震度1 <揺れは突然やってきた>
なぜこうなった。西野隼人は体中を恐怖で震わせていた。もう何度絶叫したか分からない。体中を殴られ皮膚も一部剥がされた。そしていま小柄の薄気味悪い男が何かしゃべっているが、意識が朦朧とし聞き取れない。次第に意識が薄くなっていく中、隼人は自分の死期を悟った。走馬灯のように記憶が駆け巡る。あれはいつだったか、、、、
西野隼人は凡庸な大学生である。偏差値50行くか行かないかぐらいの都内の外国語大学に通っている。実家が地方のため現在は一人暮らしだ。今日も帰ってから親友である西村涼とオンラインで会話している。西村は都内の有名私立大に通っているイケメンだ。
「隼人はさ~もっと押すべきなんだよ。押さないから佳鈴ちゃんをとられちゃうんだろ?」
「そんなこと言ったって恥ずかしいじゃんか」
「かぁ~、呆れたなあ。恥ずかしいのはそのときだけだって」
「イケメンには俺の気持ちなんか分からんよ」
「そんなことよりさ、」
涼は話を変える。
「ここ5年くらいですげーはやってる楽園っていう薬があるじゃん?俺も一回だけ飲んだことあるんだけどすっげーやばかった」
「そんなこととか言うな。あ~楽園?その話はあんま聞きたくないんだけど」
涼は面白半分に話を切り出す。
「まあ聞けって。最近やばい噂が流れれてさ、なんでもユーチューバーで楽園を紹介してる人たちの最近の動画がやばいんだって」
「ああ最近はやりの神ユーチューバー 金と運でしょ?」
「そうそう。でさキントウンがさ昨日投稿した動画がこれ」
涼は動画をPC上に共有した。髪色が真ん中から左右に金色と茶色になっている人が、ユーチューバー辞めます、と題した動画で上裸でうろんな目でぼそぼそしゃべっている。
「え?何言ってるのか全然分からないよ」
「だろ?明らかにやばいよな。ネットで楽園は麻薬の可能性があるって騒がれてもいいはずなのにそれを話題にしてる記事はほとんど無いんだ。おかしいとは思わないか?」
「たしかに、なんでだろう」
「なにかよくないことが進んでるのかもしれない」
「考えすぎだよ」
そのとき隼人は特に心配することはなかった。しかし隼人の知らないところで世界は毒に蝕まれつつあった。
異変が生じたのがそれから3ヶ月のことである。その日隼人はアパートの自室で最新のゲームソフトで遊んでいた。
「これを、こうして、、、あ、逆だった! んがー」
自身の操作するキャラクターのHPが0になった。隼人は生来のゲーム音痴である。そのため昔から一人でゲームをすることが多かった。
「まあ、下手くそでも楽しめるゲームは無限にあるのだ」
気を取り直してコントローラーを持ち直したそのとき、じりりりりりりりりりとスマホの着信音が鳴った。誰かと思えば5年前母と離婚した親父である。今更俺に何の用なんだか。隼人はためらったが電話に出た。
「今晩は、お父さん。いったい何の用?」
「お前はニュースを見ていないのか!?」
正直ニュースなど見たって、自分の人生に影響があるわけではない。見るだけ時間の無駄である。
「見てないけど、何で?」
「時間が無いから準備しろ。今から実家に帰るぞ。車で迎えに行く。あと5分で着くから」
それだけ言って電話はぷつりと切れた。父はせっかちな性格であり、合理的であるため手前勝手な事が多々あり、そのせいで母とよく喧嘩していた。
「何なんだよ、、、」
隼人は部屋の片隅に置いてあるAIロボにニュースアプリを開くよう指示し、ボサボサの頭を掻きながら外行き用の服を探し始めた。
ニュースアプリにはでかでかと見出しで「中毒者続出!楽園は麻薬か?」と書かれた記事が溢れていた。それを見た瞬間隼人は頭の先から指の先端まで凍り付いた気がした。記事を読むのが怖かった。でも知らなければならない。隼人は震える手で記事を読み始めた。
毎朝新聞 7月22日オンライン朝刊
中毒者続出!楽園は麻薬か?
今月中旬から全国で合法薬「楽園」の使用者を中心に言語障害、身体障害を訴える人が続出した。楽園の使用者で言語障害、身体障害があると見られる人はすくなくとも全国で1000万人はくだらないとみられている。医療機関は完全に崩壊し、症状がありながら治療を受けられない人で溢れている。しかし治療法が分かっていない現状で来院したとしても適切な治療が施されないのが問題だ。厚生労働省の調査では楽園中毒者は主に労働人口に多く日本の経済に大きな穴が空くだろうと危惧される。どうして急に全国で一斉に患者が出たのか、政府は緊急に楽園対策チームを作り対応を模索している
「あぁどうしよう、お母さんが」
隼人は実家の母のことで頭がいっぱいになった。
ややしばらくして父西野熊襲がずかずかと部屋に入ってきた。
「インターホン押しても反応がなかったぞ。」
熊襲は息子の服が裏返しになっているのを横目に見て言った
「行くぞ」
熊襲の車はアパートの玄関前に止めてあった。熊襲が近づくと自動でドアが開く。自動ナビゲーションシステムANSに行き先をプロッティングしてあったのだろう。隼人が乗り込むと自動車は音もなく動き始めた。、、、、、




