謎の美少女あずさ
「ふふふ。紫さんに蒼色さん。驚きすぎて腰を抜かしてしまったのかしら?」
遠くから声がして一人の人影が姿を現わした。
「君は・・・。」
そう言ったが、そこから言葉が続かなかった。急に体が重たくなったような感じがした。いずみも同じようで、思うように体を動かせない感じだった。
「よく効いたようね。鬼火が出る『緋炎の術』と動作を鈍くする『鈍泥の術』。実際に使うのは初めてだけど、これだけの効果があるのね。」
現れた人物が言った。若い女性だった。そう、俺といずみが知っている人物だった。名前は確か、「あずさちゃん」と言ったはずだった。
「あずさちゃん、君はいったい・・・。」
俺はそこまで言うのが精一杯だった。
いずみも、悔しそうにあずさちゃんを見ていた。
「さて、「その写真と地図をいただこうかしら」と言ったらどうするの?」
あずさちゃんが不敵に言った。無数の火の玉がその迫力に拍車をかけていた。
「そんなの・・、ダメに・・、決まってるでしょ・・。」
いずみが動きにくい体で必死に言った。
「そうよね。じゃあ、強引に奪っていこうかしら。」
そう言って、あずさちゃんは俺といずみの方にじわじわと近づいてきた。何とかしようと思うけれども、「術」のせいか、身体が言うことをきかない。
このままでは、あずさちゃんの思う壺だなと思っていたら、俺といずみの間近くまできてあずさちゃんの動きが止まった。
「もう、本当に頼りないですね。それでも、「紫」と「青」の継承者なのですか?」
あずさちゃんが呆れたように言った。それから、少し大きめの「鈴」をカバンから取り出して何やら唱えた。そしたら、どうだろう。無数の火の玉が瞬時に消え失せ、身体も軽くなった。
「あずさちゃん、君はいったい何者なんだい?」
俺はさっきから聞こうと思っていた質問をようやく本人にぶつけることができた。
「ふふふ。何者だと思います?」
あずさちゃんは、余裕の笑みで答えた。
「昼間からバイクで私たちのことを付けていたでしょ?それは気付いていたんだけど・・・。私の完敗だわ。お願いだから正体を教えて。」
いずみが、いつになく大人しく言った。
「あら、いつも強気の蒼ノ京のお嬢様にしては随分弱気な発言ですこと。紫のお兄さんもそれでよろしくって?」
あずさちゃんが俺に聞いてきた。俺も参ったと思っていたので、
「それでいいよ。あずさちゃんの正体を教えて欲しい。」
と言った。
「それなら教えてあげてもよろしくってよ。まずは、あなた達が私のことを何者かと思っていたか教えてくださいな。」
あずさちゃんはまだまだ余裕たっぷりに言った。
「分からないわ。敵方かと思っていたけど、今のあずさちゃんを見て分からなくなっちゃった。」
まず、いずみが言った。
「俺も、全くわからないね。降参するから教えてちょうだい。」
俺もそう言うのがやっとだった。
「仕方ないですね。教えてさしあげましょう。まずはヒントから、私の出身地は京都です。これで分かりましたか?」
あずさちゃんが言った。俺といずみはしばらく考えていたけど分からなかった。
「ひょっとして、静音さんの妹さん?」
俺が言った。
「違いますよ。あんな怪しげな人と一緒にしないで欲しいですね。もう一つヒントを差し上げましょう。私は、「紫祈仙術」系の流れを汲む者ですよ。今は、備前大学の音楽学部で楽器の勉強をしています。これで分かったでしょう。」
あずさちゃんが、微笑みながら言った。俺は分からなかったがいずみが、
「分かったわ、あずさちゃんは寂明さんの娘さんでしょう?」
と言った。
「ご名答。その通りです。私の本名は「長春あずさ」。今は備前大学音楽学部の2回生で、主に邦楽器、胡弓の勉強をしています。紫のお兄さんもお分かりいただけましたか?」
あずさちゃんが笑いながら言った。
「分かったけど、何で敵対するような行動を取っていたの?」
俺は疑問に思って聞いた。
「最初はすぐに名乗るつもりでいたけど、「柴﨑窯苑」に来た時から、ひょっとしたら「祈仙術」絡みの話なのに、結界は張っていないし、少し無防備だなと思って様子を探っていました。
私の尾行に気付いたのはさすがですけど、そこで止まったのは残念でしたよ。今も、バイクを見てから山に上がるなら、結界を張るか、「術」に対するバリアを張るべきだと思いました。少し油断していたのではないですか?」
あずさちゃんは一気に思っていたことを言った。
「その通りね。反省してます。」
いずみがしおらしく言った。
「それで、あずさちゃんの目的は何なの?」
いずみが聞いた。
「私の目的は、ここでのあなた達の調査を手伝うことですよ。あなた達が来ることは、いずみお姉さんが「柴﨑窯苑」に電話をしてきたときから分かっていたから、父に相談しました。父は「手伝ってあげなさい」って言いました。
でも、私なりに人柄を見極めてからにしようと思ったのです。いい人達だから手伝ってあげたいって思ったけど、いい人過ぎて不安になりました。それで、少し試すようなことをしました。ごめんなさいね。」
あずさちゃんが言った。
「そうっだったのね。私たちも、前の事件から「祈仙術」を使うことがほとんどなくて油断していたわ。気付かせてくれてありがとう。今回の件もいろいろとややこしそうだからね。「柴﨑窯苑」のご主人のお兄さんもややこしいんでしょ?」
いずみが言った。
「あら、よくご存じですね。その通りですよ。このまま、ピアノの調査を進めて行ったら、必ず対峙することになるでしょうね。場合によっては「黒祈仙術」系一派の登場もありうると考えていた方がいいかも知れませんよ。」
あずさちゃんが少し真顔で言った。
「それで、ここの場所でも目的は達せられたのですか?」
「まだなの。今日は下見をして状況を把握して、明日に目的の作業をしようと思っていたの。」
いずみは包み隠すことなく正直にあずさちゃんに説明をした。
「そうだったのですね。では、下見だけしておきましょう。もう少ししたら、夕日を見に来る人が来るかもしれませんしね。」
あずさちゃんはそう言っていずみが出した写真と地図を見た。
「確かにここで間違いなさそうですね。ああ、あの草むらの辺りですね。明日、スコップとシャベルを持ってきて調べてみましょう。」
あずさちゃんがあっさりと言った。
「そうね。あと、何点か教えてもらってもいいかしら?」
いずみがあずさちゃんに言った。




