古物商と謎の壺
「もしもし、古影です。」
「俺だ、柴﨑だ。柴﨑太一郎だ。」
「ああ、柴﨑さんですか。今日はどうしました?」
「また、焼き物が手に入ったから見てくれ。」
「分かりました。今から伺いますね。そうですね、あと2~3時間で行けそうです。」
「もっと、早く来れないのか?」
「ちょっと無理ですね。今、広島県内にいるんです。」
「分かった、できるだけ早く来てくれ。」
それからだいたい3時間ほどして、岡山市内にある「柴﨑工作所」に1台の車が現れた。一般的にワンボックスカー呼ばれる車だった。色は白色だった。
車から、一人の男が降りてきた。背は低めの165cmぐらいで、髪はミディアムで自然に流してあり、髪色は黒色だった。服装は黒のスラックスに白い半そでのワイシャツだった。手には大き目のビジネスバッグを持っていた。その男は、門扉のところにあるインターホンを押した。
「はい、どちら様ですか。」
野太い男の声で応答があった。
「柴﨑さんですね。私です。古影です。」
「おお、待っていたぞ!早く中に入ってこい!」
「分かりました。」
古影と呼ばれた男は「柴﨑工作所」の中に入って行った。そして、事務所兼応接室らしき部屋に行き、応接セットのところに座った。そこへ、一人の男がやってきた。柴﨑篤二の兄の柴﨑太一郎だった。
「待ちかねたぞ!今日も焼き物がいくつかあるから査定してくれ!」
「分かりました。拝見しますね。ふむふむ、相変わらず良いものばかりですね。うちのお客さんからの評判もいいのですよ。」
古影は一つひとつ丁寧に鑑定していった。
「あれ?一つ、備前焼じゃない壺が入っていますね。これはどうしたのですか?」
古影が、太一郎に聞いた。
「ああ、これか。弟が言うには、突然やってきた行商人が置き忘れていった壺だろうということらしいがな。」
太一郎は弟の柴﨑篤二から聞いた話をそのまま言った。
「それは怪しいですね。私は同業者ですが、そんな話は聞いたことはありませんね。気味が悪くありませんか?」
古影がその壺から目を背けるように言った。
「そんなことはない。それで、その壺はいくら付くのだ?」
太一郎が壺を手に聞いた。
「申し訳ありませんがその壺の買い取りはお断りさせていただきます。由緒も分かりませんし、何より気味が悪いです。お客さまに説明もできませんからね。」
古影がきっぱりと断った。
「そうなのか。どんな壺なのかも分からないのか?」
太一郎が未練がましく聞いた。
「そうですね。私も長いこと、この商売をさせていただいておりますが、このような特徴の壺は初めて見ます。いったい、どの地方の焼き物で、何の目的で造られたのか、皆目見当がつきません。悪いことは言いません、そういったものは早めに処分した方が良いかと思いますよ。」
古影が言った。
「そんなものなのか。分かった、早めに処分するとしよう。それで、それ以外はいくらになる?」
「ああ、あの壺以外で合計8点ですね。今回は20万円でいかがでしょうか?」
古影が太一郎の顔色を窺うように言った。
「20万!もっと付くだろう!もう一声頼むよ!」
太一郎が懇願するように言った。
「仕方ないですね。そしたら、もう3万円上乗せしましょう。これ以上は無理ですよ。」
古影が仕方ないという風に言った。
「ありがとな。また、手に入ったら連絡するから、よろしくな。」
太一郎が現金を受け取りながら言った。
「こちらこそいい品物をありがとうございます。また、連絡をお待ちしています。」
古影は商品を丁寧に箱に入れながら言った。
「あと、くれぐれも、あの壺は早めに処分した方がいいですよ。」
箱を手に古影が真剣な顔で太一郎に言った。
「分かった分かった。今日にでも処分しておくよ。」
太一郎がうるさそうに言った。
古影が帰ったあと、太一郎は社長席に座って思案していた。
「23万か、もう少し金が欲しいな。何かないかな?ああ、そうだ!すっかり忘れていが、母が寄付したピアノがあったな。あれを取り返して売ってしまおう。電話しても、断られるに決まっているから直接向こうに行ってやるか。」
太一郎はそう言って立ち上がった。
「おい、工場長!ちょっと来い!」
「社長、お呼びでしょうか?」
工場長と呼ばれた50歳前後の作業服の男性が姿を現わした。
「俺は、商談でちょっと留守にする。あとは、任せるからよろしく頼む。何かあったら電話してくれたらいい。」
太一郎が工場長に言った。
「かしこまりました。どちらへ行かれるのですか?」
「京都だ。」
太一郎は手早く準備を済ませて車に乗り込んだ。そして、京都の「嘉笑苑」へ向かって出発した。




