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FRY~時を駆けた愛の歌~  作者: 桃井雪
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永久に消えた恋情


―――――小さなころ、一夜の事を好きになった。

一夜の背を追い、一夜と共にありたいとさえ願った。

でもいつしか一夜は笑わなくなり、冷たくなってしまった。

それは、きっと一夜が大事にしていたものが壊れてしまったせいだと思っていた。

その気持ちを治せるのは、決して自分ではないのだと、思い込んでいた。

だからこそ、諦めるしかなかったのだ。

どれだけ頑張っても、たとえ壊れた一夜の心を戻したとしても、あの頃秘めていた思いが自分に向くことはない。だからこそ、諦めようと思っていた。

諦められなくて、でも諦めなくちゃいけなくて…ずっとずっと、悩んでいた。


そんな時、ある出来事が起こったんだ。


父の誘いで始めた新たしい仕事。仕事と言うには早いかもしれないが、それでも信頼を持ってもらえることをはじめ、新たな仲間とであった。

その中に、彼がいたんだ。

彼は自分を気遣い、時に励まし、時に隣を歩んでくれた。

意思的に、この人は話があいそうだとは思っていたんだ。

だから、話していると楽しかったし、近くにいるとほっとできた。

それが、あの気持ちに繋がることはないと思っていたからこそのことだったのかもしれない。


そして起きたのが、私の人生を変える出来事。


家族の消失。居場所の損失。心の崩壊。

次々と襲い掛かった悲劇に、私の精神はズタボロだった。生きる気力さえ失う大事件。

その時思ったんだ。

もしかして、このままこの世を去れば、全部終わるんじゃないかと。

この悲劇も、彼への思いも全部―――消えてなくなるのかな、と…。

そうしたら、そのほうが楽かもしれない。

諦めるのもつらかったし、このままこんな悲しい気持ちを抱えたまま行き続けたいだなんて思わない。ほとぼりが醒めたその時に、私はこの世を去ろう。

そうしたらまた、みんなに会える――――――――。




――――陽智さん、志帆さん。安心して。麗奈は、俺が守るよ




肩に触れた温もりが、私を現実へと引きもどした。

きっと、それが始まりだった。



――どうか…2人の『宝物』。預からせてください。



凛とした表情で、石碑に刻まれたその何向けて、彼が言い放った堂々とした言葉。

そっと見上げた時のあの瞬間を、私は今も忘れない。

私と同じように、傘も差さないまま。ぬれることも気にせず、彼はそういった。

その時の瞳には、噓も偽りも何も含まれてはおらず、ただそこにあったのは、一縷の光と一心の決意だった。


その言葉は、麗奈の心に深く染み、枯れていた心に、新たな思いを芽吹かせた。


その時からだと思う。私が、彼を―――――雅の事を見つめる視線が変わったのは。

視線を変えてから気が付いたことがあった。

雅は、昔の一夜とかぶるところがあった。

表情にすら出さないものの、心のそこでは誰かと共にある事を望んでいる。

誰かに、自分の傷ついたところを治してもらいたいと思っている。

でも、表への出し方がわからない、不器用な一面。

他人とは少し違った見方を持っている。

歌を失った頃の私に、手を差し伸べてくれたあの頃の一夜。

家族を失った私と、共に先を歩んでくれると言ってくれた雅。

思えば、最初はただ昔の一夜とを重ねているだけだと思っていた。

でも、それは少しずつ違うんだと気が付き始めた。

雅は、たとえどんなに傷ついても、私を優先してくれようとしていた。

それは、あの頃の一夜が成し遂げることのできなかった優しさだった。

雅は一夜より、一枚も二枚も上手だった。

何よりも優しい、深い愛情。

それはきっと恋情からくるものではなかったが、わかっていた。

それが使命感なのか正義感なのかはわからない。でもわかる。雅は、私を大事にしてくれていると。決してそれは、同情なんかじゃないことを。

だから、気が付いた。





――――――私は、雅のことが、好きです。





「ずっと…一夜のことが好きだった。それは、噓じゃない…っでも…」


―――俺…麗奈のつらそうな顔、見たくない。


「でも……っ」


―――胸張れ


「でも……っ!!」


―――麗奈!



頭から離れない。離すことが、できない…っ

「もう、いっぱいで…っ!離れないの…っ!私、は…っ」

この上なく、あの人を好きになってしまったんだ。

恋情に走ることはないと思っていたのに。側にいてくれないといやだ何て、思うことはないと思っていたのに。

寂しさがあったあの時だからこそ、余計にあの優しさは染みたのだ。

当たり前だとは思っていないけれど、もう…。

「…ダメなの…っ。あの人が…雅が…側にいてくれないと…私は…っ」

「……何となく、わかってたんだけどな」

麗奈がそっと顔を上げようとしたその瞬間――――。

思いっきり、一夜は麗奈の頭を撫でた。

「わ…っ!?」

「…少し前に、気が付いてたんだ。最も、お前は気が付いてなかったのかもしれないけど」

「え…?」

「こんなこと言うの、かっこ悪いし…ガラじゃねぇって思ってたから、ずっと言わなかった…それが仇になって、この結果を招いた…。悪いのは、お前だけじゃねぇよ。ずっとずっと、臆病だった俺も悪い。お前に踏ん切りをつけてやれなかった。ここまでずっと、お前の気持ちも全部、引きずり回してたんだな」

「一夜…」

頭に手を置かれた状態で、麗奈はそっと一夜を仰ぎ見た。

一夜は決して怒ってなどいなかった。ただずっと、寂しげな笑顔を浮かべていた。

「……だからせめて、ここで俺に踏ん切りつけさせてくれねぇかな?」

その一言を残し、一夜は麗奈の頭から手を離した。麗奈は一瞬だけ、唇をかみ締めた。

が、ちゃんと姿勢をただし、目元に残っていた涙を乱暴に拭う。

そして、もう一度――――――凜とした表情を浮かべ、それでいて、どこか柔和な雰囲気をかもし出す。今、一夜に向けてあげられる、最高の表情を。

そして、そっと、言葉を解き放った。



「一夜のことが、大好きでした―――――――私に、初恋をありがとう…っ」



その一言に、一夜は少しだけ目を見開いたが、しばらくたつと、徐々に堪えていた笑いを漏らし始めた。

「はは…っ!さすがレイ。その切り替えしは予想してなかったぜ」

「……ふふ…っ」

自然と、互いに笑みが漏れた。

さっきまで両者共々、泣いて、わめいて、傷ついていただなんて思えないほどに、2人は同時に晴れ晴れとした笑顔を浮かべた。


互いの初恋は、ここに終焉を告げ去って行った。

ここに、恋と同じくらいに、大事な感情を残して―――――――――――。




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