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FRY~時を駆けた愛の歌~  作者: 桃井雪
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慌しき夜会

さて、そんなこんな。1週間が過ぎるのは早いものだった。

麗奈たちが学校でパソコンを扱うための基礎から学び始め、やっと応用的な教材へと入っていこうとした頃。ちょうど週末を迎えた。

土曜日の夕方。家の中はやけに静まっていた。

「麗奈―。準備できたー?」

「あ、あとちょい!!」

「…あっちで結局綺麗にするんだから、ほどほどにで大丈夫だぞー」

「わかってるよー!!」

玄関先で麗奈を待つ雅の耳には、少しだけとおく聞こえる麗奈の声。焦って転んだりしなければいいが…。まぁ、時間はあるから大丈夫なんだけどな、なんてことを思いながら、雅は玄関先で待つ。

2分後、麗奈は慌ただしく玄関へと向かってきた。

「ごめん!待たせた!!」

「いいよ、行こう」

「うん!!」

雅は麗奈を助手席に座らせ、自分は運転席へと向かう。

しばらく経って、車を発信させた。

「なんか、こんな形で雅と話すの初めてだ」

「……あぁ、そうかもしれねぇな」

「前に一回車乗ったことあったけど…あの時は慌ただしかったからね…見てる余裕もなかった」

麗奈が少しだけ遠い目をして言う。雅はちらりと横目でそれを確認したが、それ以上は何も追求しなかった。麗奈も追求荒れないことを悟ったのだろう。それ以上、何も言おうとはしなかった。

「ねぇ、会場ってどこなの?」

「そうだなぁ…ざっと車で20分くらい」

「結構かかるね…」

「そうか?案外そうでもなかったりするぞ?」

他愛のない話に火がつくと、そこからはほとんど沈黙の時間を挟むことはなかった。

20分なんて本当にあっという間かもしれない、なんてことを思っていると、ふと麗奈は抱いた疑問を投げかけた。

「そういえば、服って全部レンタル形式なんでしょ?雅たちって何着るの?」

「…別に俺たちが粧しても楽しくもないし…俺たちがあっちに行く目的は、食べるか話すかだからな。まぁ、契約をとりたいやつらはわかんさかいるだろうけど…。とにかく、俺たちは無難に普通のスーツとかでいいんだよ」

「へぇ…そんなもんなんだ…」

「その点、女子はいろいろあっておもしろいけどな。唯夏も澪も毎年一緒に行ってたからわかるけど、あいつらが同じ服えらんできたことはないからな」

「げっ、そんなにあんの…?」

「豊富だぜ?」

雅がにやりと笑みをこぼす。こりゃ選ぶのにも時間がかかりそうだ。

「手っ取り早く決めよー」

「多分澪たちにつかまるだろうけどな」

「…………あ、なんだろう。想像して寒気が…」

取り押さえられる。確実に、殺られる…。

「殺られねぇ、殺られねぇ」

「まぁ、そうだけどね」

麗奈は苦笑交じりにそう答えた。すると、雅はひと呼吸おいてから、少し小さな声で言った。

「ま、麗奈なら何着ても似合うだろうし…その辺の変なの来ないように、俺がいるから平気だろ」

「え…?」

聞き返したつもりなのだが、雅がそれ以上口にしてくれることはなかった。でも、麗奈の耳には確かにその言葉たちは届いていた。麗奈は視線を落とすついでに、笑み溢れるのを抑えられなかった。

「ふふ…っ!なんか急に楽しくなってきた」

「…あぁ、楽しめるときは思いっきり楽しんどけ」

「はぁい!」

麗奈が元気に返答するのとほぼ同時、車はブレーキを踏んだのだった。



「お、来た来た!」

会場の前ではすでに澪たちが待ち構えていた。

「やっほー!」

「お待たせしてごめんなさい!」

「いいのいいの!こっちも今ついたばっかだし!!」

古典的言葉。何やら定番な言葉が帰ってきたため、本当か嘘か見当もつかない。ここは話に甘えさせてもらおうではないか。

「てか……ここ…」

麗奈はそう言って、自分の眼科に広がる大きな建物を見つめた。

外側はレンガ造りで、西洋的な雰囲気を醸し出していた。ちょっと予想とは違って驚いている。それに……。

(……なんでだろう。きたことないはずなのに…ここ、見たことがある気がする…)

どこで見たのか、どうしてそう思うのかはわからない。でも、どこかしら…懐かしい雰囲気を醸し出している気がするのだ。

(何か…大事なものを、忘れているというか…思い出せないというか…)

麗奈がうーんと悩んでいると、突然背中を叩かれた。

「うわぅ!」

「何呆けてるの!行くよ?」

「あ、はい!!」

ついうっかりわれを忘れて考え込んでいたようだ。悪い癖が出た。澪を先頭にして6人は歩き出す。

建物の中も西洋的。思っていたよりもはるかに大きな場所だった。

「ほゎ……」

「結構綺麗でしょ?ここ」

「はい…!とっても!」

久しぶりにこんな場所へ来た、と麗奈の心は高まりを迎える。

「それじゃ、早速だし、服選びに行こうか」

「男子はあっちだから、あとはホール集合な」

「了解。いつもどおりでいいね?」

「問題ないぜ」

「麗奈のこと、任せたよ」

「もちろん!スペシャル可愛くしてあげるから!!」

「ほどほどにしてやれよ?慣れてないんだから」

麗奈の頭上で繰り広げられた会話は、麗奈の耳をさっと駆け抜けていき、気がつけば男子チームと女子チームにすでに分かれていた。何度か来ている分、打ち合わせは早い。

「さ、行こう!麗奈!」

「はぁーい」

これから先、何が待ち受けているのかと考えるととても楽しいが…。

(なんでだろう…いやに澪さんと唯夏さんの視線が痛い…)

ギラギラとした瞳がこちらに向けられていることが、決して嘘ではなかったことを思い知らされたんのは、それからほどなくしてのことだった。





「堅苦しいな、やっぱ…」

一方の男子チーム。やはり着替えは早かった。女子チームと別れてから15分もしないうちに会場についていた。今までもだいたいホールに入ってすぐぐらいのところで待ち合わせていたのでその場に3人そろって立っているのだが、一向に女子チームが来る気配がない。

「まぁ、今年は麗奈もいるし…張り切ってるんだろ」

真一のいうことが大半あたっているだろう。別れ際、澪と唯夏の瞳が恐ろしい程にキラキラしていたのを今でも覚えている。

「変なことになってないといいがな」

「ははっ、同感」

今なら笑い話にできるが、実際のところはあってみないとどうなっているのかわからない。

お楽しみ半分、不安按分といったところか。

場内には続々と人が集まってきて、すでに『夜会』は始まりを迎えていた。

「今年も賑やかだな」

「全くだ。まぁ、一年に1回のチャンスの場だかららな、ここは」

「幸い、俺たちには麗奈がいる。ラッキーだよな」

拓斗の言葉は最もだ。ここで契約を結べなければ、実質また一年越し、と言う人も少なくはない。それに比べれば、すでに麗奈と契約を結んでいる雅たちは、ほかの人に比べれば断然ラッキーだ。しかも、麗奈は確かに経歴としてはアマチュアだが、確かな経験を積んでいる、とても優秀な人材だ。ほかの人の目に触れれば、程から手が出るほど欲しいと言う人もいかねない。

(ま、今回は……やることほとんどないし、護衛に回るかな…)

そんなことを考えてると、再び場内のドアが開き、誰かが立っていた。

「お!発見!いつものところにいたね!!」

そう言って楽しそうに入ってきたのは澪だった。ぱっと見ただけでは少しわからなくなるほど、今回の服装も完璧に着こなしていた。澪のは水色の丈の長いドレスだった。

「やっときたか」

「お待たせしましたー」

「…あれ?唯夏と麗奈は?」

「それがさぁー。麗奈が途端に行かないとか言い出したのよ」

そう言って澪は肩をすくめた。

「え?どうして…」

「恥ずかしいから」

「あ、そういう……」

何かあったのかと思ったため、そういう返答ならまだ安心である。

「てか…一体どんな格好させたんだよ…」

「ちょっとまって、多分誤解混じってる!!今回の麗奈の服、めっちゃ頑張って選んだんだよ!?赤のドレスで、肩にベージュのストール被せたの!もう超絶可愛いんだから!!」

「……ってことは」

「うん。ベタ褒めしすぎて恥ずかしくなっちゃったんだって」

さらっと言うが、結局それお前が悪いんじゃ…。

と思ったが、誰も口にはしない。そのような言葉は澪に通じないとわかっているからだ。

「で、今唯夏が付き添ってると?」

「そうそう。一応そこまでは来たんだけどさ、会場入るのいやに嫌がっちゃって…」

「雅がいるからだろ?」

「待てよ、それ完全にまた誤解を招く発言だろ。俺なんもしてないぞ」

「そうじゃなくて、純粋に恥ずかしいんでしょ。あの子ほんと純粋だから」

澪にそう言われ、雅は思わず片手で顔を隠した。頬が赤くなるのを悟られたくなかったからだ。

そうやって恥ずかしがっているということは、ちゃんと1つの枠で認識してくれているということ。今までそんなことがなかったのに、いやにそこだけ意識してくれると言うことは、何も嫌な話じゃない。逆に、意識してくれるのは嬉しいことだ。

「てなわけでさ、連れてきてよ、雅」

「え、俺?今言っても逆効果じゃね?」

「雅の前で慣れたらどこでも行けるわよ」

「あ、そーゆーね…やつね、はい……」

納得していいのかしちゃいけないのかイマイチわからなかったが、とりあえずやらなければならないことはわかった。

「まぁ…ここまで来たのに、何もせずに帰るのはな…」

「でしょ?みんなで楽しむためにも、頑張れ、雅!!」

「……はいよ」

多少渋々だが、雅はそのまま会場を出ることにした。

「会場手前のロビーにいるからー!!」

「わーったよ」

適当に返事を返し、雅は会場を後にした。

―――――さてと。

今、雅を見ているものは誰もいない。

それを悟った雅は、隠しきれない笑みをこぼしながら、少しだけ早足で、近くのロビーへ向かったのだった。



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