願いの終焉、消さないと決めたもの
顔を見合わせた瞬間、雅はばっと麗奈の両肩を掴んだ。
「どうして止めたんだよ!あのままだとあいつ…っ!!」
「そうだね。何しでかすか、わかんないね」
「わかんないねって…!?じゃあ、何で…なんで止めたんだよ!あいつ、あのまま帰らせちゃダメじゃんかよ!!」
結局、不思議な形で終焉してしまったこのステージ。
何が解決したのか、何が問題として残っているのか、よくわからないままで終わってしまった。雅の話を信じたまではよかったが、そこから予想外の返答が帰ってきたせいで混乱してしまった。正直、あまり成功したとはいえないかもしれない。
本当は、あのまま帰さないほうがよかったような気もする。
でも、あの場で止める必要があったんだ。
「あのまま…私が止めてなかったら、きっと雅は私のために怒ってくれてたね」
「あ、当たり前だろ…っ?あんなこと言われて、黙ってなんておけないだろ…」
「そう。私もそうだったよ」
「え…?」
「あいつが色恋沙汰って言い出したとき、私はよしとしても…同じようにして雅を馬鹿にされてるみたいで、すごいカッとした。そしたらすぐに、あいつの矛先が私に変わったでしょう?」
その言葉に、雅は少しだけ過去をさかのぼる。当てはまる場所があったのだろう。少しだけ口をつぐんだ。
そう。繋がっていたんだ。
2人に対し、矛先が片方に向くだけで片方がカッとなる。
結局、連鎖としてつながりかねなかったということだ。もしもあれを続けていたらどうなったのか、まではわからないが、必ずあのまま行けば感情が連なり続けていたのだろう。麗奈はそれを避けるために、必死にこらえ、上田を帰らせた。
「……なんで、そんなこと…」
「さぁ…。あいつが結局何がしたかったのか…正直私もわからない。挑発だったのか、または警告だったのか、願望だったのかはね…」
「願望?」
予想はずれの返答に雅は眉を寄せる。
すると麗奈はちょっとだけため息を漏らした。
「仮にも、記者だってことね。伊達に何年もスポーツ選手見てきてねぇよってこと」
「……ごめん、よく、わからないんだけど…」
「憶測に過ぎない部分しかないけどね。あいつは私の試合の棄権理由を色恋沙汰で押し続けた。そして感情のぶつけ合いを求めた…。そう考えると、ちょっとあることが見えてくるかもしれないよ?」
麗奈の説明を聞いてみても、わけがわからないらしく、雅の頭上にはいくつかのはてなが飛んでいた。いや、実際見えてないんだけどね♪
その光景が面白くて、麗奈は思わず笑ってしまった。すると、対する雅は憮然とする。
「笑うなよ…。結構真剣に考えてんだぞ?」
「わかってる。だからちょっと、笑えて来た…っ!」
「……結局、どういうことなんだよ。さっきの」
ひとしきり笑いをかみ締めたあとで、麗奈は1度呼吸を整える。そして、大きな息と共に、言葉を吐き出した。
「あいつは、私にまだ選手でいてほしかったんじゃないかな、って」
その言葉に雅はちょっとだけ目を見開いた。
「選手で、って……バドミントンの?」
「うん。それ以外何かある?」
「いや。ない、と思うけど…。でも、『いてほしかった』って、どういうことだ?」
麗奈は仮にもまだ選手のはず。バドミントンを続けている人に対して『いてほしかった』という願望形。少しおかしくないだろうか?
すると麗奈は微笑を漏らす。
「あくまで憶測って言ったでしょ?でも……さっきも言った。あいつは仮にも記者だったのよ。自分の目の前に立ちはだかる選手を、多く見てきたってことでしょう。今自分がどうしたかったのか、どうしようとしているのか、わかったんじゃない?」
麗奈は少しだけ遠くを見つめて言った。
茜色に輝こうとしている空を見つめながら少しだけ思いに耽った。
少しだけ背伸びをするように立ち、空を仰ぎ見る。膝と背筋がピンと伸びる。
そう。私はもう―――――。
「……まだ、納得できないんだけど…」
思わず膝の力が抜けた。こけるかと思ったよ全く。
空から視線を下ろし、雅を見つめると、雅は少しだけ申し訳なさそうに頬を掻いていた。
「…おいおい」
「いや、ごめん。俺理解力少なくて…」
照れたように笑う雅。いや、褒めてないからね。
「全く…」
(まぁ、ここまで言葉を濁しつくしてきた私が悪いけどさ…)
でもまぁ、自分的にはよくここまで言葉を濁して来れたと思うよ、うん。
まだ納得のいかなそうな顔をしている雅を見つめ、麗奈はふとさきほどのことを思い出す。
公園に茜の色が差し込むその前に、叫んだ私の言葉に反応した。
一瞬だけ止まったあいつは、それでも前に進んだ。
あえて、かけたかった言葉を全部飲み込んで。全部封じ込んで。
いいたいことを、結局あいつは何も言わなかった。
いや、いえなかったのかもしれない。
どれだけ強い願望を並べても、どれだけ御託を並べて時間を稼いでも、求めるものがあったとしても、きっとあいつの思い全てを、私が弾いちゃったからだろうな。
あいつの気持ちに、気が付いちゃったからだろうな。
だからあのとき、笑ったんでしょう?
今までずっと嗤ってきたくせに、最後の最後であんなふうに笑った。
最後の最後で、あんなに寂しげな笑顔を見せたんでしょう?
そう。ここが、最後の場所だから。
麗奈はふっと息を吐く。
そして、まじまじと雅と相対した。
「麗奈…?」
「いずれちゃんと決心するつもりだった。決心したら、まず始めに雅に言うつもりでいた。それが今なら、今私の決心を告げるよ」
麗奈はそう言って微笑みかける。雅は何に対して何を言われているのか、わからない様子だった。それでも、結論はこれから言う。だから続けた。
「これから私が言うことは、もう決して曲げないと決めたもの。雅と…あいつに背中押されたから。もう後悔はしないよ」
「あいつって…上田?」
「うん。押されたって言うと、ちょっと腹立つけど。でも、最後にあいつにああいえたから、余計強い気持ちになったけどね」
――私はもう、お前に会いたいと思わない!!!
あの一言を叫べたことで、より確かな決心になったんだ。
「雅、私ね―――――――」
一呼吸、置く。早鐘を打ちかける心に鞭を打ち、歯車を回す。
言葉として発してしまえばもう、取り消すことはできない。後には引けない。
それでも、構わないんだ――――。
麗奈は大きく息を吸い、ついに言い放った。
「私、バドミントンやめるよ」




