第32話 尾道たちの苦難
地下街をしばらく歩いた俺達は、グリュプス解放軍なる組織の本部にいた。ロビーのソファーに座った、俺は、同じく座っているクラスメイト達に、ここにきてから何があったか訊ねてみた。クラスメイト達は震えながら、あるいは涙を流しながら苦難を語ってくれた。
こちらの世界に転移後、バスで逃げていた尾道達は街に着きはしたらしい。だが、そこにいた赤い布を頭に巻いた連中に捕まり、そのままこちらまで魔法陣を通って連行されてきたらしい。
そのまま劣悪な環境の地下牢にぶち込まれたのだが、メガネは連中に取り入って自分だけ脱出したらしい。
「一回、王様かなんかがいる部屋に行かされたんだけど、メガネはそこにいたよ。なんかヨーロッパの坊さんみたいな格好してた」
美浜が暗い顔で言う。
「ヨーロッパの坊さん?まあいいや。それで、二か月弱監禁されてたのか?」
俺の問いかけに皆が頷く。
「尾道と神崎が特にひどくやられてたな。女子をかばって、代わりに嬲られてたんだよ。」
名前を呼ばれた二人のクラスメイトが立ち上がる。尾道も神崎も顔面が痣だらけになっている。痛ましいその様に俺は思わず後ずさりしてしまう。
「大丈夫なのか?それ」
「なんとかな、まだちょっと痛むけど」
尾道が頬を撫でながら顔をしかめる。神崎も眉間にしわを寄せて吐き捨てる。
「あいつら、人の心を持ってねぇ」
「そんなひどい目にあって、よく正気でいられるというか───」
「俺達は何も悪いことしてないし」
尾道が言い放つ。
「そうだよな、百パーセント向こうが悪いもんな。でもまさか処刑までされそうになるなんて───転移先がここで良かったよ」
ホッとしていいのかは分からないが、クラスメイト達の死という最悪のパターンは結果的に回避できたのだし、ひとまず安心するべきだろう。とんでもない確率を引いたのだろうなと確信する。
そして話はメガネについてに変わった。
「すぐ逃げたメガネなんだけど、あいつどうする?」
「さあ、俺らを裏切ったのはむかつくが、それができるなら誰だってそうしただろうし」
神崎がソファに座りながら言う。
「あいつもあいつで敵に捕らわれてるのと一緒だからな。下手すりゃ殺されてるかもしれない」
「確かにそうだな。裏切り者とはいえ、友達だしな───いや、やっぱむかつく!」
みんながメガネへの怒りをみなぎらせたとき、ユーヴェンスがこちらに歩いてきた。
「君たち、異世界人って呼ばれてる子らだよね?」
「だったらなんだ」
尾道がきつい口調で言う。まあ、こっちの世界の人間とのファーストコンタクトは最悪だったし、警戒するのもやむ無しだろう。
というかユーヴェンスのことは普通に警戒しないと駄目だ。シンシア達と仲が良いようだが、それだけでは味方とは言えない。
「ああ、警戒するよね。どう説明したらいいのかな」
ユーヴェンスが顎に手を置いて考え始める。
「うーん、簡潔に言うと俺達は赤い布を頭に巻いた奴らと敵対してる。処刑される君らを助けようとしたタイミングでシンシア達が乱入、今に至るって訳だ。というか君も異世界人でしょ?なんでシンシアたちと?」
ユーヴェンスが俺の方を向く。
「俺はアブロッサムらへんでシンシアさん達に拾われたんですよ」
「アブロッサム、随分と遠いところから来たなぁ。いや上から降ってきたし、どうやって?」
ユーヴェンスの質問は俺ではなく、ゴルドーが答えた。
「転移魔法の痕跡があったから私の魔力を流し込んで、無理やり再発動したんだよ。あそこの広場に《《出口》》がなかったから、私達は空中に転移したんだ」
「座標がバグったみたいなことか」
俺の納得したような口ぶりには気にも留めず、ユーヴェンスはゴルドーに手を差し伸べた。
「また君と戦える時が来ようとは」
「戦うなんて言ってねえだろ。そもそもこの国で一体何が起きてるんだ?まずそいつを説明するのが筋だろうが」
ゴルドーの正論に一同が頷く。ユーヴェンスはそれを受けて、実に簡潔な説明をよこした。
「盗賊団にこの国が乗っ取られたんだ。ゼパル団という、俺や、シンシアたちが撃退した盗賊団だ」
「ゼパル団、なんかいたねそんな奴ら」
シンシアが肩をすくめる。
「まだクレアがオテントに入る前だったわよね。私とエルドとゴルドーでぼっこぼこにしたの。今更復讐しに来たのかしら」
「もう昔のゼパル団じゃないんだ。リーダーが魔族の女に変わってた。そいつがえらく強いやつで───」
「魔族?」
魔族という言葉にシンシアが反応する。魔族云々も大事かもしれないが、ユーヴェンスの語る情報が断片的というか、ゼパル団がどういった集団なのかさっぱり見当つかない。
情報を伝える暇があったらさっさと強力な戦力であるシンシア達を動かしてゼパル団を壊滅させたいのは分かる。
だが敵陣営にメガネがいるのだ。どういう心づもりでゼパル団とやらに寝返ったのか、聞かねばならない。そうでもしなければ尾道達の怒りも収まらないであろう。
「まあ、それはおいおい話す。ひとまず異世界人はゆっくり心と体を癒すといい。我々は君たちの味方だよ」
ユーヴェンスが尾道達に向かって言うと、何人かの兵士が近づいてきて、彼らを先導していった。
それを見届けたユーヴェンスはシンシアとエルドとゴルドーの方に向き直る。
「手伝ってほしいことがあるんだ」
「手伝ってほしいこと?」
「そうだ。偵察に付き合ってほしいんだ」
偵察に付き合ってほしい。ごく普通の頼みごとのようだったが、今のそれは心が締め付けられるような恐ろしい響きを持っていた。




