第22話 向かう調査団
宿屋に戻った俺はすぐに階段を駆け上がり、自室へ向かった。
「シキモリ君、大丈夫だった?地面が揺れたみたいだけど」
ドアを開けるなり、シンシアが慌てて駆け寄ってくる。
「それは大丈夫です、その揺れの原因と思われる物がこっちにきてます!」
俺のその言葉を聞くなり、エルドたちが窓から飛び出していった。
「原因?」
「地面から浮き上がったんだと思います。ベスさんがギルドの人達を呼びに行ってます」
「分かった、ひとまずその原因とやらを拝まないとね」
シンシアも窓から飛び出す。俺もそれに倣う。また階段を駆け下りるなどと悠長なことはしていられない。
下を見ると、地震に心配したのか多くの人が外に出てきていた。
「見えるでしょう、あそこ!」
俺が宙に浮かぶ物体を指さすと、シンシアが舌打ちする。
「あれ、魔力が感じられないけど」
「え、じゃあカオス関連じゃないですか。あれが百鬼夜行の正体とか?」
「あそこから百体の魔獣が降ってくるのかもね。そうならラクなんだけど」
「ラク?」
「あそこで始末しちゃえばそれで解決だから」
シンシアが平然と言い放つ。ここからでも相当な大きさのあれをたった一人で葬ることができるというのだろうか。遺跡での対ゴーレム戦を間近で見ていた俺からすると、あながち彼女の言うことが荒唐無稽でないことが分かる。
「おーい、シキモリ君、お姉ちゃん!」
ベスがこちらに向かって手を振っている。
「冒険者はギルドに集合してって、ギルドマスターが!」
その言葉を聞いて、俺とシンシアはすぐに冒険者ギルドに向かって飛んだ。
ギルド内は冒険者たちでごった返していた。エルドが俺とシンシア、ベスに気が付いて手を振って居場所を示した。
「おーい、こっちだ!」
エルドたちの所に向かい、着席する。それと同時に、ひげ面のギルドマスターがお立ち台に立って声を張り上げる。
「現在、エメンタール遺跡方面から出現したと思われる巨大な飛行物体がアブロッサムに迫っている。諸君らはこれの調査にあたり、概要の調査及び危険度の選定を行ってもらう。対象が敵対行動をとった場合は速やかに撤退しろ。調査団はディルク班、バーバラ班、セリジス班の計十二名で編成する。うちの選りすぐりの冒険者パーティ達だ」
「十二名がその場で全滅した場合はどうするんだ?」
ゴルドーが挙手してギルドマスターに訊ねる。
「調査中は念話魔法の回路を繋いだ状態で行う。全滅した時点で作戦を変更するさ」
「そんなんで大丈夫かよ......」
ゴルドーが心配そうに呟く。人に冷たい彼女だが、人が死ぬことが平気な訳ではない。
「私もついていく、構わないだろう?」
「ダメだ、お前のパーティはこのギルドに登録されていない。部外者がちょろちょろするな!」
「はあ⁉こんな時に規則がどうこう言うのか、このぶっ禿野郎!」
「余計な混乱を防ぐためだ!どうしてもというなら後方支援だ!」
ギルドマスターの一喝にゴルドーが舌打ちで返す。ギルドマスターの言っていることは至極真っ当だし、言い返す言葉もないだろう。
「そういえば、ヘレナさんはこのこと知ってるのかな?」
俺はベスに耳打ちする。するとベスは驚きの言葉を返した。
「そりゃあ、尋問官だもん。とっくに動いてると思うよ」
「へ、尋問官だってこと知ってるのか?」
「言ったでしょ、ヘレナさんに鍛えてもらってるって」
自分が尋問官であることを教えているあたり、ベスを信頼しているのは当然のこと、尋問官の卵としてベスを鍛えているのではなかろうか。
「ああ、言ってたな───」
今重要なのはそんなことではない。ディルク班、バーバラ班、セリジス班であろう十二人がギルドを出ていく。
「僕たちも外で待機しましょう」
俺がそう言うと、シンシア達が頷いて立ち上がった。外に出ると、調査団の面々が飛行魔法で飛び立つのが見えた。
「そういえば、アスターさんたちはどこに」
「あの人らは貴族のお抱えだからギルドとは関係ないんだよ」
ベスが言う。ところで彼女はいつまでここにいるのだろうか。
「危ないから、帰った方が良い」
「危ないのはシキモリ君も一緒でしょ」
「それはそうだけど───」
「私はシンシアの妹よ、そこらの冒険者なんて目じゃないわ」
ベスが胸を張って宣言する。いったいどうしたものかと思い、シンシアに目線を送って助けを求めたが───。
「よく言ったわねベス、お姉ちゃん見直したわ!」
ベスの七年間の成長を微塵も知らない本人がこの有様である。何をもって見直したと言えるのだろう。
「後悔しても知らないからな」
「ふん、公開するもんですか」
俺の忠告にベスが威勢よく応える。ヘレナさんが鍛えているのだ、半端なものではないだろう。大丈夫だと良いのだが。
アブロッサムを囲う壁を飛び越えて、ディルク班、バーバラ班、セリジス班からなる調査団は、アブロッサムに向かってくる物体に全速力で接近していた。
「こちらディルク、対象の姿がはっきりと見えてきた。形は楕円体、色は白だ。腹側に赤ん坊みたいな手がある」
接近するにつれてその姿の異様さが心を蝕んでいく。バーバラが震える声で言う。
「近くまで行った方が......良いよね」
「ああ、何もないことを証明するためには必要だ」
セリジスがバーバラの意見に賛同する。脅威度がなければ無視しておいても大丈夫なのだ、それを確かめるのが彼らの役割だ。調査団は慎重かつ迅速に白い物体へ近づいて行った。
その白い物体に魔力がないことにはまだ誰も気が付かなかった。そしてその気付きの遅れが彼らを地獄へといざなうのだった。




