初老の男性と新しい四つの謎
俺は荷物を持って、木々の中へ踏み込んで行った。あずさちゃんは、手にスマホと資料的なものを持って周りを見渡した。俺はいずみの元へたどり着いた。ここまで動くだけでもの凄く汗をかいた。
とにかく暑いし、セミがうるさい。これからどんどん暑くなるだろうから、さっさと掘ってしまうに越したことはない。俺はシャベルを手にして足をかけて土を掘る作業を始めた。
「あまり深くはないと思うから、深さよりもこの辺りを中心に円状に掘り広げていってくれるかしら?」
いずみが地図とにらめっこしながら言った。
「了解!」
俺は首にタオルを巻いて、時おり汗を拭きながら掘り進めた。20分程その作業を進めていただろうか?
その瞬間は突然に来た。それまでは、掘り進めても土があるばかりだったが、その時、シャベルの先に硬い感触が感じられた。俺は手を止めた。
「どうしたの?柊太。疲れたの?変わろうか?」
いずみが訝し気に俺の方を見ながら言った。
「いや、違うんだ。今、シャベルの先に硬い感触があったから止めたんだよ。」
俺は言った。
「それかも知れないわね。ここからは小さいスコップで少しずつ進めて行きましょう。」
俺といずみは小さいスコップを手にして、硬い感触があったところを少しずつ丁寧に掘り起こしていった。すると、それはだんだんと形を顕わにしてきた。
それは、鉄でできた円形の容器だった。おそらく、海苔の缶の小さいものだろうと思った。フタと本体はテープでぐるぐる巻きにされていたのであろうが、腐食してあった。
俺といずみは、掘り起こした土を元に戻して、あずさちゃんのところへ戻ろうとした。すると、あずさちゃんは一人の初老の男性と話をしていた。何か苦情を言われていたら、早く助けに行かないといけないなと思ったが、そういう雰囲気ではなく時おり笑顔も見えたので大丈夫かと思った。
「あずさちゃん、お待たせ。そちらの方は?」
いずみがあずさちゃんに聞いた。
「おはようございます。私は地元の者ですよ。少し暑いが運動がてらで、ここに来たのですよ。そしたら、木々の中で何かをされていたので、こちらの女性に聞いていたのですよ。なにやら、地質学の調査をされていたそうで。暑いのにご苦労様です。」
「いえいえ、ありがとうございます。」
どうやらあずさちゃんが上手いこと言いくるめてくれていたみたいだ。
「それは何ですか?」
俺が持っていた缶を見て、初老の男性が言った。
「調査をしていたら偶然発見したのです。いったい何でしょうね?」
いずみが惚けて言った。
「良かったら開けてみませんか?」
初老の男性が言った。
「そうですね。開けてみましょう。」
いずみが思ったより素直に言った。俺は、缶の下を持ち、もう片方の手で缶のフタの部分を持ち、思いっきり引っ張ってみた。缶は思ったより簡単に開いた。中には分厚めのビニール袋が入っていて、テープで厳重に封がされていた。
「これは何でしょうかね?」
俺は、ビニール袋を取り出しながら言った。
「その封も開けてみましょう。」
いずみが言った。この初老の男性に見られるかもしれないのにいいのかなと俺は思った。きっといずみには何か考えがあって、そう言っているんだなと思うようにした。
俺は、思い切りよくビニール袋の封を破いた。中からは、「5」と書かれた木の札と、鈴のキーホルダー、あと紙切れが2枚入っていた。1枚は温泉のマークが書いてあり、もう1枚には何かのマークが描かれていたが、それが何かは分からなかった。
「では、私たちは今日の調査も終わり、地質サンプルも手に入れましたのでこれで帰ることとします。こちらの缶と中身は発見した私たちが警察に届けます。それでいいですよね。」
いずみがきっぱりとした口調で言った。
「ああ、私が代わりに届けてあげようかと思ったが、あなたの言う通りだね。では、お願いするとしよう。私はもう少しここにいてから帰ることにするよ。」
初老の男性が言った。
「ではお先に失礼します。」
俺たち3人は初老の男性に挨拶をして山から下りた。まっすぐに、車へ行き、クーラーをつけて水分補給をした。
「あずさちゃん、お願いがあるんだけど。」
いずみが言った。
「何でしょうか?私でできることなら何なりと言ってください。」
「篤二さんのところに電話をかけて、昨日か今日にお兄さんから連絡がなかったか聞いてほしいの。もし、連絡があったならどういった内容かも聞けたら聞いてくれるかしら?」
いずみが言った。
「分かりました。電話をかけますね。」
あずさちゃんは、スマホを取り出し電話をかけた。
「もしもし、柴﨑です。」
篤二さんがすぐに電話にでてくれた。
「私です。あずさです。少し、お時間よろしいですか?」
「大丈夫だよ。あずさちゃん、何かあったのかい?」
「実はですね、昨日か今日、お兄さんから電話や連絡はありませんでしたか?」
「ああ、そういえば昨日の夜遅くに電話があったな。ピアノについていろいろと聞いてきたよ。それが、どうかしたかな?」
篤二さんが言った。
「そうなのですね、少しお待ちください。」
あずさちゃんが、スマホを少し離した。
「いずみお姉さん、お電話替わってください。」
そう言ってあずさちゃんはスマホをいずみに渡してきた。
「もしもし、突然すみません。私です。先日お伺いさせていただきました蒼ノ京です。今、あずさちゃんと一緒にいます。このまま少しお話をお伺いさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「いいですよ。何かあったのですか?」
篤二さんが少し警戒気味に言った。
「順を追って説明させていただきます。」
いずみは、今、「夕立受山」にいること、地図を頼りに地面を掘り起こしたら、缶が出てきて、中に木の札とキーホルダー、紙切れが2枚入っていたことを伝えた。
「そうだったのですね。申し訳ないが、私には全く心当たりはないですよ。」
篤二さんが申し訳なさそうに言った。
「それでですね、お兄さんとは、どのようなお話をされましたか?差支えのない範囲でできるだけ教えていただきたいのですが。」
「ああ、別に構いませんよ。何でも兄はピアノを売ろうと思って、京都まで行ったらしいのですよ。その時偶然に知り合った男性と「嘉笑苑」に行って、あなた達と同じピアノのヒントを貰ったそうです。その知り合った男性が「ピアノの調査もしますよ」と言ってくれたので任せた。といったようなことを言っていましたよ。」
篤二さんがあっけらかんとした感じで言った。一方のいずみの表情は険しくなっていた。
「それで、その偶然知り合った男性の名前は分かりますか?」
「うーん、とても変わった名前だった気がします。「こくいん?」「こくえん?」そんなような名前を言っていたような気がしますけど、申し訳ないが、はっきりとは覚えてないですね。あなた達の関係者ではないのですか?」
篤二さんが言った。
「違います。実は申し上げにくいのですが、その男性には少し心当たりがあります。少し因縁がありまして、今後の調査の妨げになるかもしれません。そこで、申し訳ないのですが、お兄さんに今後の調査の進捗状況を聞かれても「連絡がないから分からない」とか「連絡がつかない」などと言って決して言わないようにお願いできますか?」
いずみが真剣な口調で言った。
「ああ、そういうことですか。分かりましたよ。なんとか、はぐらかしておきます。それは、大丈夫です。しつこかったら、「焼き物」で釣りますから。」
篤二さんは笑いながら言った。
「申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。」
いずみは電話を切って、あずさちゃんに返した。




