第31話 クラスメイトの救出
転移魔法陣を抜けた先、眼下に広がる広場には無数の人が集まっていた。広い演説台のようなものが広場の中央に敷設されて、そこに何人か立たされている。上空からでは、何が起きているかは分からなかったが、大きな声が聞こえてきた。
「これより異世界人の処刑を執り行う!」
その言葉に、俺は心臓が跳ねあがる。異世界人、確実にメガネ達のことだろう。
「処刑だって、とんでもないタイミングだね」
シンシアが眉をひそめる。俺はシンシア達に焦りながら伝える。
「異世界人って聞こえましたよね、俺の友達です!」
「やば!突撃!」
シンシアが命じ、俺たちは躊躇することなく処刑台へと降下した。集まった見物人から発せられる喧騒が大きくなってくる。
「早く殺せー!」
「失敗するなよー!」
「泣いてんじゃねーぞ、ガキィ!」
こいつらイカれてるのか? そう思わずにはいられないほどの、逸脱した野次に苛立ちを覚える。人の命を何だと思っているのか。
俺たちは処刑台に勢いよく着地した。ドン、という音と共に、広場が静まり返る。聞こえるのは《《異世界人》》のすすり泣きだけ。
俺は振り返ってその異世界人の顔を見る。痣だらけの尾道が首を紐で括られた状態で立っていた。
「間に合って良かった」
「し、式守か?」
尾道が蚊の鳴くような声で訊ねてくる。俺は頷くと、他のクラスメイトの顔も確認する。おそらく、こっちの世界に来たクラスメイトは全員いる───いやいない。
「メガネは?あいつお前ら置いて逃げたのか⁉」
「いや、今はここから逃げること最優先で───」
尾道がそう言った瞬間、広場が怒号に包まれた。
「てめえらナニモンだァ!」
「俺たちに逆らうってぇのか!」
見物人たちの格好を見て、まともな人間ではないことに気が付いた。上裸の者もいれば、下着一丁の者もいるが、その全員が剣やナイフ、斧を持った《《ゴロツキ》》であった。全員例外なく赤い布を頭に巻いていた。
処刑台に剣を持った男たちが上がってくる。
「この処刑を邪魔することすなわちぃ、我らゼパル団に反旗を翻すことぉ!」
「問答無用の即決即断!皆殺しだァァァ!」
剣を上段に構えて、斬りかかったゴロツキは、一瞬でエルドによって、向かいの建物の壁に叩きつけられ、潰れたトマトのごとく薄汚い鮮血を飛び散らせた。
「エルド、子供がいるからやりすぎないで」
シンシアが厳しい口調でエルドに注意する。だが、エルドは声を荒げる。
「子供がいるからこそ、抑えられるかってんだ!」
斧を両手に握ったエルドはそう言い放つなり、処刑台から飛び降りて下にいたゴロツキどもめがけて斧を振り下ろした。
ものすごい轟音と衝撃とともに、ゴロツキどもが宙に舞う。
「ひっでぇの。全部死んでやがる」
ゴルドーが呆れた様子で肩をすくめる。
「もう大丈夫だからね」
シンシアが優しく声をかけながらクラスメイト達の首に括られた縄を切ってやっていた。自由の身になった尾道達が俺の所に駆け寄ってくる。
「式守、助けに来てくれたのか?」
「まあ、そんなところ。そっちもなんやかんや無事でよかったよ。命あっての物種っていうだろ」
「はは、どれだけ怖かったと思ってるんだ、お前」
尾道達が床に座り込む。服装の荒れ具合を見るに、相当ひどい目にあっていたようだ。
「何があったか聞いても?話せることだけでいいから」
俺が訊ねると、首根っこをグイッと掴まれた。
「おい、こんな敵地のど真ん中で話してる場合か。奴ら、無駄に耳ざといんだ」
「なんで知ってるんで───」
俺が訊ねようとしたとき、誰かが処刑台に降り立った。
「君ら、私についてくるんだ」
全身をローブで隠した、おそらく男であろう声にシンシアとエルド、ゴルドーがハッとする。
「みんな、彼についていくよ!」
シンシアがそう言って全身ローブ男に頷きかける。すると、ローブの男が駆けだした。そんな簡単に信じていいのか分からなかったが、シンシアとゴルドーの反応を見るに、心配はいらなさそうだ。
「信用できる人みたいだから、ついていこう。みんな走れる?」
俺が問いかけると、尾道達は力強く頷いた。こうして俺達は謎のローブ男に連れられて、名前も知らない街を疾走することとなった。ふと、建物の上を見ると、同じようにローブに全身を包んだ人が走っていた。よく見ると、シンシアと同じように、腰元に長方形の箱が付いている。先導している男にも同様のものが付いている。彼のローブには王冠と剣の紋章がでかでかと縫い付けられている。
「どこ行くんです?」
「我々のアジトだ。もうすぐ着くから踏ん張れよ」
男がそう言った時、前から二人、赤い布を頭に巻いたゴロツキが走ってきた。
「仲間のお出ましか。ご帰宅願おうか!」
ローブの男が二振りの剣を抜きはらった。腰元から緑色に煌めくワイヤーのようなものが伸びている。何から何までシンシアと同じだ。シンシアのあの装備はここで手に入れたものだったのか。
男がぐんと加速して、ゴロツキ二人を、鮮やかな回転斬りで斬り捨てた。
「さあ、急いで!」
このようなことを何度か繰り返したうちに、とあるトンネルに到着した。
「ここまでくれば安全だ。さあ、入った入った」
男が俺達に促す。その言葉に促されるまま、俺達はトンネルを歩きだした。何度か長い階段を下ったのち、大きな扉に突き当たった。
「ようこそ、我ら『グリュプス解放軍』へ」
男がそう言って扉を開いた。その向こうの景色に俺は思わず声を漏らした。
「へえ、地下都市───」
扉の向こうには大都市が広がっていた。地上と何ら変わらない、人々が人生を営む街が地下に広がっている。天井に強い光を放つ発光体がいくつも付いている。光だったりの問題は解決しているようだ。太陽の光と同じかどうかは怪しいが。
「ここが我らの拠点さ」
男がそう言ってローブのフードを下ろす。茶色い顔にクリッとした瞳の、端正な顔が現れる。
「ユーヴェンス!ずいぶん成長したわね!」
「それはお互い様だろ?」
シンシアとユーヴェンスと呼ばれた男が親しげに会話を始める。ゴルドーとエルドもにこやかに二人の会話を眺めている。
「ゴルドーさんが微笑んでる、凄いこと」
クレアが目を丸くする。俺も全く同じ感想である。というか、俺が理解していることが何一つない。そもそもここはどこなのか、何故尾道達が処刑されそうになっているのか、メガネが見当たらないこと、何故グリュプス解放軍なるものが組織されているのか。一切の説明がないままここに来てしまった。
申し訳ないが無駄話に付き合う余裕はない。
「感動の再会中悪いんですけど、どこか落ち着いて話せるところに行きませんか?」
全て聞き出してやる。今ここで何が起きているのか、尾道達がどんな目にあったのかを。




