次の謎を追って 湯郷温泉②
「いらっしゃいませ。どういったご用ですか?」
うーん。先程とほぼ同じ反応だ。もの凄く警戒されている。
「すみません、この質札はこちらのお店の質札ですか?」
いずみが丁寧に聞いた。
「そうだけど、君たちはこれをどこで手に入れたんだ?返答次第によっては警察を呼ぶよ。」
店主がこちらを睨みつけながら言った。
「分かりました。それで結構です。では、少しお話を聞いていただけますか?」
いずみが辛抱強く丁寧に言った。
「分かった。聞こうか。奥の応接室へ入ってくれ。3人全員だ。逃げられては困るからな。」
本当に警戒されているなと思った。まあ、無理もないかなと思った。質草になりそうなものも持っていなさそうな若者三人がいきなりやってきて質札を見せたら、窃盗か悪くして強盗、そういったところを疑っているんだなと思った。
「では、話をしてみたまえ。」
店主が言った。明らかにお客さんに対する態度ではなく、尋問するそれであった。
「まず、伺いますが、この質札は柴﨑とき江さんの質札ですよね。」
いずみが言葉を選びながら言った。
「その前に、それをどこで手に入れたかを話してみろ。君たちの質問に答えるのはそれからだ。」
店主がぶっきらぼうに言った。
「では、話しますね。信じてもらえるかは分かりませんけど・・。」
いずみは、ピアノが独りでに音が鳴り出したこと、そこから調査を開始して、夕立受山にたどりついたこと、そこで地中に缶が埋められており、その中に質札とヒントになる紙が入っていたことを告げた。
「信じられないかもしれませんが事実です。あと、私たちがご提示できるものは、缶の中に入ってあった鈴のキーホルダーと柴﨑とき江さんの次男さんである柴﨑篤二さんの紹介状だけです。」
そう言っていずみは鈴のキーホルダーと、ヒントになる2枚の紙きれ、柴﨑篤二さんの紹介状を机の上に並べた。店主はいずみが話をしている時は予想に反して穏やかに聞いていた。そして今も机に置かれたものを手に取って時間をかけて見ていた。しばらくして、店主が口を開いた。
「そういうことだったんだね。君たちを疑って悪かったよ。申し訳ない。こういう商売をしているから、とんでもない輩が時折いるものでね。勘弁してほしい。さっき、そっちのお嬢ちゃんが言ったとおり、この質札は柴﨑とき江さんのものだよ。」
店主はさっきとは打って変わって穏やかに言った。
「やっぱりそうだったのですね。もしよろしければ、その辺りの経緯もお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?」
いずみが丁寧に聞いた。
「そうだな。もういいだろう。君たちに全てを話して、全てを託すよ。少し準備する品物があるから待っていてね。」
店主は応接室から出ていった。
「この展開で通報されることはないよな?」
俺は何となく心配になって言った。
「それはないと思うわ。本当に怪しいと思ったら、話を最後まで聞くことなく途中で遮って非常ボタンか何かを押されていると思うわ。それよりも、一つ前の「山の湯質店」さんのところに今頃パトカーが来ている気がするわ。」
いずみが言った。それから、しばらく店主は戻ってこなかった。さすがのいずみも少し不安そうな表情になってきた。その時、店主が戻ってきた。手にはお盆を持っていて、その上にいくつかの品物が乗せられていた。
「君たちは、ここに来る前に「山の湯」さんのところに行った?」
店主が聞いてきた。
「はい、行きました。ひょっとして大騒ぎになっていますか?」
いずみが心配そうに聞いた。
「大騒ぎになるところだったけど、大丈夫だよ。私のところに電話をかけてきて、「不審な若者3人連れがくるかもしれないから注意するように」と言ってきたよ。それで、私がかいつまんだ説明をして、「私のところのお客さんだから大丈夫だ」と言っておいたから。」
店主が笑いながら言った。
「ありがとうございます。あまりにすごい剣幕だったので、逃げるように出てきましたから。」
いずみがほっとした表情で言った。
「まあ、許してやってくれ。それより、さっきの話の続きをしていくよ。もう15年ほど前になるかな、柴﨑とき江さんが一人でこの店にやってきたんだ。その時に、「このダイヤモンドの宝石を質に入れるから50万円貸してほしい」と頼みに来たんだ。」
店主はそう言って一旦言葉を切った。
「柴﨑とき江さんはお金に困る方ではないんだよ。現に、このダイヤモンドの宝石も査定すれば500万円以上するからね。これは、お金の問題ではないなと私は考えたんだよ。」
「それでどうしたのですか?」
「何か訳ありかなとは思ったけど、そのときのとき江さんは「あまり何も聞いてくれるな」というような雰囲気を出していたんだ。私も、柴﨑家やとき江さんのご実家の樫原家とは長い付き合いだから、あまり余計な詮索はせずに、その商談に応じたんだよ。」
「その樫原家という方もお金には困っていないのですか?」
今度は俺が聞いた。
「全く困っていないよ。樫原家は新見市にあるんだけれど、かなり歴史のある名家でかなりの資産家だよ。」
「そしたら、何故とき江さんはここにやってきたんだろう?」
俺は独り言のように言った。
「そこなんだよ。質草と融資額は釣り合っていないし、さっきも言ったがお金の問題ではないなということだよ。現に、返済期間は20年で設定されており、月額の返済額は5000円なんだよ。「これでは、多すぎます」と私は言ったんだけど、とき江さんは「これでいいのです。その分でお願いしたいことがあるのだけれど聞いていただけるかしら」と言ってきたんだよ。」
「それは何ですか?」
「それはね、このダイヤモンドの他に、この鍵と手紙を二通預かっていて欲しいということだったんだよ。本来であればお受けできないことなんだけれど、長い付き合いもあるし、とき江さんのたってのお願いだったのでお引き受けしたんだよ。」
店主はそう言ってお盆の上に置いてある鍵と手紙を指し示した。
「それで、「私以外の人物が取りに来た場合、この質札と鈴のキーホルダーの二つがそろっていなければ、誰であろうと絶対に渡さないでください」とお願いされたんだよ。幸い今まで誰も取りに来ることはなかったけれど、とき江さんは亡くなられたんだね。」
店主が悲しそうに言った。
「そうなのです。それで、そのダイヤモンドと鍵と手紙はどうなるのでしょうか?」
いずみが聞いた。
「さっき言った通りだよ。全て君たちに託すといったはずだね。だから、これらの品物は質札と交換で渡すよ。」
「でも、返済期間は20年ではないのでしょうか?」
「ははは、そんなものは10年そこそこで元は取れているんだよ。支払いは、とき江さんの実家から毎月きちんとお振込みをいただいていたが、これを機にストップしてもらうように話をしてみるよ。私は阿漕な業者ではないからね。それに、支払い過ぎていた分も逆にお返ししたいと考えているからね。」
店主が言った。さっきはすごい剣幕だったけど、根はきっといい人なんだろうと思った。
「この手紙は、一通は次男さんの篤二さんあてで、もう一通は樫原貞彦さんあてになっているね。この方は、樫原家の現当主の方だよ。」
店主がそう言いながら品物を丁寧に梱包してくれた。
「この鍵はいったい何でしょう?」
いずみが聞いた。
「それは、私にも分からないな。きっとどちらかの家に置いてある金庫の鍵じゃないかな?おそらくは樫原家だと思うけど。」
店主は自信なさそうに言った。
「分かりました。それは私たちで確認します。お時間をいただきましてありがとうございました。」
いずみが丁寧に礼を言った。
「こちらこそありがとう。私も肩の荷が下りたよ。このまま誰も来なければどうしていいか分からなかったからね。ちょっと待ってて。」
店主はそう言ってまた応接室を後にした。そしてスーパーの袋に入ったものを持ってきてくれた。
「この中に飲み物やお菓子が入っているから飲んだり食べたりしてね。。気を付けて行くんだよ。」
店主はにっこりと笑って言った。
「いいのですか?ありがとうございます。ありがたくいただきます。」
いずみが丁寧に礼を言って受け取った。俺たち三人は車へと戻った。店主がずっと見送ってくれているので、ひとまず車を発進させた。そして、少し広い道路脇にハザードを焚いて車を停車させた。




