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第11話 心が子供のままのアレな人

 月明かりが黒ずくめを照らす。おかげで随分と視認しやすくなった、あとは一人ずつ墜としていくだけだ。

「どんどん行くぞ!」


 指先から『浮遊』を放ち、黒ずくめをどんどん吹っ飛ばす。

「何をやってる!」

「魔力が感知できないんです!」

「指先から攻撃を放ってるんだ、よく見ろ!」


 そう言うなりベスは俺の放った『浮遊』を避けて見せた。

「ええ、もう対応されてる......」


 一筋縄ではいかないとは思っていたが、こうもあっさりと対応されるとは。

「というか、たった一日そこらでスパイが騒動起こすわけないでしょーが!そもそも議会の許可もえらく迅速だったな」

「ちょうど議会が開かれていたのよ、色々タイミングが重なって今に至るの。あなたこそ逃げ回ってていいの?あなたと一緒にいた冒険者仲間にも迷惑がかかることになるけど」


 ベスの言葉に俺はハッとする。疑われているのは俺だけではない、エルドやゴルドー、クレアも同様に疑われているのだろう。ここで下手を打つと、彼らまでお尋ね者になってしまうかもしれない。

「───向こうに迷惑かけるわけにはいかないな。わかったよ」


 俺はゆっくりとベスに近づいていく。ベスの瞳が妖しく光る。

「分かってくれればいいのよ」


 ベスが俺の手を取ろうとして───切断される。斬られた腕が月夜に舞う。

「うえっ!?」


 何の前触れもなく切断されたべスの腕を見て俺は思わず目を背ける。誰かが俺の腕を掴んで、ともに地面に降りる。

 葉巻の煙たいにおい、一瞬でだれか分かった。

「ヘレナさん?」


「危ないところだったな」


 ヘレナが刀身の短い剣を構えながら言う。

「お前、尋問官に手を出してただで済むと思うのか?」


 べスが痛がる素振りも見せずにヘレナに訊ねかける。

「お前らみたいな尋問官、部下にいたかな」


 ヘレナが首をかしげる。

「ヘレナさん、尋問官なんですか?てか尋問官って何ですか?」

「質問は後。こいつら人間じゃない、魔獣の類じゃなさそうだが───」


 そう言った途端、べスの腕が骨、筋肉、皮膚の順で再生した。なるほど人間の芸当ではない。

「ははは、ご名答」


 乾いた拍手とともに、誰かが茂みから出てきた。ぼさぼさの長髪に細い目、ダボっとした薄汚い衣服に身を包んでいる。骨ばった長い指を打ち合わせる姿に得も言われぬ気色悪さを感じる。

 貼り付けたような笑顔のまま男は右手を掲げた。すると、べスや他の黒ずくめが白い粘性物質へと姿を変え、男の右手に集まる。

「あの子供を使ったのは無理があったかな」

「ベスに何をしたんだ?」

「何もしてないよ。彼と一緒にいるところを見て使えると思って顔を真似ただけ」


 ヘレナの問いかけに男はひょうひょうと答える。細いながらも鋭い眼光が俺の方に向いている。

「彼を狙った理由は?」

「シンシアの仲間の中で一番弱そうだったから。シンプルだね、こっちからも聞いていいかな?なんで君は気が付いた?」

「ベスがありえない速度で走ってたからな。あいつはあそこまで足速くねえよ、てめぇの観察不足だ」


 静寂があたりを支配する。

「観察不足、か。言い訳がましくなっちゃうけど、突発的に考えた作戦だしね。多少の粗は想定内だよ。それに収穫もあった」


 男がヘレナへ指をさす。

「君が尋問官、それも上の方の立場のやつだってこと。尋問官ってなかなか鬱陶しいからね、優先して潰す対象が絞れてよかったよ」

「お前、フリット王国のか?」

「そんなわけないだろ、アブロッサムにずっと住んでるよ」


 ヘレナと男のやり取りがひと段落する。この男は昼間の魔獣襲撃事件に関わっているのだろうか。ふと、そんな疑問が頭をよぎる。

「私のことはカオスと呼んでくれ」


 男が俺に向かって言う。唐突な厨二病の発症に面食らっていると、男はさらに続ける。

「君はきっと、僕の計画のイレギュラーになる」

「計画?まだ何か企んでるんですか?」

「後は発動を待つだけなんだけどね。混沌(カオス)は自分の手で引き起こさなきゃいけないけど、手綱を握れるようじゃ結果が見えてつまらないよね」


 男が訥々《とつとつ》と語りだす。

「面白いものを見るためには、時として手塩にかけたものを手放し、成り行きに身を任せるべきなんだ」

「何言ってんだ、こいつ」

「あれですよ、心が子供のままのアレな人」

「情けない奴か」


 ヘレナが鼻で笑う。

「好きに笑えばいいさ。私の放つ『百鬼夜行』を盛り上げてくれればそれでいい」


 男が言った『百鬼夜行』という言葉に俺は驚愕した。

「なあ、あんた───!」


 俺が訊ねる前に、男は白い粘性物質を地面に叩きつけた。その物質はフラッシュバンのごとき閃光と爆音を放った。

「うわ!」

「くっそ!」


 俺とシンシアはほぼ同時に飛び上がった。視力と聴力がじわじわと戻ってくる。地面を見ると、男の姿は消えていた。

「地面に跡がついてない?爆発じゃないのか......」


 ヘレナが困惑する。

「フラッシュバン、目くらましってやつですよ」


 俺が教えてやると、ヘレナは興味深そうに頷いていた。男がフラッシュバンを使ったことなどどうでもいい。問題なのは男が言った『百鬼夜行』である。

 こっちの世界にそういう概念があるのなら、それまでだが───。

「あの男、俺と同じかもしれません」

「は?」


 ヘレナが怪訝そうな顔をするが、すぐに真剣な顔に切り替える。

「私は本部に戻ってこのことを報告する。お前はシンシアの所へ行け、このことはまだ言うんじゃないぞ!」


 そう言ってヘレナは本部があるのであろう方向へ飛んで行ってしまった。俺もすぐにシンシアのところに戻った方が良い。またいつ襲撃されるか分からない。強い人に守ってもらった方が安心だ。

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