父へ、母へ
「さぁて…やりますかー!」
『おおぉー!』
今日は久しぶりの仕事の日。麗奈の家にいつもの面子が集まり、いつもの通り地価の部屋で音楽の収録。
「麗奈、大丈夫なの?」
「何がですか?」
「…その、この部屋に来ても」
「あぁ。その辺はもう大丈夫。むしろ、ここはお父さんとの思い出の場所だから。今では毎日欠かさず来てますよ」
麗奈の言葉に澪は大きく胸を撫で下ろしていた。真一や拓斗も同じだった。
「いつまでもくよくよしてる場合じゃないんです。来年は高校受験だし、またいろいろ忙しくなるんで!今のうちに思いっきりやっておきましょう!!」
「了解!」
「それじゃ始めまーす!」
麗奈の声にあわせて、全員が動き始めた。
夕食は雅が作ってくれた。
「麗奈さ…いっつもこんなの食べてるの?」
「こんなのとは失礼な」
雅が少しだけむっとして言う。すると澪は慌てたように両手を振る。
「そうじゃないよ!そうじゃなくて、いつもこんな風に作ってもらって、結構豪華に仕上げてくれるもの食べてるのかなーと思って」
「えぇ。いつも頑張ってくれてますよ、雅」
「そりゃ頑張るだろ。俺ほぼ居候だしな」
「居候の割には、結構強引に押し切ってきた気がするけどね」
「そこ突っ込まれたらおしまいなんだけど…」
雅が多少撃沈する。麗奈が少し誇らしげに鼻を鳴らす。
(…仲良くやってるわね)
唯夏は心の中でそう言った。この2人の間で、心配ごとなんてものはないのだろうな。平和でよろしいが。
「麗奈、学校も大丈夫そう?」
「大丈夫ですよ。別に問題はないですし、みんなも状況は把握してくれてますから。たまにまだ気を使われますけど…徐々にそういうのもなくなってきてる。もうちょっとで、今までどおりの学校生活に戻れる気がします」
「そっかぁ!よかった」
澪は自分のことのように喜んでくれていた。麗奈にはそれが嬉しかった。
「ありがとうございます」
「いいんだよ。ちょっとしたお姉さん心だから」
「あ、お前お姉さんだったの?」
「どういう意味よっ!?」
澪が真一に食って掛かるが、当の真一は飄々としている。そのためまた澪が怒り出す。
(仲いいな、ここも…)
何度か見る光景に、麗奈は苦笑いを浮かべた。
(学校大丈夫、か…)
ふと、そんな言葉が脳裏を掠めた。
いや、学校で実際問題があるわけではないのだ。だが…。
(ここ最近、ちょっと妙に違和感あるのよねぇ…)
学校へ行くたびに、なんだろう。違和感というか…そういう何かをよく感じるようになったのだ。簡単に言うと、麗奈は…。
(何か大事なこと、忘れてる気がするんだよねぇ…)
ずっと心に引っかかっていることがあるのだ。きっと、それが気がかりで仕方がないのだろうが、その引っ掛かりが厳密にわからない。それが余計にもやもやした心を掻き立てる。
(結構頑張って思考をめぐらせてるんだけどなぁ…)
未だに答えは出ていなかった。でも、すごく…すごく、嫌な予感がするのだ。
自分の忘れているこのことが、何かの結果を招きそうで。
だからこそ、その正体を一刻も早く突き止めたいのだが…なかなかうまくいかないのが現状だ。
(えぇい、もやもやするなぁもう!)
麗奈はぐっと眉を寄せた。が、それを即座に解除する。
「麗奈、今なんかした?」
「え?何もしてないですよ?」
「そう?幻覚かしら…」
「せめて見間違いって言ってくださいよ…」
唯夏の言葉に、麗奈はまた苦笑いを浮かべた。
「でもま、何にも支障はなさそうだし。思ったよりも、麗奈の立ち直りが早くてよかったよ!」
「え…?」
「正直さ、心配だったんだよね。麗奈、もしかしたらプロデューサーやめちゃうんじゃないかってな」
拓斗の言葉に、麗奈は少しだけ目を開いた。
(そっか。プロデューサーちゃんと続けるんだ!って宣言したの、雅にだけだったっけ…)
改めて思い出した事実に、麗奈は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
(ずっとずっと、心配してくれてたんだね…みんな…)
「心配かけて…ごめんなさい。でも…私、ちゃんとプロデューサー続けます。みなさんと…お父さんとの約束でもあります。自分でやると決めたことはちゃんとやりきります。だから、これからもよろしくお願いしますね」
『もちろん!』
みんなの笑顔が嬉しかった。信じてくれていたことが嬉しかった。
「…ありがとう…っ」
麗奈はそっと微笑を漏らす。すると4人は少し驚いた顔をしたが、また笑顔を返してくれた。
(私には、支えてくれるひとがたさんいるから。だから平気だよ。お父さん。お母さん)
ずっとこの部屋の奥で、見守ってくれている亡き父と母に麗奈は心で話しかける。
(みんな優しいし、強い。おもしろくて、一緒にいるとずごく和む。すごく温かい。ありがとう…この人たちと私を引き合わせてくれてありがとう。お父さん)
機械の知識をくれてありがとう。
背中押して、プロデューサー試験受けさせてくれてありがとう。
この5人を、自分の歌い手に指名してくれて、ありがとう…!
(お父さんがいたから、みんなと出会えた。お母さんが側にいてくれたから、勇気が出た。本当にありがとう)
「麗奈?どうかしたの?」
「いいえ。ただ、心の中で。大事な人にお礼言ってただけですよ」
麗奈の一言に澪と真一だけが首をかしげた。
その光景に麗奈は思わず笑う。
「いいんです!気にしないで!ほら!ご飯が冷める!」
「うわっと!そうだった!」
今頃だが、我に返った澪が箸を進め始め、それにつられてまた夕食が再会した。
この5人と夕食を食べることになれたのも、志帆のおかげだった。
本当に、礼を述べても言い切れないくらいの感謝の気持ちでいっぱいだった。
(本当に、ありがとう―――)
麗奈は父と母に礼をいい、そして目の前にいる5人に礼をいい。
そして眼下にある食に、感謝しながら箸を取った。




