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FRY~時を駆けた愛の歌~  作者: 桃井雪
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繋がった想い

「さて、寒くなってきた…。帰ろうぜ」

話を切り出したのは真一。それにみんなも賛成だった。

「ま、それじゃ、またな」

「……え?」

麗奈はその言葉に、拍子抜けした。てっきりこのままみんな麗奈の家に来ると思っていたのに。すると、その意図を察してくれたのか、真一が微笑む。

「大丈夫。ご心配あずからずとも、あとからお邪魔する」

「そのことについてなぜ私が心配しなければならないのかがまず謎ですが…でも、なんであと…?」

今ここにみんながいるのだから、みんなでいけばいいのに?

すると真一の隣にいた唯夏がふっと笑みを漏らす。

「時期にわかる。とりあえず麗奈はそこに突ったっとけばいいの」

「…はい?」

「それじゃあね、またあとで」

そう言って、真一、拓斗、唯夏、澪、清乃、一夜の6人はこの場をあとにしてしまった。

心なしか、全員の顔が笑っていた。しかしそれは…決して微笑みではなく、こう…。

(なんだろう、あの…いたずら思いついた時の子供のような笑い方は)

どうも、謎だ。

結局この場に残ったのは―――――――。

麗奈はそっと、背後を振り返る。そこには、いつもの優しげな笑みを浮かべた雅が立っていた。

「…残されたのは私たち、か…。一体何なんだろうね?」

「悪いな、麗奈。俺が頼んだ」

「へ?」

「ちょっと…話しときたいことがあってさ」

話があること自体に問題はない。でも…。

「家じゃ、ダメだったの?大丈夫?寒くない?」

「それは俺のセリフだ。俺が無理してここに残ってもらってるようなもんだから…麗奈こそ大丈夫?」

「案外制服ってあったかいもんよ?平気」

麗奈はそう言ってにっと笑った。すると、雅も少しだけ安堵したように表情をほころばせた。

「でもここに残ったってことは…」

「そ。ここじゃないとダメだったんだ」

「なんでここなの?場所が場所よ?よりによって…お、お墓の前で…」

「この墓が…日智さんと志帆さんのものだから、かな」

その言葉に、麗奈は一瞬だけ心臓が跳ねた。

「……お父さんと、お母さん?」

「……そ。2人も交えて、話さなきゃいけないと思って」

雅はそう言って、2人の石碑のほうへ向いた。そっとしゃがみこみ、目線を合わせる。

しばらくの沈黙をはさみ、雅はそっと切り出した。

「麗奈はさ、これから先どうするの?」

「…え?」

「もう高校生になる。言ってしまえば、一応一人暮らしもできる。そのことについて、麗奈はどうしたいのかなって」

思わぬ質問を投げかけられた。麗奈は言葉を失った。

「もしも…もしも麗奈が一人暮らししたいって言うなら、俺が止める権利もないし…そこは麗奈の自由にすればいいって言ったろ?そのへんの話について、今まで会話したことなかったなって思って…」

雅はそう言って立ち上がった。麗奈はまだ何も言わない。

「高校生って結構自由なときだからなぁ。高校生活も楽しいもんだし…今回麗奈が受かった高校は寮もあるだろ?その辺、麗奈何も話さないし…どうするのかなって思って―――」

ここまできて、初めて麗奈に向き合った雅は―――――――――――――。

そっと、言葉をなくした。

「……麗奈?」

「―――――――え?」

やっとのことで雅の言葉に返答したその瞬間――。

はたはたと、地面に乾いた音が響いた。

「あれ…?」

麗奈が咄嗟に驚いたような声を出したその瞬間、急に視界がくらみ出す。

時期にそれは、麗奈自身が涙を流しているせいだとわかった。

「…あれ、なんで…」

そっと目元に手を持っていくと、涙はひたすら溢れてくる。ただ淡々と、溢れてくる。

「お、おかしいな…っ。どうしたんだろう…」

この場においての『どうしたんだろう』というのは、はっきり言っていい言葉ではなかったかもしれない。

麗奈は知っているから。この涙が、なぜ流れるのか。

耐え切れず麗奈はうつむく。





―――――――――――――悔しい。





率直に、その言葉が脳裏をよぎった。


雅がこのことを問うてきたのは、きっと麗奈のことを考えてのことだ。

雅は麗奈のこの先のことを考えてそう言ってくれている。確かに麗奈だって、いつまでも雅に頼りっぱなしなわけにはいかない。それは、心のどこかでわかっていた。

だからこそ、努力はしていくつもりだった。そしてそれは、今からでもまだ、間に合うと思っていたのに―――――。

こんなにも早く選択の時が来るとは、思ってもみなかった。

あくまで、雅は話の展開を麗奈にまかせている。当たり前だ。これから先の話は、麗奈の返答次第でどうにでも転ぶ。だが、それ以前に―――――。

(さみしいと思うのは…私、だけなのかな…っ)

――麗奈はさ、この先どうするの?

この先どうするか。どうしたいのか。そんなこと、言われるまでもなく心は決まっている。

(私はこれから先だって…ずっと、雅といたい…っ)

今感じることのできる最大の幸せを持続していきたかった。でも…。

(もしも私が一人暮らし始めるって言っても…咎めないし、引き止めない。雅は…寂しくないってこと……?)

引き止めはしないといった。自分にそんな権利などないから、と。

(権利なんて…そんなの関係ないじゃない…っ)

ただ麗奈は、自分といられなくても、雅は寂しくないのだと感じると、無償に心が冷えて、寒くて、震えて…悔しい思いがこみ上げてきた。

(私は…っ)

さみしいんだ。雅と離れるのが。でも、雅はそうは思ってくれない。

麗奈は、雅の――――――――――特別には、なれない。

そうつきつけられたようで、ひどく心が痛んだ。そのために、この涙たちは溢れ出ているのだ。

雅は人のことをよく考えてくれる。だからこそ、これから先のことをきちんと麗奈自身に決めてほしくて言っているのだろう。このタイミングで、もし麗奈が雅と共にこれからもある道を選んだとしたら、大体の確率で雅はOKを出してくれるだろう。

だが、雅は知らない。麗奈の内に秘めた思いを。

だから、言えない。いうことができない。言葉に出して、引き止めることができない。

悔しくて、悔しくて――――――涙があとからあとから流れた。


麗奈は拳をぎゅっと握り締めた。

これが、選択だというのなら…選ばなければならないと、いうのなら―――――――。

(私は……っ)

「私は――――――――」

意を決し、言葉を紡ごうとしたその瞬間の出来事だった。

視界がふと、大きな影か何かに遮られた気がした。それと同時、さっきまで寒くて仕方が無かった体を、何やら温かみのあるものが包み込んだ。

そしてその全てが―――――――雅のものであると悟るのに、時間はかからなかった。

麗奈はいつの間にかすっぽりと、雅の腕の中に入っていた。

安易に言ってしまえば、唐突に抱きしめられた。

「……うぁぇ!?あの…っ!!」

「ごめん、今のは完全に俺が悪かった」

「え…?」

「…ほんと国語力なくて…文章表現力なさすぎだろ全く…。ほんとごめん!多分今完全に誤解を招いた!話す順序間違えた!ほんとごめん!ごめん麗奈…泣かないで…」

最後のほうの言葉に差し掛かると同時、少しだけ抱きしめてくる腕に力がこもった気がした。その腕の力が感情に左右されているのは、言うまでもないだろう。

「ご、かいって…どういう、こと?」

麗奈はかろうじて動いた腕で頑張って涙を拭った。すると、雅はそっと麗奈から離れる。

麗奈の涙が少しだけでも収まっていることを確認すると、少しだけほっとした表情を見せた。が、またすぐに表情を引き締める。

「あの…俺が言いたかったのは、そういう意味じゃなくて…なんて言えばいいんだろう…」

雅はそう言って頭をポリポリと掻く。その光景に、ちょっとだけ驚いてしまった。

(珍しいな…雅が言葉を詰まらせるなんて…)

それほど言いにくい何かなのだろうか。いや、そもそも今の話の流れで、一体どこをどう誤解したのだろう、自分は…。

しばらく、また無言を挟んだ。無音の風が頬を撫でる。それでも麗奈は言葉を待った。雅が何かを言いたいことはわかっている。だからじっと、待った。

すると雅はそれを察してくれたのか、表情を引き締めて、それでいて、どこか柔和な雰囲気を残す、何やら不思議な表情を浮かべる。

「……あのさ、麗奈」

「う、うん…」

「さっきの質問、少し表現を変えて、言うな」

雅はそう言って、1つだけ呼吸をはさんで――――――そっと、囁くようにつぶやいた。



「これからも……俺と一緒にいてくれない?」



「―――――――――え?」

一瞬、耳を疑った。聞こえてきた言葉が事実であると受け入れるのに時間がかかってしまった。麗奈が驚いた表情のまま固まっていると、雅は何やら照れくさそうに頬を掻いた。

「…大半は、俺の願望かも知れない…。でも、今までの時間を過ごしてきて…ただ純粋に、そう感じたんだ」

「…どういう、こと…?」

「……麗奈はさ、見てて危なっかしくて…すぐ泣いちゃうけど、でも強がってばっかりで…最初はそんな麗奈が心配で…なんとなく、妹みたいな感じで接してきたんだ…。でも…いつだったかな…全然覚えてないけど…麗奈が俺のそばで笑ってくれて、一緒に悩んでくれて…同じ時間を過ごすときが長くなればなるほど…麗奈のいない生活が、感がられなくなってきた」

雅の紡がれる言葉が耳に入っていくと同時、麗奈はぐっと、目頭が熱くなるのを感じた。

「俺自身が1番驚いてるかもしれない。本当は、そんなこと絶対ないと思ってたから…でも、今こうやって話してて、わかるんだ。うまく、言葉には表せないけど…でも…きっとこういうの、世間一般で……『好き』って言うんだろうな、って…」

雅が頬を少しだけ赤く染め、照れくさそうにはにかむ。

その表情が歪んでしまったのは、おそらく自分のせいじゃない。そう言う言葉を投げかけてくる、雅がわるいのだ。

雅は麗奈の涙に気がついていた。でも、さきほどみたいに驚いたりはしない。

そっと麗奈のそばにより、溢れ出る涙を幾度も拭ってくれた。

そして、満面の笑顔で―――――――微笑んだ。




「俺さ……麗奈のこと、好きだよ……」




―――――――――夢か?これは。

麗奈は思わず、くしゃりと表情を歪めた。違った意味で、涙が止まらない。

(ずるくないかな、そういうの…っ)

頬に当てられている雅の手のぬくもりは、今まで何度でも触れてきた暖かさだ。

でも、この暖かさのうちには、今まではなかった感情がある。嘘じゃない。この暖かさは本物で、だからこそ、これが現実であると教えてくれる。

「好きだよ、麗奈…」

もう一度かけられたその言葉に耐え切れなくなって、麗奈は勢いよく雅に抱きついた。

「わ、っと…!」

「ほんとにさぁ…っ!順番間違えすぎないかなあ…っ!」

思わず口調が強くなったのは許せ。雅が悪い。

雅は少しだけ驚いた顔をしていたようだが、やがて小さく息を吐いて、再度麗奈のことを優しく抱きしめた。

「ごめん…」

「……いい。嬉しいから、全部許せる…」

そういえば、初めてかもしれないな……。

麗奈はそっと、雅の背に手を回した。

今まで何度か、慰めや、励ましのために抱きしめてもらったことはあった。でも、こうやって自分も手を伸ばしたのは、初めてかも知れない。

2つの思いが重なってからの抱擁は、また違った温かみを持つのだと、この時初めて知った。




――――――雅のことが、好きです…。




まるで小鳥のさえずりのように囁いた本当に小さなその言葉は、それでもしっかりと雅の耳に届いていたようだ。


お父さん、お母さん…。

雅と出会わせてくれてありがとう…。



――――よかったね、麗奈。



囁くように、耳元できこえてきたその優しげな声色。

気のせいであろうとなかろうと、決して忘れはしない。

麗奈はそっと顔を上げた。こんなに間近で視線が絡んだというのに、不思議と前みたいな恥ずかしさは感じなかった。


そしてどちらからともなく――――互いにそっと、顔を寄せたのだった。





とりあえず、第一幕終了ですかね!

ここまで見てくださった方、ありがとうございます!

ですがまだ終わってません!

これからもまだ続けていく予定です!

よろしかったらこれから先も、目を通していただけると嬉しいです!!

(○≧∇≦)⊃゜・*:.。.

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