今はまだ
帰り道。なにやら複雑な心境だった。
(……私、何気に馬鹿なことしたかもしれない…)
一夜と分かり合った今日この頃。帰る足取りが重かった。
体育館で和解した2人。すると唐突に一夜がこんな事を言い出したのだ。
「てか思ったんだけどよ、お前って結局片想いなわけ?」
「え?どういうこと?」
「いやだって……はたから見てたら、お前らマジで付き合ってんのかと…」
「……はいっ!!?」
突然の言葉に、麗奈は頭が爆発した。
「ちょ、ちょちょちょちょ!?んなわけないじゃん!つ、付き合ってないよ!完全片思いだよ多分!うん多分!!」
「多分って…。混乱するな。てか本当に違うのか?」
「違う違う違う!!雅は私なんか…私…何か……」
そこまで言って、ふと麗奈は思考をめぐらせた。
「そういえば…雅がどうこうって、考えたことないな…」
「あいつがレイのことどう思ってるかって?」
「うん。別にそんな話したことないし…しないし…」
今まで考えたことはなかったが、確かに今雅が自分の事をどう思っているかなど知らない。
(どう、思われてるのかな……)
「聞いてみればいいのに」
「直球でいけるわけないでしょ!?」
「俺が聞いてやろうか?」
「それは釈然としない!!」
「はっきりしねぇなお前は…」
苦笑いを浮かべられた。だがそういわれてもどうしようもないのが事実だ。
「だ、だってさ…」
麗奈はそこまで言って、思わず顔を覆った。
「レイ?」
「だって……ホントに、好きだって…自覚したら……家、帰るのも…嫌になってきた…。ヤバイ。とてつもなく恥ずかしくなってきた……っ」
「あー…。お前、同棲してんだっけ?」
「同棲とか言わない!ただ一緒に住んでるだけだ!!」
「そういうの一般的に同棲って言うんだろ」
麗奈は顔を真っ赤にさせたままでぷくっと頬を膨らませた。
「清乃のウチに…泊まろうかな……」
「バーカ。変に俺が疑われるだろうが。どうせ、お前今日俺と話せって言われたのも、あいつの差し金だろ?じゃなきゃ直球で物事言えないお前が、こうやって直球で来るはずねぇもんな」
図星にもほどがあり、何もいえなかった。言い訳やらなんやらを考えていると、ふと一夜が突飛な事を言い出した。
「まぁ……あんまり認めたくなかったがよ……お前は大事にされてるよ、あいつに」
「え…?」
「ちょっと前に、お前が学校で倒れたことあったろ?それちくったの俺」
「うん…想像はついてた」
それ自体にもう問題は持っていないはずなのだが、なぜその話を盛り返すのか…。
すると、麗奈の心中を察したのか、一夜はそっと先のことを話してくれた。
「俺さ、1回言ったことがあるんだ。『あんたにとってレイはなんなのか』ってな」
「……そんなこと聞いたことあったの?」
「…まぁな。だいぶ切羽詰ってた時だったし…」
「……それ、で…なんて、答えたの…?」
少しだけ聞くのが怖い気もしたが、聞きたいのは事実である。先を促さずにはいられなかった。ドキドキしながらその先の言葉を待っていると、一夜はそっと口を開いた。
「『何よりも大事な宝物』…あいつはそういったよ」
「――――――――え?」
一瞬、耳を疑った。
「た、から…物…?」
「あぁ。俺が聞いた範囲では、確実にそう言ってたぜ」
思わず、耳を疑ってしまった。一夜の聞き間違いではないかとすら思ってしまった。
そんな嬉しい一言を言ってもらっていただなんて全然知らなかった。
(でも――――――――)
それが、どの意味でとらえた宝物なのかは、まだ定かではない。
それが固定観念にとらわれているというならば…それは今、自分が望んでいる『宝物』ではないはずだ。
仮にもし、観念にとらわれるものではない。純粋な言葉として発せられたものだとしたら―――。
「……っ!!!」
思わずそこまで考えて、思いっきり頭を振った。
(思考が先に行き過ぎだって!!過程として今私片思いでしょ!?)
自分にそう言い聞かせているものの、1度浮かんだ考えはなかなか振り払えないものだった。
(あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!)
「…何考えてるかは察しが着くけど…まず落ち着け」
「……ハイ」
やっとのことで落ち着きを取りも出した麗奈を、一夜はため息を混じらせながら笑みをこぼした。
「ま、いつも通りでいいんじゃねぇの?今はまだ、そのままでいるほうが楽だろ」
「まぁ確かに、ねぇ…変に意識してたら、絶対ばれると思う」
「意識しようがしまいがばれそうだけどな」
「どういう意味よっ!?」
「馬鹿正直って言いてぇの」
「馬鹿必要ねぇっての!!」
さっきから褒めてもらっているのかけなされているのか、励ましてくれているのか釘を刺すのか、全く持ってつかめない。
でも、その旨のうちはきっと、わかっている。
表に出せない不器用な少年だからこその、唯一の愛情表現と受け取っておこう。
(ありがとう…)
きっと言葉に出すと照れる。だからこの言葉は、いつかすべてがうまく言ったときに、まとめてたくさん言おう。今の分の仮も全部かえそう。
ただその事を胸に刻み、麗奈はひっそりと、笑みをこぼしていた。
さて、そんなこんなな麗奈である。現状に戻ろう。
ただいま現時国夕方5時を回った。いつもならちゃんと家についている時間。
えぇ、付いていますとも。
「玄関前に、ね…」
なんやかんやの事を思い出しているうちに、またどうしても家に入りづらくなってしまった。いや、いつまでもこうしているわけにはいかないのだから、意を決していかなければならないのだが、なかなか決行できない。
「……どう、する、べき、か…」
「んー。どうしようか。どうしたい?」
「うおわぁっ!?」
突如聞こえた声に跳びあがって驚いた。数歩後ずさる麗奈だが、後ずさった後に気が付いた。声の主が、一体誰だったのかを。
「そんなに驚くか?」
必死に大笑いしそうなのを堪えた、雅だった。
「ちょ、驚くよ…っ!」
「悪い悪い。で?家の前で何をなさってたわけ?」
いつも通りの口調と柔らかな笑みを浮かべる雅。
なぜか、直視できなかった。
「い、いや…別に、何かあったわけでは…っ」
「そ?なら別にいいけど」
ま、とりあえず帰ろうぜ?そう言って雅は家のドアノブに手をかけた。
「あ、そうだ」
「ん?」
ふと今突然に思い出したので思わず口に出してしまった。が、1度言ったからには取り消せはしない。
麗奈は、一瞬息を吐いて、物すごくがんばってちゃんと雅を見つめた。
「あの……一夜、と…ちゃんと、和解できました……」
「やっぱ?表情明るいと思った」
「…そんな顔に出やすいのかな…」
「うん。すごくわかりやすい」
撃沈。雅は率直に言うことは容赦なく率直に言う。一切包むことなく、な。
返す言葉もなくただ撃沈していた麗奈だったが、突如、ふわりと温かいものが頭に触れた。
それは雅の手であることに気が付くまで、時間はかからなかった。
強く、優しく。そっと、雅は頭を撫でてくれた。
「よかったじゃん。ちゃんと分かり合えたなら。いろいろわからなかったことわかっただろうし、よかっただろ?」
「…うん。感謝しております」
「はは。いいよ、別に。おれ自身何かしたわけじゃないしね」
そう言って雅は、まるで自分のことのように嬉しそうな笑みを浮かべていた。
その笑顔を見るたびに、胸が締まる。
ただし、これは決してつらい痛みではない。かみしめることのできる、幸せな痛みだ。
(……ホントは、聞きたいけどね)
本音を知りたいと思うのは事実だ。でも、もう少し…もう少しの間は、この関係を続けるのも悪くない。なんて事を思う。
今の時間に満足感を覚えているからかもしれない。あるいは、また。別の考えも浮かんでくるものだが、それはまたそれとしておいておこうじゃないか。
(ただ、今だけは――――――――)
今だけは、このままでいたいと望む自分がいる。
安易でもいい。形や名前のない関係でも構わない。
ただ今、一緒に居られるこの時間を、大事にしたいと思っただけだ。
「……ありがとう…」
囁くように言ったのだが、雅の耳にはしっかり届いていたらしい。笑顔は絶やされなかった。その笑顔を見つめ返し、麗奈もまた、微笑みを漏らした。




