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第6話 魔獣出現

 真っ赤な絨毯の敷かれた談話室に入った俺は、机に突っ伏しているシンシアとそれを困ったように見るエルドたちの姿を目にする。

 姉も姉で相当ショックを受けているようだ。俺の近づく足音に気が付いたのか、パッと顔を上げてこちらに笑いかける。かなりひきつっていて不格好な笑顔だった。

「探し物は終わった?」

「はい。とりあえず周辺の地理を調べたんですけど、僕や友人が見た街らしきものは確認できませんでした」

「だから言ったじゃん、噓ついてないって」

「噓つき呼ばわりはしてなかったでしょ、僕も」


 一息ついて俺はベスに会ったことを話そうとしたが、シンシアが突如立ち上がったのを見て口をつぐむ。

「一つ提案が。シキモリ君、オテントに入らない?」

「───俺がオテントに?」

「そう。私達が君の元居た世界?とやらに帰るのを手伝う代わりに、君はオテントの一員として私達の冒険を手伝う」

「じゃあそれでお願いします」


 俺はそう言うと、ちらとゴルドーを見る。

「何でこっちを見るんだよ。これはオテントのメンバー全員からの提案だ。困ってる奴を放っておかないってのをうちの理念として掲げてるんだ」

「───ありがとうございます!」


 俺は床に額が付きそうなほど深々とお辞儀をする。オテントのメンバーたちがなだめようとしたとき、異様な気配を察知したのか緊張が走る。

「魔獣が出たね」

「シキモリ、これが初仕事になるぞ。気合い入れろ!」

「は、はい!」

 訳も分からないまま階段を駆け上がり、図書館の外に出た。

「あっちの方です!」


 クレアが指を差したほうに向かってシンシアと俺を担いだゴルドー、クレアとエルドが飛び上がる。魔獣はすぐに見つかった。12メートル程だろうか、白い巨躯を機敏に動かして建物を破壊している。

「なんだありゃ、どっから入り込んだんだ?」


 エルドが口をあんぐり開く。魔獣がしっぽを一振りし、瓦礫を巻き上げる。こちらに飛んでくる瓦礫を避けながら一度地面に降り立った。

「魔獣は私が何とかするから、クレアとエルドはけが人の救助、ゴルドーは私の援護。シキモリ君は───」

「浮遊で上空に上がります!」

「何かあったらすぐに報告して。じゃあ行くよ、みんな!」

 役割を与えられた面々がそれぞれ動き出す。

「よし、魔獣の動きを監視しておかないと」


 俺はすぐさま浮遊スキルで空に浮かび上がった。あの時よりスキルの発動が速くなっているのを実感する。スキルにも練度という概念が存在しているのかもしれない。

 魔獣は相変わらず建物を破壊し続けている。すると、その魔獣の足元から、もう一体同じ種類の魔獣が飛び出してきた。いや、飛び出すというよりかは生えてきたといった方が正しいだろう。予兆もなく出現した二体目の魔獣の存在をシンシアに知らせる。

「シンシアさーん!魔獣がもう一匹!出てきましたー!」


 屋根を伝って魔獣の下へ向かうシンシアがこちらの方を一瞬振り返ったのが見えた。と同時に頭の中にシンシアの声が響く。

「念話魔法で会話できるから!」

「魔法使えません!」

「魔法で回路繋げば誰でも喋れる!現に頭に君の声が響いてるし!」

「魔獣だが、人みたいな形をしてやがるぞ!」


 ゴルドーの声も頭の中に響く。一人が回路を繋げば何人でも喋れるのか、これはありがたい。

「建物より大きい魔獣が二体います。人的被害も出ているかと」

「分かった。衛兵隊だけじゃ絶対無理だろうし」


 シンシアが両腰元に装備している長方形の箱から剣を引き抜く。細身の刃が日の光に閃く。飛んでくる瓦礫を一振りで両断すると、魔獣の頸めがけてジャンプした。

「私の街で暴れないでもらえる」


 シンシアを認識した魔獣が人に似た、不気味なほどに白い手を伸ばす。シンシアがその手の中に収まったと同時に手を細切れにする。

 魔獣はもう片方の手を伸ばすが、ゴルドーの爆破魔法で木っ端みじんにされる。だが、魔獣もしぶとく、尻尾すらもシンシアに差し向ける。

「もう!」


 シンシアが瞬き一瞬の間に尻尾の先まで輪切りにした。上空でその様子を見ながら俺は啞然としていた。到底人間にできる芸当とは思えなかった。それこそアニメや漫画でしか描写されないような剣戟に心なしか興奮を覚える。

 ゴルドーの援護は的確で、魔獣の両足を潰してその巨躯を横たえるに至らせた。絶好の好機、シンシアが逃すはずもなく。

「まず一体目!」


 魔獣の真上に飛び上がったシンシアが急降下しながらの回転斬りで、柱のごとく太い頸をはねた。シンシアがもう一体の魔獣に向き合う。

 その魔獣は今まさに逃げ遅れた男性を喰らわんと口に入れていた。

「あいつ、人を喰うのか?」


 俺はとっさに念じた。前方向に浮遊しろと。体が前に進みだす。

「もっと速く!」


 声に出てしまうほど念じた瞬間、グンと加速し魔獣の口元に到達する。

『間に合う、間に合う!』

 口内に墜ち行く男性の手を掴むが、魔獣の舌がそれごと巻き取り、引きずり込む。と同時にシンシアも口内に突入、舌を根本から切断、内側からうなじを突き破って俺と男性を救い出してくれた。

 魔獣は倒れ、動かなくなった。二体の魔獣の死体は強烈な腐臭を放っている。遅れて駆け付けた衛兵隊がえずきだす。

 「くっせーな、マジで」


 鼻つまみながらこちらにゴルドーが歩いてくる。手にした無骨なロッドを掲げると、魔獣の血が一か所に集まりだす。

「氷結」


 ゴルドーが唱えた瞬間。球状に集められた魔獣の血が凍りつく。それをぼーっと眺めていた俺はシンシアにかなり強く肩を引き寄せられて我に返った。

「あ、シンシアさん」

「なんであんなことしたの」

「咄嗟に、心じゃ行っちゃダメだって分かってたんですけど、人が喰われるところなんて見たくないし......」


 俺の言葉を聞いたシンシアがため息をついて顔にべっとりついた血をぬぐう。

「人を助けたのは素晴らしいことだよ。でもさ、わざわざ危険を冒すことないと思うよ。そういう自己犠牲のアレは手放しでは褒められない。私でもカバーしきれない時あるからね」


 いつになく厳しい口調でシンシアが言う。考えなしに飛び込んだのは確かに良くない。実際俺も男性もシンシアさんも魔獣に喰われかけた。

「すいませんでした」

「命あっての物種なんだからね、まったく」


 クレアとエルドもこちらに戻ってきた。

「けが人の治療は終わったよ。なんだったの、あの魔獣」

「さあ、分かんない。いきなり二体目が出現したみたいだし、そっちに関しても探った方が良いかもね」


 クレアの言葉にシンシアが返す。野次馬も続々と集まってきている。平和な街で突如として起きた凄惨な事件。それはまだアブロッサム史上最悪の獣害事件の前触れに過ぎないことは誰一人として、知る由もないのだった。

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