「柴﨑窯苑」① あずさちゃん登場!
「おい、篤二!いるか?俺だ!」
ここは岡山県備前市にある備前焼の窯元「柴﨑窯苑」。自動ドアを開いて入ってきた大柄な初老の男が大声で言った。服装は、青い半袖のシャツに、黒いスラックスという恰好である。髪は短く刈っており、少し背が高くがっちりとした体型だった。
「兄さん、またなの?今日はいったい何の用?」
こちらは初老の域に足を踏み入れそうな感じの男性だった。白いTシャツに青色のジーンズを穿き、「柴﨑窯苑」と刺繍されたエプロンを纏っていた。
「「また」とは随分な言い草だな、篤二。俺がお前の作った焼き物を売ってやっているんだぞ。」
先程の大柄な男性が偉そうな口調で言った。
「兄さん。売ってくれているといっても、代金を貰ったことは一度もないんだよ。」
エプロンの男性が言った。
「前にも言っただろ。金がまとまったら払ってやると。ちまちま払ってもしょうがないからな。それより、今日の品物はあるのか?」
大柄な男は相変わらず威高げに言い放った。
「あるけど、本当に払ってくれるんだよね?」
エプロン姿の男が懐疑的に言った。
「くどいぞ、篤二。金がまとまったら払うとさっきも言ったはずだ。それより、今日の品物を見せろ。」
「分かったよ。こっちだよ。」
大柄な男はエプロン姿の男に指し示された品物を見た。
「だいたい、いつものような品物だな。俺が高値で売ってやるから安心しろ。うん?今日は随分珍しい壺があるな。あの壺は何だ?」
大柄な男が一つの壺を指さして言った。
「何のことかな?ああ、あの壺?僕は知らないな?本当だよ。そういえば、先日、怪しげな古物商の行商人がやってきたな。」
エプロン姿の男が記憶を辿るように言った。
「それで、どうだったんだ?」
大柄な男が先を促した。
「ああ、それでね、その行商人が、「この壺をここに置いてくれませんか?」というから、そんなことは出来ないので「申し訳ありませんが、出来ません。」と断ったんだ。その時の忘れ物かもしれないね。」
エプロン姿の男が言った。
「そんなことがあったのか?それで何か取られたのか?」
大柄な男が聞いた。
「それが、何も取られていないんだよ。あれはいったい何だったんだろう?」
エプロン姿の男も訳が分からないという風に言った。
「それは良かったな。このごろ怪しげな奴が多いから用心しろよ。お前はお人好しで世間知らずだからな。だから、俺がこうしてお前の作った焼き物を売ってやっているのだよ。何か変なことがあったら俺に言えよ。」
「分かったよ。それで、この壺はどうしたらいいだろう?」
「なかなか面白そうな壺だから、俺が預かっておくよ。ややこしそうだから、しばらくは売ったりしないから安心しろ。何かあったら俺が持って行ったと言えばいい。」
「ありがとう。よろしく頼むよ。」
「もし、またその行商人とやらが来たら、名刺を貰ったり人相を控えておくなりしておいてくれよ。」
「分かったよ。そうする。」
「では、また来るから、また次の品物をよろしく頼むぜ。」
大柄な男はそう言い残して去って行った。
「あなた、大丈夫なの。兄さんにいいようにされているだけじゃない!」
奥から出てきたエプロン姿の男性の妻らしい女性が不満たらたらに言った。
「仕方ないだろ。実の兄なんだから。今回は、あの面倒な壺を引き受けてくれたから良しとしようじゃないか。」
エプロン姿の男がなだめるように言った。
「本当にあなたはお人よしなんだから。何でも引き受けるのではなくて、少しは拒否することも必要だと思うわ。」
その女性は納得できないように言った。
「何かあったのですか?」
奥からもう一人女性が出てきて言った。この女性はとても若く20歳前後だと思われた。青色のジーンズに白色系のTシャツを着用し、男性と同じ「柴﨑窯苑」と刺繍されたエプロンを着用していた。
「ごめんね、あずさちゃん。また、あの人が来ていたのよ。」
エプロン姿の妻と思しき女性が、若い女性に言った。
「そうだったのですね。ご主人様も、もう少し強く出てもいいと思いますが。」
若い女性がエプロン姿の男性に向かって言った。
「あずさちゃんまでそんなことを言うのかね。これは参ったな。少し頑張ってみるよ。」
エプロン姿の男性が申し訳なさそうに言った。
「そういうところですよ。ご主人様のいいところですけど、ここは『アルバイトは黙っていろ!』というぐらいに強く言わないとダメですよ。」
若い女性が笑いながら言った。
「すみません。」
「ほら、またすぐに謝るんだから。」
こちらは妻と思しき女性が笑いながら言った。そこに、来客を告げるインターホンが鳴った。
「あら、誰かしら?」
妻と思しき女性が言った。
「ああ、ごめん。言ってなかったっけ?今日は、京都から母親のことについて聞きたいというお客さんが10時に来るんだったよ。」
「もう!そういうことは早く言ってよね!ごめん、あずさちゃん。応対して、応接室にご案内をお願いするわね。」
「おかみさん、分かりました。」
若い女性はそう言って足早に入口へと向かって言った。
「さあ、あなたも準備して、応接室に行ってちょうだい。お店は私が見ておくから。」
「分かったよ。よろしくね。」
エプロン姿の男性が奥へと下がって行った。




