朝の「夕立受山」 調査に向けて
さて、こちらは柊太である。翌朝は早くに目が覚めた。時計を見るとまだ5時だった。もう一度寝ようかと思ったが眠れなさそうだったので、俺はベッドから起き出して、財布とスマホとキーを持った。そして、いずみを起こさないようにそっと部屋を出た。
何をしようかというと、コーヒーを飲みたくなったので自販機に買いに行こうとしたのだ。自販機コーナーのところに、テーブルと椅子があったので、少しゆっくりしようと思った。自販機コーナーに着き、俺はブラックコーヒーを買って椅子に腰かけた。
フタを開け、ゆっくりと一口味わった。缶コーヒーとはいえ、寝起きの一杯はたまらなく美味しい。今日で3日目だ。朝から行く「夕立受山」でほぼケリが付いたらいいなと思いながら、もう少しここにいたいなと思う自分もいた。人間とはかくも身勝手なものなんだなと改めて思った。それから、少しスマホを眺めて、コーヒーを飲み干したところで俺は部屋に戻った。
いずみはまだ寝ていた。時計を見るとまだ、6時になっていない。おそらく6時にアラームを合わせているだろうから、俺は音を立てずに海の見えるソファーへ行き腰掛けた。陽はとっくに上がっている。綺麗な海を眺めながらしばらくぼーっと考え事をしていた。そうしているうちに「リリリリリ」と音が鳴った。いずみが合わせていた6時のアラームが鳴ったのだ。
「うーん。おはよう、柊太。早いわね。」
いずみがベッドから起き上がりながら言った。
「うん。5時に目が覚めて、そこから寝られなかったからゆっくりしてたよ。」
「あら、そうなの。起こしてくれたらよかったのに。」
「柊太に、相談なんだけど、あずさちゃんに日当をあげたいと思うの。」
いずみが言った。
「そうだね。この件の手伝いをしてくれるために、アルバイトを休んでいるんだもんね。」
俺は同意して言った。二人で相談して、1日当たり2万円を払おうと決めた。今日の分の日当を準備し、封筒に入れた。もし、明日も続くようであれば、また2万円払うことになる。
あずさちゃんが気持ちで動いてくれていることもあるし、寂明さんにもたくさんお世話になっているのでこのぐらいは当然だと思った。お互いに、調査費用とは別に余分にお金を持ってきておいて正解だった。
そうこうしているうちに、7時前になったので俺といずみはレストランへと急いだ。本来ならゆっくりと朝食を楽しみたいところだが、8時15分にはあずさちゃんのところへ行っておかないといけないということもあって、あまりゆっくりと味わうことなく、栄養補給的な感じの朝食を済ませた。
早めに部屋に戻り、準備物の確認をした。忘れ物がないことを確認して、俺といずみは部屋を後にした。フロントにキーを預け、車に向かった。今日は、まずはいずみが運転することになった。ホテルからそんなに走ることなく、あずさちゃんのマンションが見えてきた。少し時間が早かったので、マンションの手前にハザードを焚いて車を停めていた。8時10分になり、あずさちゃんが降りてきた。
「おはようございます。お待たせしました。今日はよろしくお願いします。」
あずさちゃんがあいさつをして、後部座席に乗った。あずさちゃんの今日の服装はブルーのジーパンに白色系のTシャツだった。長い髪は後ろでひとつに束ねていた。カバンは赤紫のリュックを背負っていた。靴は黒色系のスニーカーだった。
「では、あずさちゃんのご主人のところに行くわね。」
いずみが車を発進させ、「柴﨑窯苑」へ向かった。ほどなくして、「柴﨑窯苑」に到着した。営業時間前なので、お客様駐車場には車はなかった。車を停めていると、中から篤二さんが出てきてくれた。手にはシャベルがはみ出た大きめのカバンを持っていた。俺たち3人は車から降りた。
「おはようございます。朝早くに申し訳ありません。」
俺は篤二さんにごあいさつとお礼を言った。
「いえいえ、母のピアノについてご尽力いただきましてありがとうございます。本来であれば、私も行かなくてはならないところを申し訳ありません。こちらに、シャベルやスコップ、軍手などが入っていますのでご自由にお使いください。」
篤二さんが大き目のカバンをこちらに渡しながら言った。
「あずさちゃんも気にせずにお手伝いしてあげてね。こっちは大丈夫だから。」
「ご主人様、ありがとうございます。そうさせていただきます。」
「また、出勤できる日を教えてくれたらいいからね。」
優しく篤二さんが言った。
「ありがとうございます。それでは行ってきます。」
俺たち三人は篤二さんに礼を言って車に乗り込んだ。次の行き先は「夕立受山」だ。篤二さんの見送りを受けながらいずみが車を発進させた。しばらくして、昨日もやってきた「夕立受山」の駐車場に到着した。車が1台停まっていたが、岡山ナンバーだった。多分地元の方だろう。
念のため、俺たち3人は結界を張る『銀紐の術』と、「術」に対するバリアを張る『守盾の術』を使うことにした。忘れ物がないか、確認をして車を降り登山口に向かった。
8月の初旬、8時半過ぎともなるともう途轍もなく暑い。木が多いせいもあるのか、セミの鳴き声がもの凄い。お互いの声が聞こえにくいぐらいだ。そんな中、登山道に入り、昨日と同じ道を辿って15分ほどして山頂に着いた。山頂に人はいなかった。
「今のうちね。さっさと掘ってしまいましょう。」
いずみが言い、地図を見ながら「山頂展望台」から矢印の方向に向かって歩き出した。そこには道がなく、低い木々が群生する中をかき分けて進んで行った。そしていずみは木々が群生する真っただ中で立ち止まった。
「この辺でいいと思うわ。柊太はシャベルや必要な物を持ってこっちへ来て。あずさちゃんは、そこにいて見張っていて。何か言われたら、上手いこと説明しておいてくれる?」
「分かったよ。」
「分かりました。」
俺とあずさちゃんはそれぞれ返事をした。




