第24話 攻撃通ってるじゃん
図書館に近づくにつれて、人々の悲鳴が聞こえるようになってきた。避難する住人の群れを魔獣が襲っているのだ。
「図書館の近くに四体も魔獣が!」
「二体ずつね!」
ベスはそう言うと、魔獣の所へ飛んで行ってしまった。
二体ずつ?決定打を持っていない俺に魔獣を倒すことなんてできるとは思えない。だがやるしかない。
図書館に一番近いところにいる魔獣めがけて浮遊を放った。人間に手を伸ばしていた魔獣が吹っ飛んで倒れる。
「吹っ飛ばせはするけど───」
魔獣がのそりと起き上がる。
「やっぱダメージにはなってないか」
色々応用の効きそうな浮遊スキルだが、肉をえぐったりすることはできないだろう。魔獣がこちらに向かって高速で舌を伸ばした。
それを避けながら俺は魔獣に近づいて思いっきり殴ってみる。いうて高校生の本気パンチの威力などたかが知れている、と思ったのだが。
「ゲオオッ!」
魔獣が呻き声を上げて後ろによろめいた。
「攻撃通ってるじゃん!」
思わず声に出して叫んでしまったが、気を取り直して思いっきり蹴りつけてみる。すると魔獣は腹の中のものをすごい勢いで噴射した後、声を上げることなく倒れ込んだ。
「魔獣の耐久性は───カオスに準拠してるのか?あいつに魔力がないなら魔力による身体強化もできないわけで───」
そんなことを言っている場合ではない、今は魔獣の排除が最優先だ。自分を律し、もう一体の魔獣の所に飛ぶ。もう一体の魔獣は憲兵数名と交戦していた。憲兵に夢中な様子を見た俺は、魔獣の頭にかかと落としを叩き込む。
と言ってもそれほど格好いいものでもなく、脚を前に伸ばした状態で急降下しただけの不細工なものであった。しかし効果はてきめん。
魔獣が血をはいて倒れこむ。
「大丈夫ですか!」
「ああ、助かったよ」
憲兵が顔に付いた血を拭いながらこちらに手を振る。
「魔道武器の効きが悪い、気を付けて戦ってくれ!」
憲兵の言葉に俺は困惑する。
「魔道武器って何ですか!」
「魔物に効果てきめんな武器だ!」
効くわけがない。相手は魔物でも何でもない、魔力を持たない人間の一部でしかないのだから。
「引き続き防衛をお願いします。あと、騙されたと思って魔力を一切使わずに魔獣を殴ってみてください!」
「俺らに死ねっていうのかー!?」
憲兵がなにか言っているのをよそにおれはベスの援護に向かった。
アスター達は突如として現れた何体もの魔獣に対し、果敢に攻めていた。積み重ねてきた経験とチームワークは一級品で、華麗に魔獣を倒していく。
「なんか、魔獣が集中してる場所があるな。おい、お前ら!」
アスターがドウェインとハイラに呼びかける。
「魔獣が集中しているところがある!そこに行くぞ!」
ハイラがアスターの指さす方を見てハイラが悲鳴を上げる。魔獣の群がるさまは、さながら腐肉に沸くウジ虫のようであった。
「うわ!気持ち悪ッ!」
「なんであそこに⁉ あそこなんて詰め所しかないのに───」
ドウェインも困惑するしかない。しかし彼らは同時にチャンスなのではないかとも考えた。
庶民の居住区域がどうなっているかは分からないが、こっち側の魔獣はあらかたあそこに集まっているようだ。
「壁をぶっ壊す勢いで技を叩きこめば、あそこの魔獣を一掃できるんじゃないか?」
「お前───俺と同じこと考えてた」
アスターとドウェインが顔を見合わせてニヤッと笑う。そこへヘレナが飛んできた。
「ヴィグラッド長官は!?」
「え、ご家族と一緒に議会の方へ避難してますけど。たしか避難指示も並行しておられ───」
「そうか、だとしても───!」
ヘレナが苦虫を嚙み潰したような表情で魔獣の群がる壁際を見る。彼女は動ける尋問官を招集、半分を避難誘導、もう半分を詰め所───治安強制局の本部での待機を命じていた。
『念話魔法での返答がこない。あそこにいた尋問官は全滅か、本部待機を命じた私のせいで』
ヘレナがアスター達の方を向いて言う。
「尋問官の半分はあそこの詰め所でやられている、お前らがここの防衛の要だ!」
「半分!? なんだってそんな、いやどうでもいい。魔獣を全部ぶっ倒せば万事解決だ」
その時、空が蒼く光ったと思うと群がっていた魔獣が互いを喰らい始めた。互いが互いを喰らい、その肉の境界線があいまいになっていく。そうすることを繰り返していき、いつしか魔獣の群れは一つの巨大な粘性生物へと変貌していた。
背中からいくつもの鋭い棘が突き出ており、太い腕の先には鋭い爪が光る。強靭な尻尾が動くたび瓦礫が舞い上がる。その姿はさながら怪獣であったが、ヘレナ達の頭にはそのようなことは思い浮かばなかった。ただただ生命の危機を感じさせる、未知の生物としか認識できなかった。
しかし、その認識をもってしてもヘレナ達の戦意が折れることはなかった。
「私とハイラであの怪物に隙を作る。お前らはその隙をついて合技うんたらかんたらをぶち込め、いいな」
「冒険者を信用していいんすか?」
「ヴィグラッド長官の認めたパーティだからな。それなりには信用している」
「それなりなんだ......ま、いっか。アスター、ドウェイン、私達が命かけるから、あんたらも命かけなさいよ!」
そう言うと、ヘレナとハイラは怪物の方へ向かった。
「言われなくても」
「毎日命かけてるよ」
アスターとドウェインが魔力を高め始める。
アブロッサムの中心に位置する上空に、百鬼夜行発動のトリガーを引いた物体が浮かんでいた。全身が白い、枯れ枝のような形をしている。腕も指もヒョロヒョロと力なく伸びている。辛うじて人間だった名残として、左眼あたりが残ってはいるが、その目は虚ろに眼下の地獄を見下ろしている。カオスは自我を失い、スキル『粘性物質』に乗っ取られかけていた。
カオスの膨大に膨れ上がったシキモリに対する感情は、アブロッサムに対する理不尽極まる憎しみへと変化していた。
カオス、いやフレンズが唇の無い、歯も歯茎もむき出しになった口から願望を吐き出す。
「リュックサックを盗んだガキィィ!ここまで来ォォォい!」
そう言ってフレンズは高笑いし始める。
「ハハハハハ!殺してェェ!」




