重ねた面影
「こ、ここですかな…」
麗奈はある一軒のお店を見上げてつぶやいた。
ことの発端は2日前。唯夏に「雅が何で麗奈に優しいのか、知りたいでしょ?」ということで教えてもらうことになっていたのだが――――。
あのあと唯夏にデートに誘われたわけだ。
「週末、このお店で待ってるから。1時にここ集合。私絶対ここにいるから。時間厳守ね!」
唯夏はその言葉と1枚の紙を残して帰っていった。
紙には、一軒のお店の名前と麗奈の家からの道順が書かれていた。
「安易な地図だったけど、たどり着けたな…」
麗奈は紙に書いてあるカフェの名前と、看板にあるカフェの名前を比べ、間違っていないことを確認する。
現時刻は12時55分。ほぼぴったりだ。
(…絶対いるって言ってたし…入ってみようかな…)
麗奈は紙を治め、目の前にある木製の扉を開いた。すると―――――。
「いらっしゃいませー」
軽快な声が聞こえたと思った瞬間、麗奈は思わず声を上げかけた。
中は和やかな雰囲気のカフェだった。カウンター、テーブル両席があり、アンティークな感じだった。着飾らない美しさがあるようだ。
そして今入ってきた麗奈に声をかけてくれたのは―――――――。
「…ゆ、唯夏さんっ!?」
「いらっしゃい、麗奈」
そこに立っていたのは、エプロン姿の唯夏だった。
「な、何でここに…っ!?てかそれ…!」
「はーい、説明はあとでするからねー。今は、お席へどうぞ?」
唯夏の言葉に促されるがままに、麗奈は1番長めのよさそうな窓辺の席へ案内された。
少し待ってて、と唯夏にジェスチャーされたため5分ほど待つと、唯夏がエプロンを外し、こちらへ向かってきた。
「ごめんね、ちょっと驚かせたかったの」
「驚かせるの好きですねぇ…」
「まぁね」
思った通りの反応したのだろう。とても満足そうだった。
「ここね、私がバイトしてるカフェなの」
「……それだけで全ての辻褄が合います。休憩ですか?」
「ううん。今日は昼まで出上がり。今はお客よ」
だから昼の時間に合わせて麗奈をここへ来させたんだ…。ホント、計算してるなぁ…。
「とりあえず、何か飲みな。ここは私おごったげるから」
「いいんですか?」
「もちろん」
麗奈はふっと息を漏らし、その好意に甘えさせてもらった。
麗奈はミルクティー、唯夏はレモンティーを頼み、2人だけのお茶会が始まった。
「さぁて、さっそくだけど、本題に入ってもいい?」
「あ、はい…」
運ばれてきたミルクティーに軽く口を付け、麗奈は唯夏の言葉に耳を傾ける。
「最初に聞くけどさ、麗奈は雅から何も話されてないんだよね?自分のこと」
「そー…ですねぇ。私、雅のことは何も知らないなぁ…」
「あぁ見えて結構頑固だからね。でもま、雅いるとよく働いてくれるでしょ?あいつ人良いし。私はあいつと中学から一緒なんだけど、中学も高校も、よく雑用押し付けられてたから」
「……想像できますね」
確かに雅はいい人だ。面倒な仕事も引き受けてくれることだろう。
「そう考えると、雅ってすごいなぁ…。料理もできるし…魔法使えるし…」
「魔法?」
「あ、それはこっち個人の話なんですけど…。でも、雅って結構家庭的ですよねぇ。料理なんてどこで覚えたんだろう?」
「……独学よ」
「え――――?」
不意に聞こえた言葉が、寂しげに聞こえて麗奈は思わず聞き返してしまった。
「…独学、ですか」
「うん。…雅ね、小さいころに病気でお父さん亡くしてるの」
「え…?」
「お母さんもあまりからだ強いほうじゃなかったらしいんだけど、雅のために必死に働いてたらしくて…。そのころ雅、家で1人で留守番することが多かったんだって」
麗奈は、何もいえなくなった。
―――――――なんだ、それ。
「そのころから、雅は家事とか自分でやるようになったらしいの。中学卒業して高校生になって…丁度、今から2年前かな?…お母さんも、過労で亡くなられたの。雅はそのままおじいさん家に引き取られたらしくて、今でもそこに住んでるらしいよ」
「……雅も、高校生の時に…1人になったんだ」
「現状としては、麗奈のほうがずっと現実は重い。でも…そうね。境遇という面で、両親を亡くしてることに変わりはないわね。その時からかなぁ…。雅、よく空元気することが多くなったよ」
唯夏はそっと窓の外を眺めた。細められた目は、いつぞやの事を思い出しているのだろう。
「葬式の時も、泣きそうな顔しておきながら、自分は泣かないの。雅が泣いたところなんて誰も見たことないってくらいね。周りのこと常に気にかけてあげて、必ず誰かの支えになってる。でも結局…自分を支えてくれる人が、まだ見つかってないんだけど」
――麗奈は、俺が守るよ。
――…つらいんじゃない?
――麗奈はどうしたい?どうしてほしい?
雅のかけてくれた言葉の数々が、まるで走馬灯のように駆け巡る。
「雅はきっと、誰よりも知ってるわ。…側に誰もいない寂しさや焦燥感。きっと誰よりも…知ってるわね。だから余計、ほっとけない部分はあったと思うわ」
唯夏の言葉ももう聞こえない。耳からどんどん抜けていく。
ただ今、麗奈が思うことは1つだった。
「…それってつまり…『同情』があったってことですか?」
「一重にそれだけじゃないとは思うけど…そうねぇ。自分と、重なる部分があったんじゃないの?」
唯夏はそう言って、前においてあるレモンティーを一口啜る。
「……そうですか」
麗奈は大きく息をつく。すると唯夏が小さく首をかしげた。
「麗奈?どうしたの?」
「…雅って…」
「雅って?」
「案外、相当馬鹿ですね」
「……ぶっ!」
唯夏は突然の言葉に、飲んでいたレモンティーを吹き出しかけた。
「え、ちょ…」
唯夏が驚いていると、麗奈は徐に自分の頬の辺りまで右手を上げる。
そしてそこで、強く拳を握り締めた。
「もしも、あの優しさの塊の5割以上が同情からできてるんだったら…私は、一発雅をぶん殴る!」




