第30話 初キスと新天地
日も西に沈むころ、俺はシンシアさんたちと一緒に平原を歩いていた。お目当てのものは、俺のクラスメイト達が向かった謎の街である。
初めてオテントと出会った時のことを思い出しながら謎の街があったであろう場所を目指す。
「お友達がその街にいたとして、二ヶ月ももたないでしょ」
「私も同意見。そもそもそんな街はないってシンシアが言ってんだ」
シンシアの予想にゴルドーが同意する。バスのガソリンは充分だっただろうし、ある程度の食糧も問題ないはずだ。みんなのリュックはバスの中で手つかずのままだった。お昼前であったし、弁当を食べて飢えを凌ぐこともできるだろう。
「それはそうですけど、一応食糧とかはあったんで。というか、そもそもあいつらも俺と同じなんで、スキルを駆使して安全な所に逃げてる可能性の方が高いですよ」
なんせ全知スキルを持ったメガネがいるのだ。それにクラスの中心の尾道もいる。上手いことみんなをまとめてくれているだろう。
そんなことを考えながら歩いていると、草が途切れ途切れになる場所があった。
「あれ、なんか草がないところがありますけど」
「なんかの模様か?」
「確認してみます」
俺は浮遊スキルで浮き上がり、見下ろす。かなり広い範囲に、いくつも丸が重なったような跡がついているのが見えた。
「丸がいっぱい重なってます。魔法陣ですかね」
「へえ、魔法陣ねぇ」
ゴルドーが地面に手をついて何かを探りだした。
「これ、転移魔法だな。それもかなりの規模の、五人以上で構築されてる」
「そんなにですか。なに転移させたんですかね」
クレアが首を傾げる。そんなの一択に決まっている。
「多分、俺の友達は連れ去られたのかもしれません」
「はえ、突飛だなぁ」
「バスに乗ってたんで、そこを連れ去られたのかも」
「バス?」
バスという単語にシンシア達が首を傾げる。
「ああ、馬車より速い───」
そこまで言ったとき、アスターたちと乗った馬車を思い出して言い直す。
「こっちの馬車と同じぐらい速い乗り物です」
「へえ、じゃあそれごと転移させられたのかもね。ゴルドー」
シンシアがゴルドーに促す。すると、ゴルドーはまた地面に手をついた。ごう、と強い風が吹き、魔法陣が光り輝き始めた。
「再発動したけど、行くか?」
「いや、転移先がどこか分からん以上、すぐに飛び込むのは得策じゃないだろう」
エルドが冷静な意見を述べる。彼の言う通り、この転移魔法がどこに繋がっているのかわからないのだ。敵のど真ん中、あるいは怪物の巣に繋がっているかもしれない。
「うーん、それもそうだね。いったん街に戻って、準備しよう。出発は明日でいい?」
「魔法陣は二日はもつ。それで問題ない」
ゴルドーが言うと、クレアとエルドも異論はないという風に頷いた。もちろん俺もそれに賛成だ。探しに行きたいのもやまやまだが、短慮でひどい目に合うのはごめんである。
街に戻ったオテントのメンバーはそれぞれが必要であると考えた準備をおこなった。外はすっかり暗くなり、星が瞬いていた。
「えー、アブロッサムから出てっちゃうの⁉」
ギルドにベスの声が響き渡る。俺はベスと約束していた晩御飯を一緒に食べていた。
「はは、友達と合流しないといけないし」
「友達と合流したら帰ってくるよね?」
「元の世界に帰る方法がなかったら戻ってくるよ。まあ、あっても挨拶しに戻ってくるけどね」
「そういう問題じゃないんだけど」
ベスがすっかりむくれている。流石に家族をほっぽりだして異世界生活を楽しむわけにはいかない。アブロッサムでの生活も楽しいが。
「もしかしたらこっちと向こうの世界を行き来する方法だって見つかるかもしれないんだから」
「そうなったらシキモリ君の住んでるところに行けるの?」
「そうなるけど、行きたいの?」
「結婚するなら両親に挨拶するのは普通じゃない?」
ベスがとんでもないことを言い出した。ベスの好意に気づいていなかった訳ではないが、確証は持っていなかった。これからゆっくり探っていくというか、確認作業を行っていくつもりだったのだ。
「結婚?いやまだ付き合ってないし───付き合ってないよね?」
俺はどぎまぎしながら訊ねてみる。顔が真っ赤になっているのが嫌というほどわかる。顔から火が出そうだ。
「どうだろうね」
ベスはいたずらっぽい笑みを浮かべてこちらを見る。からかっているのかと思ったが、彼女の顔も真っ赤になっている。
「あ、えと、俺はそんなつもりはなかったんだけど、ベスが良いなら───」
「悪い訳ないよ」
ベスが身を乗り出して俺に口づけする。異性との初キスがよもや異世界であろうとは。人生一体何があるか分からないものである。ふわりといい香りが鼻をくすぐる。
ベスが離れて、少し俯く。かなり勇気を出したのだろう。少し気まずい空気が流れる。
「───ご飯食べ終わったら、ウチくる?」
ベスがぽつりとつぶやく。答えは一つしかない。
俺は勇気を振り絞って頷いた。
次の日の朝。シンシア達の《《ニヤニヤ》》にさらされながら、俺はヘレナさんやヴィグラッドさん、アスターたち、二ヶ月ちょっとの間にお世話になった人達に挨拶をして回ってた。
「うちの妹、絶品───」
シンシアが時折下品な質問を投げかけてきたがゴルドーにぶん殴られてから一切喋らなくなった。自分の妹に関してあんな質問ができるなんて、やっぱり頭がおかしい人なのだろう。
挨拶をしながら歩いていると、外壁の門のところまで来てしまった。そろそろアブロッサムとお別れの時間だ。
ヘレナとベスがお見送りについてきてくれていた。
「お別れだな。お前らがいなかったらアブロッサムはどうなっていたか。シンシアには言いたいことが山ほどあったんだが、もう忘れちまった」
ヘレナがシンシアをギュッと抱きしめる。
「またな、親友。達者でな」
「ヘレナ───泣いちゃうよぉ」
シンシアが涙目になる。すると、ヘレナはシンシアの額を指ではじいた。
「バカ、七年前もそうやって出て行けよ」
大人の友情に感動していると、ベスが俺の手を握った。
「浮気とかしちゃ駄目だよ。怪我しても駄目、危ないことしても駄目!」
「それは保証できないけど───必ずアブロッサムに帰ってくるよ」
「約束だからね」
「約束だ」
お互いの手をぎゅっと握ると、その手を離してシンシア達と共にアブロッサムを出た。そこからの飛行魔法と浮遊スキルで魔法陣の所まで飛んだ。
魔法陣は未だに光を放っていた。
「よーし、このまま突っ込んじゃおう」
「え、それ大丈夫なんですか?」
「魔法陣に触れた時点で転移魔法は発動される!スリル満点だな!」
魔法陣がぐんぐん近づいてくる。魔法陣と激突しようかというとき、草原が消えた。どうやら巨大な広場の上空に転移させられたらしい。何か声が聞こえてくる。その聞こえてきた言葉に、俺は驚愕することとなる。
「これより,異世界人の処刑を執り行う!」




