噓とピエロの茶番劇
「始めまして、上田さん。俺は雅。麗奈の彼氏です」
雅はそう言って作り上げられた完璧な笑顔を浮かべる。これに困惑したのは上田だった。
「ちょっと…ごめんけど意味がわからない。どうして突然君が…」
「本当にわからない?」
麗奈の問いかけに、上田は眉を寄せた。
「どういう意味だい?」
「本当に意味もなく、こんなにタイミングよく雅が現れることがあると思ってるの?って聞いてるの」
「……仕組んだ、ということかい?」
「人聞き悪いのね。さっきちゃんと言ったじゃない。『真実を教えてあげる』って」
麗奈はそう言ってそっと息を吐いた。
心臓がバクバクする。正直、手が震えている。
行けるか。行けないか。行く。行けない。行こう。行けない。行け――。
―――大丈夫。
突然、そう言わんばかりに、麗奈の肩にかけられている雅の手に力がこもった。
それだけで、また背中を押される。
(大丈夫…)
自分の心に言い聞かせた。
本当は、こういうの得意じゃないんだ。
でも、やらなきゃいけないってわかってる。だから、例えサイズが合わなかったとしても、私は無理矢理にでもその仮面をつけるよ。
ここから始まるのは、全て―――偽りの真実だ。
偽りの仮面をかぶってやろうじゃないか。それが自分を守るために犠牲にした真実の末路だ。真実を偽り、偽りを真実にでっち上げる。
それができるのは、創造者だけなんだ。
これができるのは、麗奈と雅だけなんだ―――――――――――っ!!
昨日の夜の話。上田の魔の手から麗奈を守るために、雅が提案した1つの作戦。
「…噓の情報を、流す?」
雅の言葉を反復した麗奈に、雅はうなずいた。
「1番やりやすく、かつわかりにくいって言ったらこれしか思いつかないからさ」
「でも…噓って、どういう意味で?」
澪が問うと、雅は腕を組んで目を閉じた。
「……どうしようか」
『万策尽きたああああああぁっ!!?』
その先考えてなかったのか…っ!そこ1番大事だろうに…っ!
「……例えばさ」
すると、声を上げたのは唯夏だった。
「今回は、麗奈の両親…陽智さんと志帆さんが亡くなった。じゃあ、なくなった人を変えればいいんじゃないかしら?」
「……例えば、どういう?」
「……都合のよさだけで言わせてもらうと、雅だと思うわ」
「へ?俺?」
「……あっ!!」
すると突然麗奈も声を上げた。残る4人は首をかしげたまま。当の名をあげられた雅もワケがわからないのか目を細めていた。そんな4人に、麗奈は少しだけ身を引くようにして話した。
「あの、なんていうか…境遇、って言うのかな」
「境遇?」
「私たち6人の中で、麗奈と雅にだけ共通することがあるでしょ?」
唯夏の指摘に4人は考え――――そして、同時に答えにたどり着いた。
「2人の、共通点って…」
「えぇ。私も雅も、両親が共にいません」
麗奈の言葉にやっと納得した様子の4人。
そして、その表情に、晴れやかな輝きが戻ってきた。
「てことは…」
「簡単に言っちゃえば、あの日死んだのを雅の両親にすれば、1番わかりやすく、かつばれにくいってことね」
唯夏の指摘に4人は感嘆の声を漏らした。
「それ、いいんじゃねぇの?」
そういったのは、以外にも雅だった。
「それが1番良いって言うんだったら、それで行こうぜ」
「でも、それって…」
「その場合…」
「問題視されるのは…」
雅と麗奈を除く4人の視線が同時に同じ方向を向いた。そこにいたのは紛れもなく、雅と麗奈。
「その場合、問題視されるのはきっと…雅と麗奈の関係よ」
唯夏の指摘は最もだ。
たとえ雅の両親が亡くなったのだということをでっちあげたとしても、なぜそこで麗奈が帰らなければならなかったのかという話。
もし、この話をするのであれば…新たにでっち上げなければならない事実がある。
麗奈と雅の関係。新たにそこに、偽りの関係を結ばねばならない。
そしてそれは必ず、『友達、仕事仲間以上』の関係、ということだ。
それるなわち――――――。
「……本当に、いいの?雅」
「何だが?」
麗奈はおずおずとした様子で雅に問うた。
「えと…その、わかってないわけじゃないでしょ?関係の話。それに…今回の話のでっちあげ……雅の、両親の話だから…っ。い、嫌だったら、断っていいんだからね?ほかの策考えるし――――」
「いいや。いいんだ。全部それでいい」
雅の言葉に、麗奈は少しだけ首を傾げる。すると、雅は麗奈を見つめて、にっと笑った。
「いいじゃん!引っかきまわしてやろうぜっ!俺の両親がなんだの話、陽智さんや志帆さん悪く言われるより絶対ましだから!俺だって、あの2人けなされんのやだし!だからいいんだよ!全部全部!とことん付き合ってやるって!」
その瞬間、痛いほどの胸の高鳴りを覚えた。一瞬にして、頬が高揚したのがわかった。
その笑顔が、何よりも嬉しくて――――。
「……あり、がとう…」
そんな言葉しか、でてこなかった。
「んじゃま、決まりね」
そんな麗奈を面白そうに見つめながら唯夏は言った。
「本当にいいんだね、2人とも」
「俺自身、問題はないね」
「麗奈は?」
「…雅が、それでいいなら」
麗奈はそう言って微笑みを漏らした。
「んじゃま、かげながらサポートしようか」
「サポート?」
「2人の関係だなんだの話、こっちに任せなよ。2人は当日に備えな。何もできない分、影ではしっかり2人のこと支えるから」
「はい!ありがとうございます!」
「頼んだぜ」
「やれるとこまでやってやろうじゃん!」
澪の言葉にみんなが活気付いた。
こうして、麗奈の真実を守るべく―――ここに、新たな偽りが生まれた、というわけだ。
そして今、真実を偽る時――――。
麗奈は、ぎゅっと両手を握り締め、視線を少しだけ鋭くした。
「あなたにずっと付きまとわれるのはごめんなの。だからせめて…早い段階で、あなたに教えてあげておこうと思うの。あの日のことを」
「へぇ…ずいぶん簡単に教えてくれるんだね」
「言ったでしょう?付きまとわれるのは、こちらとしても迷惑なんだ」
そう言ったのは雅だった。
「あなたが麗奈のことを取材したいだなんだで追っかけてることは知ってる。麗奈から聞いた。だから来たんですよ、俺が」
「だから、つながりがわからないって言っているんだ。僕が聞きたいのはね、あの日麗奈ちゃんが――――――」
「あの日麗奈が帰ったのは、俺のせいだからだ」
その言葉に上田の表情が一変した。
「……へぇ?詳しく聞いてもいい?」
一瞬、その言葉に背筋にぞくっと寒気が這い上がってきた。あの日と同じ、ひどい悪寒。それと同時に鮮明に思い出されてくるのは、やはりあの日の出来事と記憶。
―――でも。
びびっている暇はないんだ。折角協力してくれたのに、自分が立ち止まるわけにはいかない。麗奈は大きく息を吸い、凛とした表情を浮かべた。それを感じ取ったのか、雅の手の力が少しだけ緩んだ気がした。
「行くよ…?」
そんな声が聞こえた。小さすぎてきっと上田には届いていない。でも麗奈の耳にはしっかりと届いていた。大丈夫。
「いけるよ」
「上出来♪」
軽やかな声が聞こえる。少しだけ驚いたその矢先、次に聞こえた声は、とても力強いものだった。
「あの日……麗奈が帰ったのは……俺の両親が事故に遭ったからなんだ」
始まった予定調和の茶番劇。
演じるピエロは2人の男女。
でっち上げられた真実を。
さも事実かのように演じきる。
それが彼らの役目なら。
ここにあるのは志高のステージ。
(さぁ…開幕よっ!!)




