みんなの決意
次の日。麗奈の家にいつもの5人が集まっていた。
話の内容は、麗奈のあの話。
「……まじかよ」
「そんなことがあったなんて…」
「何も知らないのはほぼ当然だけど」
「どうして?」
「だって、相手は麗奈よ。簡単に言うわけないじゃない」
唯夏の言葉に澪は最もだといわんばかりに黙り込む。雅の前に座っている真一や拓斗もいやに真剣な顔をしていた。
昨晩の麗奈の話を聞いた雅。麗奈に了承は取り、あの話について5人で話すこととなった。
「そういえば、麗奈は?」
「朝1回おきてからまた寝た。一応昨日倒れてるから…学校にはそういったら了承くれたってよ。今日は休み」
「そっか…じゃあ、今は部屋にいるんだ」
「あぁ。多分様子見に行ってもいいんだろうけど」
雅はそういうものの、今は声をかけにくい。昨日の今日だから。
「えっと…『少年少女スポーツ雑誌』か…高校生の時、私も読んでたな…」
「そうなのか?」
少し驚いたような雅に澪は小さくうなずいた。
「でもあの雑誌…真面目なときと真面目じゃないときの差が激しくて…途中で買うのやめたんだ」
「真面目じゃないって?」
「内容としてってこと。純粋にスポーツ選手になりそうな人追いかけてる記事もあれば、そうじゃないような。他人の弱音に漬け込むようなことも平気で書くらしいし。それこそ、多分麗奈みたいな状態。体操選手の怪我の理由とか、執拗に聞いてくるらしいのよ。いいたくないって言っても、すごい長い期間付きまとってくるらしくて…」
澪の言葉に4人は顔を見合わせる。
「誰か、訴えたりしなかったのかな?」
「その辺はわからない。でも…そうすることができない人、っていうのも…多かったんじゃないかな?」
澪の言葉に真一は首をかしげた。澪はすごくいいにくそうだったが、少しだけ小声になって言う。
「…雑誌に載って、スポーツのインストラクターからスカウト受けた子とかもいて、『その雑誌があったから今の私がいる』みたいな子もいるらしいの。もしその子のことについて執拗に何かを聞かれたら…」
「…恩を仇で返す、ってことか?」
「何考えてんだそれ…まともじゃないだろ」
拓斗がため息混じりに言う。だが、これは事実なのだろう。
あの雑誌に載ったから有名になれた。いい環境がそろった、という人も少なくないのだろう。そう考えると、そうやっていわれた場合、何も言えないかもしれない。それこそ、恩を仇で返すことに繋がるのだろう。
「……それもあいつらの計算のうちってことか?」
「だろうな」
「…実際、でたらめは書かないらしいの。だから信頼性はあるんだけど…内容が内容だったらいするから、売り上げも上がったり下がったりだし、その分本当のことを書くからって執拗に聞いてくるんだって」
澪の言葉に雅は思わず頭を抱えたくなった。この分だと、また麗奈のところに来ることは明白。そうなれば、麗奈はまた傷つくだろう。
(それだけは、絶対避けねぇと…)
あんな顔、もうさせたくない。
――ごめん、なさい…っ!
これ以上、自分の犯しても居ない罪に苛まれてほしくない。
麗奈はちゃんと笑っててほしいから。
「結局、そうやって執拗に攻められてきたスポーツ選手って、どうしたんだ?」
「……地味に包み隠しながらも、話したらしい。そうでもしないと、埒が明かないらしいから」
「……それはちょっと、こっちには無理かもしれねぇな」
今までの選手がどんな事を聞かれて、どんな事を話したのかはわからない。でも、この場合、麗奈は包み隠すところがない。麗奈曰く、1番明白にしないといけないことは『なぜ試合を休んだのか』だから。理由は家族が死んだから。麗奈が1番言いたくない事を、1番始めに言わせることとなる。
それだけは絶対ダメだ。
「どうすりゃいいんだよ…」
拓斗がお手上げといわんばかりに椅子の上でのけぞる。
「このままじゃ、あいつまた麗奈のところに来るぞ?これ以上、付きまとわせたら麗奈が…」
「当たり前だ。これ以上有無言わせるわけにはいかねぇよ」
雅は少しだけ気を引き締める。
「これ以上、麗奈に傷はつけさせない」
「……同感」
「当たり前だよ」
「あぁ」
「ごもっともだ」
5人がともに賛同の意を示したその直後だった。
「…何か、ちょっと申し訳ないな」
突如、雅の背後のあたりから声が聞こえた。でも、誰か見なくても確認はできた。
「麗奈…」
「ごめんなさい。自分のためにとか…」
少し、申し訳なさそうな顔をした麗奈が立っていた。さっき部屋から出てきたようだ。
「だから!麗奈は気にしなくていいんだってば!むしろもっと周りを早く頼りなさい」
「……はい」
控えめな笑顔を浮かべた麗奈は、リビングにあるソファに腰掛けた。
「麗奈、話は?」
「ちょこちょこ聞こえてたから、大体わかってるよ」
「なら話が早いけど…」
「それもわかってる。進むとこまで進んだけど、その先にいけない状況でしょ?」
麗奈の言葉に5人は同時に苦笑いを浮かべる。
解決しなければならないことであることはわかっているし、どうしなければいけないのかもわかっている。だが、決定的な解決策がないということだ。
「麗奈はさ…どうしたい、って言うのがあるの?」
「厳密にはないですが、あいつの言い方が言い方です。本当にただ…自分の得になることしか求めていない。それって…人としてどうかと思いますよね」
――あの大事な試合を、自ら棄権したよね?
理由はわからなくとも、あの言葉だけは絶対に許せない。したくてした棄権ではない。だがそれが、家族のせいだなんて思ってない。
だがあいつの言い分では、この事を言ったとたん『家族が亡くなったせいだ』というだろう。それだけは絶対にしたくない。させるわけにはいかない。許すわけには、いかない。
「その中に少しでも誰かを侮辱するような心を持ち合わせているのなら、即刻謝罪を求めたい。でも…」
「求めるとなると、話さなきゃいけない、か…」
雅の言葉に麗奈はうなずいた。自分の願望をかなえるには、かなりのリスクを伴うこととなる。それを避けるとなると…。
「……どうすればいいんだろう」
結果、こうなる。
(やっぱ…多少の犠牲は払うべきか…)
心の中で麗奈はそう思っていた。だが、その話をすれば、記事に何と書かれるか…。
(本当は、絶対…避けたいけど…)
言わなければ。でも言ってはダメだ。でも…でも――――――。
「……あ。そーだ」
突然、雅が声を上げる。
「…どうしたの?」
「なぁ、麗奈。俺1つ思いついたんだけどさ」
そう言って雅は、ある事を提案した。
「……それって…」
「今までで…」
「1番いい案だと思うけど…」
「その場合…」
「問題視されるのは…」
そう言って、同時に4人の視線が一定の方向へ向いた。その方向にいたのは、麗奈。そして―――雅だ。
「……俺自身、そんなことは問題ないね」
雅はそう即答した。対する麗奈は少し考えたが、やがて―――。
「……もし、雅がそれでいいというなら…それ以上の最善策は無いと思う」
雅と麗奈はそして、顔を見合わせて―――――。
同時に微笑んだ。
「頼んでもいい?雅」
「あぁ、任しとけ」
「…んじゃ、かげながらサポートしようか」
「同感」
「やれるとこまでやってやろうじゃん!」
「仕方ない。助太刀するわ」
4人の賛同も得た。雅の賛同も、麗奈の賛同も得た。
準備は、整った。
「……っしゃあ!やるぞ!!」
『おーー!』
そう言って、7人は互いの拳を突き出したのだった。
見てな。目に物みしてやる!!!




