第40話 スラム街へ行こう
「スラム街は絶っっ対にイヤ!」
シンシアの拒絶に俺は思わず問い返した。
「何でですか⁉」
「何でって、イヤなものはイヤ!」
普段のシンシアとはえらい変わりようである。何かを必死に隠そうとしているような、何かしでかしたことから目を背けているような印象を受ける。
「シンシアさんって綺麗好きでしたっけ?」
「そういう問題じゃないよ。えーと、私もそうだけどそうじゃないっていうか」
「はあ? 何言ってんです、さっきから───」
俺がさらに問い詰めようとしたとき、尾道に肩をつつかれた。
「この人は?」
「ああ、紹介してなかったっけ。シンシアさん。昨日話したオテントって冒険者パーティのリーダー」
「へえ、この人が」
尾道と美浜がシンシアに頭を下げる。
「あ、シキモリ君のお友達?よろしくねー!君達がいいっていうならオテントに加入させても───」
シンシアがここぞとばかりに話題を変えようとしたので、もう一度訊ねる。
「何でスラム街には行きたくないんですか」
「うぐぐ、言わなきゃダメ?」
「シンシアさんは俺が元の世界に戻るのを手伝ってくれるって約束しましたよね。スラム街に俺達が乗ってきたバスがあるんです。そこに元の世界に戻るための何かがあるかもしれないんです」
その言葉にシンシアが非常にばつの悪そうな顔をする。表情豊かな人だな、と危うく思考がそっちに引っ張られる。今はスラム街に行くための手段を確保しなければならない。それもサーヴェイ達に気づかれないようにスラム街に向かう方法を。
「いや、これはゴルドーの問題だから、私は何も言えないよ。私はただスラム街と因縁があるってだけ。私は生きて帰れるけど、シキモリ君がどうなるか分からないから行きたくないの」
「俺が?」
俺が首を傾げる。スラム街は確かに危険はあるだろうが、命を落とすほどのことがあるのだろうか。ゼパル団関連なら分かるが───。
「ここのスラム街には私の妹がいるんだ」
シンシアの後ろから歩いてきたゴルドーがそう言った。
「ゴルドーさんの妹が?」
「まあな。向こうが覚えてるかどうかはわからん。なんせ最後に会ったのは五年ぐらい前だったからな」
ゴルドーはどこか上の空でつぶやく。かなり昔の話なのか。
「会いに行かなくていいんですか?妹さんに」
「いいよ、会いに行かなくて。向こうも私に会いたくないだろ」
そんなことを言うゴルドーに美浜が呆れて言う。
「会ってみなきゃ分からないんじゃないですか?」
ゴルドーが俺の方を見る。
「ああ、俺の友達です。俺と同じ世界から来た人」
「ああ、そうなのか」
ゴルドーにいつもの勢いがない。随分と大人しい。
「会わなくていいんだよ。それが一番だろ」
「───分からない」
シンシアがぼそりと答える。なんだなんだこの二人、めちゃくちゃテンションが低いな。そんなにスラム街ってヤバいのか?ゴルドーは沈んだ顔、シンシアは思い出したくないことを思い出してしまったような顔をしている。
「えーと、スラム街に行ってから考えませんか?妹さんも会いたがってるかもしれませんし、シンシアさんもスラム街との因縁に決着つけてもいいんじゃないですか?」
「ええー、絶対にユーヴェンスに怒られる───」
「ここでスラム街と繋がっておけば、ユーヴェンスさんに感謝されますよ。グリュプス解放軍とスラム街は仲悪いみたいですし、そこで橋渡しの役目ができれば、ゼパル団をぶっ飛ばすことだって容易になりますよ」
色々突っ込みどころはあるが、バスさえ手に入ればあとはどうだっていいのである。バスをスラム街の外へ出して調べる。これを最優先課題として、できることは何でもするし、なんだって利用する。バスになんの手がかりもなかった時のことは考えない。虚しくなるから。
「うーん、そうだね。五年続く因縁、断ち切っちゃおう」
「私は───もう一度あいつと話し合いたい」
シンシアとゴルドーが覚悟を決めたようだ。俺は尾道と美浜の方にサムズアップして見せる。
騙したようだが、俺が元の世界に帰るのを手伝うのを条件に俺をオテントに迎え入れる約束だった。やり方に文句は言われようが、悪いことはしていない。
「偵察っていう体で外に出てスラム街に向かうよ」
シンシアが言うと、ゴルドーは尾道と美浜の方を見た。
「お前らも来るのか?」
「当然行きますよ」
「ここまできて行かないなんてことあります?」
尾道と美浜もやる気のようだ。行動は最小限の人数で行おう、ということになり、シンシアがユーヴェンスに話をつけに行った。無論スラム街に向かうということは伏せてある。
結果、怪しまれることもなく偵察に出る許可が降りた。一応兵士が三人つくらしいが、撒くなり気絶させるなりで十分だろう。
こうして俺と尾道と美浜、シンシアとゴルドーは地下街を出て地上に出ることに成功した。空は分厚い雲に覆われており、これからの俺達の行く末を暗示しているような気分になった。




