが。」
「そうなのです。」
いずみは今日一日の流れの説明を始めた。朝から夕立受山に行き、ヒントを頼りに缶を掘り起こしたこと、その缶の中に質札などが入っていたこと、その質屋が湯郷にあると推測し、湯郷まで行ったこと、湯郷の質屋で鍵や手紙をもらってきたことを細かく話をした。
「そうだったのですね。ご苦労様でした。それでしたら、私宛の手紙を頂いてもよろしいですか?」
篤二さんが遠慮がちに言った。
「どうぞ。こちらになります。」
いずみがカバンから篤二さんあての手紙を取り出して手渡した。
「どれどれ。」
篤二さんは手紙を読み始めた。しばらくして読み終わったが、その顔にはどこかスッキリとしたものがあった。
「何が書かれていたのですか?よろしかったら教えていただけませんでしょうか?」
いずみが聞いた。
「はい、いいですよ。この手紙には、「ダイヤモンドは必要に応じてお金に換えてもいい。あと、実家の金庫に父の形見で私が受け継いだ茶碗と、樫原家が受け継ぐべき掛軸がある。茶碗の方は、できれば柴﨑家の家宝として受け継いでいって欲しいが、どうしようもなく困ったときはお金に換えてもいい。」といったようなことが書かれていました。ですから、その鍵は新見にある母の実家の金庫の鍵ですね。」
篤二さんが手紙を読み返しながら言った。
「施設に入る少し前から、母の様子がおかしいなとは思っていましたが、そんなことがあったのですね。これで、スッキリしました。兄はどうか分かりませんが、私のところはおかげさまで商売も上手くいっていますし、お金に困っていることはありません。できれば、母の言葉通りにしたいと思っています。」
篤二さんが言った。
「分かりました。それでしたら、私たちはこの手紙を持って、明日、新見の方に行きたいと思います。」
「では、私の方から新見の実家に連絡を入れておきましょう。時間は10時でいいですか?」
「それで結構です。よろしくお願いします。あと、新見の方の住所を教えていただけますか?」
「分かりました。貞彦にアポを取るのと、住所と経緯を書いた手紙を準備しますね。しばらくお待ちください。」
そう言って篤二さんは席を外した。しばらくして、篤二さんが戻ってきた。
「こちらが、住所です。新見市××で、樫原貞彦ですね。それと、こちらがお手紙になります。先程、貞彦に電話で話をしたので大丈夫かと思いますが念のために持っていってください。」
呼び捨てにするので、どういう関係性を考えてみたら、篤二さんと貞彦さんは従兄弟同志だったのだ。
「あと、この宝石もお返しさせていただきますね。」
いずみがそう言ってカバンからダイヤモンドを取り出し、篤二に渡した。
「ありがとうございます。これの使い道は、また兄と相談したいと思います。兄はお金に困っているので、きっとお金に換えることになると思いますが・・。」
篤二さんが少し残念そうに言った。




