謎の赤いバイク
「いずみ、どうする?マスターの言ったとおり、市役所か観光案内所に行くかい?」
俺は運転席から聞いた。
「そうねえ、2つとも行く必要はないと思うわ。市役所は少し敷居が高そうだから、観光案内所に行きましょう。」
「了解。」
ナビに観光案内所を入れて、俺といずみは車を発進させた。観光案内所はJRの駅前だった。近くにコインパーキングがあるので、そこに車を入れて情報収集をすることにした。俺は車を発進させた。しばらく、車を走らせていると、いずみが、
「次の細い道を左折して!」
と叫んだ。
「あれ?観光案内所はまだ、まっすぐだけど、どうしたの?」
「いいから、曲がって!」
いずみが真剣な表情で言った。俺はその表情に気圧され、次の交差点で左折した。信号機のない細い路地のような道だった。
「このまま、ゆっくりめに直進して。」
いずみが言った。
「分かったよ。それで、何があったの?」
「さっき言った赤いバイクがいた気がしたのよ。少し気になるから巻いてみるわ。このまま、ゆっくり走って、ナビの修正通りに元の道に戻ってみて。」
俺は言われたとおりにゆっくり走った。後方もミラーで注意深く見ていたが、それらしい赤いバイクは見えなかった。
「どうやら、バイクは来ていないみたいだよ。」
「そのようね。上手く巻けたようだわ。さあ、元の道に戻って、観光案内所に行きましょう。」
しばらく、細い道を通って車は本来走っているはずだった通りに戻った。そこからしばらくして観光案内所が見えてきた。車を先程調べたコインパーキングに停めて車を降りた。街路樹が並んでいるせいか、セミの鳴き声がとても喧しく響いていた。
俺といずみは、観光案内所の中に入った。内部は、カウンターがあり、壁にはポスターが張られていたり、パンフレット立てが置かれていた。休憩できるように、椅子と机も置かれていた。俺といずみはカウンターに向かった。
「ようこそ、備前へ。何か御用ですか?」
カウンターの若い女性が声をかけてきた。
「私たち、観光で来たのですけど、今から「夕立受山」に行こうと思うのです。」
いずみが言った。
「「夕立受山」ですか。あそこはいいところですよ。もう少し、夕方に行く方が暑くもなく夕焼けも綺麗だと思うのですが。」
その女性が言った。
「そうなのですね。ちょっと、この写真を見ていただけますか?この写真は「夕立受山」から撮ったと思われるのですが、いかがでしょうか?」
いずみが例の風景写真を取り出した。
「拝見させていただきますね。これは、随分と古い風景写真ですね。ちょっと私では分かりかねますので、詳しいものに聞いてきますね。少しお預かりしてもよろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫です。」
「少々お待ちください。」
若い女性はカウンターの奥の方へと下がって行った。しばらくして、年配の男性を伴って戻ってきた。
「お待たせしました。確認させていただきましたところ、おそらく「夕立受山」から瀬戸内海に向けて撮った写真に間違いないだろうということです。かなり、前の写真ですが、島影などの特徴から考えてまず、間違いないと思います。」
年配の男性が言った。
「それで、「夕立受山」にはどう行けばいいですか?」
いずみが聞いた。
「そうですね、それほど高い山ではないですよ。車で近くまで行けます。15台ほど停められる無料駐車場がありますので、そこに車を停めていただいて、歩いて、片道15分から20分程で登れますよ。」
年配の男性が丁寧に説明してくれた。
「ありがとうございます。行ってみます。」
俺といずみは礼を言って観光案内所を後にした。
「次は、「夕立受山」に行くんだね。」
俺は「夕立受山」をナビにセットしようとした。
「ちょっと待って。一旦ホテルの部屋に戻りましょう。」
いずみが言った。
「どうして?直接行った方が早いと思うけど。」
俺は何故ホテルに戻るのかが分からなくて聞いた。
「あの紙の地図よ。あの地図の意味をある程度理解してから動きたいと思ったの。それに、夕方の方が、あの写真にイメージが近くなると思うし暑さもマシになるわよね。あと、もう一つ、赤いバイクも完全に巻けると思ったからよ。」
いずみが言った。なるほどと俺は思った。確かにあの地図のことはすっかり忘れていた。おそらくは、あの地図と「夕立受山」は関連していると思われた。ここは、一旦ホテルの部屋で状況を整理し、作戦を練った方がいいと思った。
「分かったよ。それじゃあ、ホテルに戻るね。」
駐車料金を精算して、車をホテルに向かって発進させた。




