第34話 装備の話をしよう
地下街に戻ると、何人かの兵士が出迎えてくれた。壁際に近づくのはよっぽど危険な事らしく、ユーヴェンスが仲間にこっぴどく怒られていた。
魔力を感じることができない俺ですら感じたあの圧迫感。魔力を感じることができる人なら、その場から逃げ出したくなるほどではないだろうか。
「今日の任務はひとまず終わりだ。好きに街を探索するといい」
ユーヴェンスはそう言うと、魔鋼糸で飛び上がり、仲間と共にどこかへ行ってしまった。
「どこか回るなら、案内しますよ」
二人残った兵士がこちらに声をかけてくる。
「どうする?」
「ゆっくりする」
「私もだ」
エルドとゴルドーは地下街を回るつもりはないようだ。
「俺は色々見て回りたいです」
「私も気になります」
俺とクレアが言うと、片方の兵士が挙手した。
「君たち二人をお姉さんが案内してあげましょう!あ、ヴィトはお客人を本部に案内して」
ヴィトと呼ばれた兵士がシンシア達を本部へ連れていく。
「さ、君達どこか行きたいところはあるかい?」
兵士がグイッと顔を近づけてくる。
「えと、なにかオススメのお店とかあります?観光とかするような場所じゃないかもしれないですけど───」
「んーとね、基本私ら兵士の装備を売ってるところしかないかな。」
「え、その武器自費なんですか?」
軍にあるまじきだろうそれは。正規軍でなくても、装備品は支給されるんではなかろうか。
まあ、軍事方面に明るくないので、それが普通なのか異常なのかの判別はつけられない。そういえばこの兵士の名前を聞いていなかった。
「えーと、名前は」
「ああ、名乗ってなかったね。私はペテロ・スカリオーネ。二十三歳のお姉さんだよ。好きな食べ物は───」
ペテロが余計な情報もペラペラ話し出したタイミングでクレアがそれを遮った。
「私と同い年ですね。私はクレア・ウェルソーンです」
クレアさんのフルネームを聞いたのは初めてだ。海外系の名前はどう転んでもかっこよく聞こえるので困る。よほど奇をてらって滑るような名前でなければの話だが。
「こっちはシキモリ君」
「ああ、式守裕介です。よろしくお願いします」
「シキモリユースケ、珍しい名前だね。よろしくね二人とも」
ペテロがニコッと笑いかけ、歩き出す。
「それで、さっきの装備の話だけどね、元々この国の防衛軍の標準装備じゃないんだよね。対国外諜報部隊が使ってた装備なんだ」
「諜報部隊?そんなこと言っちゃって大丈夫なんですか?」
「いーのいーの、もう諜報部は存在しないから。んでね、一昨年かな。グリュプスが乗っ取られたときに、当然反発は起きるわけじゃん。その時に発足したのがグリュプス解放軍。軍人が多いけど、一般の人とかもたくさん所属してるよ。かくいう私も花屋さんやってたしね」
「へえ、いろんな人がいるんですね」
寄せ集めの軍隊、というわけか。人員の損耗とか、かなりシビアそうなイメージがある。某宇宙戦争映画の影響だろうか。
「それで、その装備がなんで正式採用されたんですか?」
俺が訊ねるとペテロが頷く。
「良い質問。発足当初のグリュプス解放軍は人も武器も足りていなくてね。貴重な人員を戦場に長くとどめて、死亡させるリスクを増やしたくなかったの。走りじゃ速度はたかが知れてるし、飛行魔法だと小回りが利かないし、敵に追跡されるリスクも大きいから。そこで倉庫から引っ張り出されたのがこの糸動飛機。こいつで走りより素早い移動速度、飛行魔法に無かった機動性を得た私達は一撃───」
「一撃離脱戦法ですよね」
「───そう。筋が良いね」
ペテロが目を丸くする。機動力を最高に生かす戦術というと、素人では一撃離脱戦法しか思い浮かばない。
「この戦法を取るようになってから、兵士の生存率は大幅に向上したんだよ」
ペテロが腰元にぶら下がっている箱を撫でる。
「これがあれば兄さんもここにいたのかな」
「兄さんがいたんですか?」
クレアが訊ねると、ペテロは慌てて首を振った。
「ごごごごめん、気にしないで!」
そして脚を止め、右手の方を示す。
「ここがグリュプス解放軍の縁の下の力持ち、糸動飛機を製造する工房だよ!」
工房の中は屈強な男たちが刃を打ち、魔鋼糸のもととなる素材を糸動飛機に取り付けていた。
「おい、ペテロ。こんなところでなにしてやがる」
工房の奥から歩いてきた男がペテロに声をかける。彼も糸動飛機を装着している。口元に着いた傷から、歴戦の兵士だということが想像できる。
「サーヴェイさん、来てたんですか。客人に地下街を案内してるんですよ」
「だとしてもこんなところ案内するな。機密情報だぞ」
サーヴェイの指摘に俺は驚く。
「機密情報、なんで連れてきたんですか?」
「いや、信用できそうな人だったから」
ペテロという女、かなり迂闊というか、考えの足りない女らしい。サーヴェイが俺とクレアの前に歩いてくる。そして剣を抜いて突きつけた。
「お前ら、ゼパル団の人間じゃねぇだろうな」




