柊太といずみ 喫茶店で情報収集
「さて、お昼ご飯はどうしましょう。」
車の中は灼熱の暑さだった。エンジンをかけ、クーラーを入れて俺といずみは昼食場所について思案していた。今は11時を少し回ったところだ。いろいろと考えた結果、少し海沿いに車を走らせて、良さそうな店があったら入ろうということになった。
運転は俺がすることになり、いずみはお店を探す係となった。俺は海に向かって車を走らせ始めた。しばらく走らせると海が見えてきた。そのまま走らせていると、レトロ調の喫茶店があった。ひとまず、その喫茶店の駐車場に車を入れた。
車から降りずにレストランの様子を窺ってみると、入り口のドアには「営業中」の札が掛かってあった。そんなに大きな駐車場ではないが、2台車が止まっていた。
「どうする?ここにする?」
俺はいずみに聞いてみた。
「そうね、地元でずっと営業されているみたいだから、ここにしましょう。柊太は気付いてた?」
いずみが俺に探るように聞いてきた。
「何をだい?」
俺は訳が分からず聞き返した。
「うん。少し前から赤いバイクが付いてきているような気がしたの。気のせいかもしれないけど。」
いずみが少し考えこみながら言った。
「大丈夫じゃないかな。車はここに停まって、バイクらしき姿は見えないしね。ここは見通しがいいし、視界にいない限り俺たちを捕捉し続けることは難しんじゃないかな?」
俺は周囲を見渡しながら言った。
「それもそうよね。私の気にし過ぎかもしれないわね。」
「でも、運転するときはバイクに気を付けるようにするよ。」
俺といずみは車から降りて、喫茶店の中に入って行った。それをものすごく遠くから見つめているバイクがあった。そのバイクの色は赤色だった。柊太といずみはそのことを知る由もなかった。
「いらっしゃいませ。」
俺といずみが店内に入るとカウンター越しにマスターが出迎えてくれた。マスターは60歳代かと思われる初老の男性だった。店内に効いているクーラーが心地よかった。カウンター席が空いていたので、俺といずみはカインター席に並んで座った。
「今日のランチは何かしら?」
「今日はね、シーフードドリアのセットだよ。ここで取れた海の幸をふんだんに使った一品だよ。あと、サラダとプリン、ドリンクが付いて税込み1500円だよ。」
マスターが丁寧に説明してくれた。
「じゃあ、私はそれをいただこうかしら。食後にアイスコーヒーをお願いね。柊太はどうする?」
「俺も同じものにするよ。ドリンクもアイスコーヒーでお願いします。」
美味しそうだったので俺もそれを食べてみることにした。
「ランチセットお二つね。ありがとうございます。」
マスターはオーダーされた品物を作り始めた。
「作っていただいているところをごめんなさいね。私たち、観光で来たのだけど、さっき、備前焼の素敵な窯元さんがあったから寄ってみたの。ご主人がいろいろとお話してくれてとっても良かったわ。」
「ここらあたりじゃ柴﨑さんかな?」
マスターが調理をしながら言った。
「そんなお名前だったような気がするわ。後で、もう一度行ってお土産に何か買おうと思うのだけど、何がいいかしら?」
「そうねえ、コーヒーセットなんかいいと思うよ。日常的に気軽に使えるからね。」
「それいいわね。」
「おそらく、お客さんが行ったところは「柴﨑窯苑」さんだと思うけど、あそこのご主人はとてもいい人でね。悪く言う人はいないよ。」
マスターが笑いながら言った。どうやら話好きのマスターみたいだった。
「ほら、できたよ。」
マスターが出来上がったシーフードドリアをカウンター席に置いてくれた。
「わあ、美味しそう!いただきます。」
俺といずみはスプーンを手に取って食べ始めた。イカやエビがたくさん入っていて、コクのあるホワイトソースも美味しかった。
「お客さんはどちらから?」
マスターが聞いてきた。
「京都から来たの。」
「そう、遠いところからありがとうね。備前もなかなかいいところだろ?海がとってもきれいで、あと、さっきお客さんたちが行った「備前焼」や「刀剣」なんかも有名だから、ゆっくり見て行ってよ。」
「ありがとう。」
「あとねえ、さっきの柴﨑さんのところだけど、あのご主人は次男さんなのだよ。」
マスターが少し声を低くして言った。
「そうなの。ご長男さんはどうしていらっしゃるの?」
いずみが言葉を選びながら慎重に聞いた。
「それがね、よくある話なのだけど、家業を継がずにいろんな仕事を転々としているのだけど、どうも上手くいかないみたいでね。今は岡山市内で町工場を経営しているらしいのだが、どうも上手くいっていないみたいなのだよ。それでたびたび、戻ってきてはご主人の作った「備前焼」を無心して持っていってはお金に換えているみたいなのだよ。」
「それは、ひどいわね。」
いずみが眉をひそめて言った。
「ここらあたりじゃ有名な話だよ。お客さんが行ったときにお兄さんがいてびっくりしたらいけないなと思って言ったのだよ。まあ、内緒にしといておくれ。」
「分かったわ。ありがとう。」
食べ終わった食器を店員が下げてくれて、アイスコーヒーを2つ持ってきてくれた。
「マスター、ちょっとこの写真を見てもらっていい?」
いずみが、カバンから例の風景写真を取り出した。
「ちょっと見せてもらうね。これは、随分と古い写真だね。」
マスターは写真をじっと見ていた。
「これがどこの写真かお分かりになります?」
いずみが聞いた。
「うーん。おそらくだけど、これは「夕立受山」から撮った風景写真じゃないかな?お客さんこんな写真どうしたの?」
マスターが少し警戒気味に聞いてきた。
「実は、私の友人の祖母がこのあたりの出身らしいの。それで、友人からこの写真を渡されて「ここがどこか分かるか聞いてきて」と頼まれたの。行く先々で、お伺いしていこうと思ったのだけど、こんなに早く分かるとは思わなかったわ。」
いずみがにこやかに言った。
「そうなんだね。でも、僕も確信は持てないから、市役所の観光関係のところか、観光案内所に行って確認したらいいと思うよ。」
マスターが丁寧に説明してくれた。
「ありがとう。そうさせてもらうわ。」
アイスコーヒーを飲み終わった俺といずみは席を立った。レジで会計を済ませて店の外に出た。相変わらず信じられないぐらいの暑さだ。慌てて車に向かい、エンジンをかけてクーラーを入れた。




