第25話 百鬼夜行を止めるためには
「リュックサック盗んだガキィィ!ここまで来ォォォい!」
突然鳴り響いた怒号に街が恐怖する。
「リュックサック盗んだガキ、俺のことか⁉」
あのダンジョンからリュックを持ち帰ったのは悪手だったか?
ベスとともに魔獣を殴りながら考える。カオスがあそこに帰ってくることは想像がついたはず。カオスの正体に差し迫った興奮で判断を誤ってしまった。リュックを持ち帰らなければ、俺がカオスの正体に迫っていることに気が付かれずに、ひいてはこんなことにはならなかったかもしれない。
「今の、誰?」
「カオスだ、俺のことを呼んでるみたいだ」
「一人で行くの?私も行こうか?」
ベスが心配そうに言う。どの道、魔力を伴った攻撃は効果が薄いみたいだし、ベスは連れてはいけないだろう。そもそもベスも限界が近いようで、大きく肩を切らせている。
「ベスはもう限界でしょ、温存して───」
「シキモリ君!」
またもや飛び込む怒号。それはシンシアのものであった。
「さっきの怒鳴り声ってシキモリ君のことだよね?」
「おそらく、早く奴を止めないと」
「そうだね、これ以上この街に手を出させるわけにはいかないもんね」
シンシアはそう言った後、ベスに近寄った。
「魔力をずいぶん消費したわね、ハナから飛ばしすぎよ。」
シンシアがベスの手を握って忠告する。
「死にそうと感じたらすぐに逃げるのよ、良いわね」
「分かった、でもそれはお姉ちゃんも───」
「私はこの町で一番強いんだよ、死ぬなんてありえないんだから」
中々頼もしいことを言ってくれる、と思いながらおれはシンシアに促し、カオスのもとへ向かった。
「さっきベスさんの手を握ったのは?」
「ん?魔力供給と姉の愛を」
「はあ。そんなことより、魔獣相手はどんなです?」
「普通の魔獣よかやりにくいね。攻撃が滑る感じ」
シンシアが刃をチラッと見る。
「手入れはしっかりやってるんだけどね」
「相手は普通の魔獣とは違うんでしょう?相性の───」
そこまで言いかけた時、白い触手が俺たちを狙って伸びてきた。即座に回避行動を取り、カオスの方をうかがう。
おそらく顔であろう部分がこちらを向いている。ヘレナさんと一緒のときに遭遇した時とはまるで姿が違う。
「来たか、ガキ」
カオスがこちらに飛来する。
「来た、浮遊で───」
俺とカオスがぶつかりそうになった瞬間、シンシアが間に割り込んで、攻撃を受け止めた。激しい火花を散らせながら二人がきりもみしだす。
「この街に何か恨みでもあるのかな?」
「ああ、そこのガキが住んでるからな。だからこの街も嫌いだ」
「───舐めてんの?」
シンシアが剣を振りぬいてカオスを弾き飛ばした。
俺が住んでるからこの街が嫌い?どういう理屈なんだ?
「お前、俺のリュックを盗んだだろ?ママにあげる宝物も」
「確かにリュックは持って行った。申し訳ない!けど宝物はギルドの人が持って行った、俺たちは関係ない!」
「やっぱ泥棒じゃないか!返せよ、帰るときにいるんだよ」
カオスの声が震えだす。
「帰るとき?元の世界に帰る方法を知ってるのか⁉」
「こっちに来たときに女神さまとかいうやつが言ってたんだ。魔王を探し出せば向こうの世界に帰してくれるってな」
「魔王?突飛な話が過ぎるんじゃないか?」
俺はいきなり出てきた魔王という単語に眉をひそめる。
「知らねえよ、女神さまがそう言ってただけだ。お前も向こうから来た人間なのか?なら協力しようぜ」
カオスがヘラヘラしながらこちらに提案してくる。
「なら百鬼夜行を今すぐ終わらせろ、それが協力する条件だ」
「図に乗んなよガキィィ!」
カオスが激昂して俺につかみかかる。その腕を掴んで俺は思いっきり下に向けて投げ飛ばした。
「俺のやりたいことの邪魔してんじゃねぇぇぇ!」
地面に叩きつけられたカオスが怒鳴り散らす。
「お前の望み通りイレギュラーになってやったんだぞ!」
「つまんないイレギュラーはバグと同じなんだよ!求めてないし───ああああああああ!」
カオスはついに発狂したのか、感情の制御が全くできていない。
「シンシアさん、あいつなにしでかすか分かりません。早くケリつけましょう」
「魔王に何の用が───え?何か言った?」
「あいつ発狂して何しでかすのか分からないんで、とっととケリつけましょうって言ったんです!」
こんな時に考え事か、と思ったが人のことは言えない。常に新しい情報が入ってきて整理をせざるを得ない。集中しなければ。
そう思った矢先に、燃え盛る巨大な瓦礫が吹っ飛んできた。
「今度は何!」
瓦礫が飛んできた方角を見ると、巨大な怪獣のようなものが尻尾で街を薙ぎ払っているのが見えた。時折、怪獣の体表で爆発が起きる。
「なんかヤバいのがいる!」
カオスのやつ、どれほどの手札を用意しているのだろうか。よほどの想いが百鬼夜行を決行させるに至らしめたのだろう。
元の世界に帰るという共通目的をもつ者であることが分かったが、それがカオスと手を組む理由にはならない。
破壊規模で言えばあの怪獣の方がカオスに勝るだろう。優先すべきは怪獣だが、カオスを放っておくわけにもいかない。
「シンシアさん、あのでっかい魔獣を倒してきてもらえますか!」
「いいけど、シキモリ君一人で大丈夫⁉」
「カオス自体、そこまでパワーはなさそうなので持ちこたえられます」
「分かった、ヤバくなったらこっちに逃げてきなよ」
シンシアはそういうと、怪獣の方へ向かった。と同時に、カオスが急上昇してくる。
「一騎討ちか、俺ごときガキ一人で十分だってか?どこまでも俺をバカにするよなァお前らは!」
「いつお前をバカにしたんだよ!」
伸びる触手を避けながら俺は叫んだ。激しい被害妄想をこじらせているのなら話し合いは不可能だと考えたが、そもそも話が通じると思っていた自分に驚いてしまった。
カオスを倒して百鬼夜行を止めさせる。この街を救うにはこの方法しかない、改めて心に刻んでカオスと対峙する。




