幕開けの話
「ただいまぁー」
夕方近くに麗奈は帰宅した。玄関には、案の定思っていたとおり、多くの靴が並んでいた。
それを笑顔で見つめ、リビングのドアを開け放つ。すると―――――。
パァン!!!
「うわぅ!!」
『麗奈!高校入学おめでとう!!!』
盛大なクラッカーの音と共に、見慣れた笑顔が並んでいた。舞い散る紙吹雪の中、麗奈は笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます!!」
「うわぁ!麗奈制服可愛いー!!」
澪が駆け寄ってきて、麗奈のネクタイに手をかけた。
「デザイン特化?さすが専門」
「自分高校はリボンだったなぁ」
「え?リボンのほうが可愛くないですか?」
「似合ってたらネクタイのほうがかっこいいよー」
そんなこんなの会話を繰り広げていると、ずいっと、目の前に何か差し出された。
「麗奈、ケーキ買ってきた」
「え!?ホントですか!!」
「早く荷物置いて来いよ!みんなで食べようぜ!!」
「はい!」
麗奈はぱっと顔を輝かせ、カバンを置きに自分の部屋へ向かう。
麗奈がいなくなったほんの一瞬のその時間。唯夏はそっと、雅に告げた。
「元気そうじゃない、麗奈」
「あぁ…」
「守ってあげなさいよ、ちゃんと。今はもうそういう立場になったんでしょ?」
「そのつもりだ。前者も、後者もな」
「それならいいの」
「お待たせです!!」
嬉しそうな表情を残したまま帰ってきた麗奈に、不思議とみなに笑顔が宿った。
「よし!!食べるか!!」
『おぉー!!』
今夜は盛大なパーティーになりそうだと、だれもがそう思った。
夕方から続いているパーティーはやはり夜にまでさしかかった。
ケーキ一つでここまで盛り上がれるというのもすごい話だが、楽しいのだから仕方がない。
そんなこんなで、いつもどおり6人で過ごしていると、ふと唐突に澪がこんなことをいいだした。
「あれ?そういえば麗奈高校生だよね?」
「今更なぜそれを…。そうですよ、ちゃんとなりましたよ、高校生」
「ってことはさ、『夜会』に出れるってことでしょ?」
「……あ、そうか、そういえばそうだな…」
「『夜会』…?」
聞きなれない言葉がでてきたため、麗奈は眉宇を寄せる。すると、すかさず唯夏がフォローに入る。
「そうか…麗奈は何も知らないのよね」
「はい。全く何が何だかわからないのですが…」
「『夜会』って言うのはね、1年で一回だけ、この県内にいる歌い手やプロデューサー。その他諸々の、そういった音楽に関連する仕事を持っている人たちで集まって、いわゆるパーティー的なことをする行事があるのよ」
「へぇ…」
「人によっては、そこで新しいプロデューサーとであったり、1つの会社と契約関係を結んだり…パーティーとしてだけじゃなくて、ほかの友好的な使い方もできるから、毎年多くの人が立ち寄るんだ」
「制限として、高校生以上っていうのが条件なんだけど…私たちが会った時…あの時はまだ中学生だったでしょう?だから一切話題には出さなかったのよ」
ということは…麗奈たちが知り合ってからかれこれ2,3年たつが、その間にも雅たちはその『夜会』とやらに何度か出席していたということか。
中学生ならそういったことに憧れたりするかもしれない、と言う配慮も含めて、黙っていてくれたのだろう。
(なんか、気使わせちゃったかな…)
少し申し訳ない気持ちになった。だが、それを誰も気にした様子はなかったので、この思いは胸の中へとしまわせてもらうことにした。すると、突然、澪が嬉しそうな声をあげる。
「麗奈が高校生になったんだからさ、今年はみんなで行こうよ!!」
「それいいな!!」
「最初からそのつもりだ。じゃなきゃここでこんなこと言わないだろ?」
「でも…私、そういった場所へ行くための服とか、持ってないですよ…?」
「何言ってんの。私だってもってないわ。そういうのは全部貸し出してくれるのよ」
唯夏の言葉に麗奈は目を丸くした。そんな太っ腹な話があるのか……。
「服も貸し出してくれるし、もちろん『夜会』だから、普通にご飯も出してくれるよ!」
「へぇ……」
「ねぇ!いこう、麗奈―!!」
澪が麗奈の両手を掴んで、キラキラとした瞳で言ってくる。これはもう断ることはできないだろう。というか…正直、行ってみたいと言う好奇心が最も強い。
麗奈は少しだけ考える振りをしたあと、小さくうなずいた。
「やったー!!」
「今年は6人全員で参加だな!」
みんなが楽しそうにしてくれるので麗奈の顔からも自然と笑がこぼれた。
「それっていつなんですか?」
「多分来週くらいだろ?」
「うん。その予定だった」
来週か…。結構早い段階で行われるんだな…。
「ま、当日は会場待ち合わせでいいかな」
「あ、でも麗奈会場わからないか…」
「大丈夫。俺が連れてく」
「あ、そっか。それなら迷わないか」
唐突な申し出は一瞬で可決。速攻すぎて何が何やら…。
「てなわけで、当日会場までは俺の車。いいね?麗奈」
「あ、うん!…よろしくお願いします」
「はは。まかしとけ」
隣に座る雅が白い歯を見せて笑う。不思議と、またさっきとは違った笑が麗奈の表情を包み込んだ。最近はこういうことが多い。
ニコニコと笑い合っていると、唯夏がそっと息を吐いた。
「さて…じゃあ、そろそろ私たちは退却しましょうか」
「…そうだね、長い時間居座ってても…ちょっと邪魔かもだし」
意味深な笑顔を浮かべる澪。麗奈は途端に顔が赤くなった。が、それを必死で悟られないようにする。
「み、見送ります…っ」
「そ?いいのに」
「いいんです!!」
麗奈は半ば強引に玄関までついていった。
「遅くまでごめんな、麗奈、雅」
「お邪魔しましたー」
「またねー!!」
真一、拓斗、澪が先に玄関からでていく。その3人に手を振る。すると、ふと玄関の先で足を止めている唯夏と目があった。
「唯夏さん…」
「ねぇ、麗奈。これから先、いろんなことがあるわ」
「え…?」
「でも、あなたはあなたのやりたいようにすればいいの。状況として、あなたはもっと雅にわがまま言っていい立場になったんでしょう?だったら、その立場をいいように使いなさい。今まで以上に、雅のこと、頼りなさいね」
「……はい」
唯夏がどんな心境で、この言葉を発したのか…今の麗奈にはちゃんとわかる。
「ありがとうございます、唯夏さん…」
「いいえ。末永くお幸せに」
「ちょっと、気が早くないですかねぇ」
麗奈はカァァァと頬に火が灯るのを感じた。けれど唯夏はあくまでからかっていただけのようだ。「じゃあね」と一言残し、去っていった。まだ寒さの残る夜風に当たると、火照った頬が少しだけ引き締まる気がした。
(……よしっ)
「片付けなきゃ…」
麗奈はそっとドアをしめ、リビングへと軽い足取りへ戻っていったのだった。




