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竜の魔道  作者: 香月優希
第一章 蒼き竜の旅立ち
3/9

壮大な計画 3

 遥かな昔──

 古(いにしえ)の魔術師が、大陸を縦断するドラガーナ山脈(竜の背)を挟んで北と南に開いた慈恵(じけい)の祠と慈源(じげん)の祠は、瞬時に山脈を越えて行き来できる、大陸唯一の瞬間移動装置であった。

 だが、莫大な磁場の歪みを発生させるため、それに抵抗できるだけの魔力を有する者でなければ抜けられず、使える者はほんの一握りだったという。

 しかし中には、そぐわぬ能力でも抜けようとする者が現れ、そういった者たちは磁場に飲まれたのか、二度と戻ることがなかった。そんな事例が増えれば、人の世というものは悪い噂の方が格段に伝播する。やがて祠は、人喰いの祠と呼ばれるようになり、畏れられるようになる。

 そして。


「──慈源の祠は現在は封鎖されているが、星莱(セイライ)の社(やしろ)の管轄下にある」


 蒼惟(アオイ)はその部分を、確認するように思わず声に出して読んでみてから、顔を上げた。

「星莱の社?」驚きを隠せない蒼惟に、

「柊(シュウ)の実家だな」

 とフィルディアスが続いた。

「え……管轄下ってことは、管理してるってことだよな? そんな──知らなかった」

 星莱の社は、イリユス神殿と山脈を隔てたあちらとこちらで連携を取りながら、向こうでの魔物出現地域との境界線を見守ってはいるが、他にはあの辺りの神事などを担っているだけだと思っていた。

「まあ、実際には今、祠はほとんど忘れられた存在だしな。大っぴらに知れ渡るような情報でもないだろう」

 フィルディアスは大して意外でもないような口ぶりだ。

「知っていたのか」

 蒼惟が問うと、フィルディアスは手を頬に当てて肘をつき、口を開いた。

「さっきから、どこかで祠の話を聞いた気がすると思っていてな……それを思い出したのさ。いや、柊からじゃなくてな。聞いたのは親父からだ」

「フィルの父上……イルギネスが知ってるなら、父上も知ってるってことだ。でもさっき、柊の実家が関係してるなんて一言も」

 言いかけて思い当たった。啼義(ナギ)が蒼惟の話に乗り気でないことは明白だ。そんな情報を提供するはずがない。

「自分の家でもある社が管轄している祠なら、柊はここにある以上の情報を持っているのかも」

「そりゃ、代々受け継がれている話や資料があってもおかしくはない」

「だったら話が早い」

 蒼惟は嬉しそうだ。しかし、フィルディアスは思案顔で述べた。

「だからって、あいつは今ここにはいない。会いに行くにも、星莱は遠い」

 当たり前の指摘に、蒼惟は「うん……」と視線を彷徨わせたが、すぐに「あっ」と口を開いた。

「もうじき羅真丸がイリユス港に戻って来るよ。月末に山脈の向こうへ向けて出航するはずだから、乗せて貰えば山越えしなくても行ける」

 羅真丸とは、イリユスを拠点に大陸周りで航行している貿易船だ。船長と副船長が啼義の昔馴染みなこともあり、寄港する際はいつも土産を持って神殿を訪れてくれている。あるいは、啼義が港周辺の様子伺いを兼ねて、船の方に出向くこともあった。

「なるほど。それならだいぶハードルが下がるな」

 蒼惟の機転の速さは、フィルディアスも感心するところだ。ただ──

「でも蒼惟様。さきほどのお話を聞いた感じでは、啼義様を説得するのは、かなり大変そうですよ」

 フィルディアスはわざとらしくあらたまった様子で返したが、その目は面白そうだと言っている。蒼惟がこう見えて案外頑固なことも、彼はよく分かっていた。一度決めると、納得するまでは引き下がらないのだ。

 蒼惟は立ち上がった。

「もう一度、父上に話してみる。柊のことも聞きたい」

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