突然の申し出
とある喫茶店の中で、4人の少年少女は叫んだ。
『はああああああぁぁっ!!?麗奈と一緒に住むううぅぅっ!!?』
「声でけぇ。お客サマに迷惑だろ?」
鬱陶しげに耳を塞ぐのは、4人の前に1人で座っている雅だった。
「いやいや!!この際何も言ってらんねぇよ!!どういうことだ!?麗奈の家に住むって!?」
「いや、言葉通りの意味。どちらかといえば居候に近いけど」
「そうじゃなくて!?成り行きを説明しなさいって言ってるの!!何がどうなってそうなったの!?麗奈の了承はもらったの!?」
「だから。話聞けって言ってんだろ?」
雅は目の前に座る4人。澪、唯夏、真一、拓斗に向けて言う。4人は目を丸くしたまま、雅の話に聞き入った。
「麗奈の了承はもらってる。昨日話した。それでわかった。今の麗奈には、側にいるヤツが必要だって」
「そりゃ、そうかもしれないけど…」
「じゃああたしたちだって…っ!」
「澪も唯夏も真一もバイトあるだろ?拓斗も実家のほうの手伝いしなきゃいけねぇってときがあるって言ってたじゃねぇか」
雅の指摘に澪が黙り込む。確かに澪も唯夏も真一もバイトをしている。拓斗の家はもともと農家なのだが、拓斗はたまに手伝いに呼ばれたりもしていた。
「連日、麗奈の側に誰かがいることを考えたら、都合はピッタリだろ」
「……それは確かにそうかもしれない。でも…何も、居候まで…?」
「そもそも、何で雅はそこまで麗奈を気にかけるわけ?俺たちも確かに心配だけど…そこに恋情があるわけじゃないんだろ?」
「恋情、ねぇ…」
ふいに雅は少しだけ遠くを見るように目を細めた。
「確かに今現在…恋情なんてものはないと思う。でも何か…ただほんとに放って置けないんだよ」
雅は細めた目を完全に閉じ、何かを思い出すように、優しげに語った。
「麗奈はさ、絶対人前で泣かないんだ。内側に溜め込んで、必死に繕ってでも笑って、誰もいなくなったら感情が爆発する。泣き出したら止まらないくせに、絶対に泣かない。見てるとホント、危なっかしくて…ハラハラして。だから、誰かに任せたりするよりも、俺の目の届く場所にいてほしいと思うんだよな」
閉じた瞳の奥にはきっと、麗奈の顔が浮かんでいるのだろう。表情がすごく柔らかい。
雅の言葉を聞きながら、4人はそっと顔を見合わせた。
((………一般的に、そういうの恋情って言うんじゃ…))
声に出さずに4人は唸る。
(疎いからな、雅は…)
「どうかしたか?」
「いいや、何でも」
真一はため息混じりに言う。雅は少し疑問を抱いたようだが、何も言ってこなかった。
「そういえば、麗奈は今どうしてるの?」
「あー。多分一晩泣いたから吹っ切れたんだろうな。昼前に起きてメンテナンスしてた」
「マジ?がんばるなぁ、もう…」
「まぁ、今朝の時点で無理してた様子はそんななかったし…今は問題ないと思うけどな。学校も明日か明後日には復帰したいって言ってたしな」
雅の言葉に4人は小さな安堵の息を漏らした。
少しずつでも、元気になろうと努力しているんだ。
そう考えると、自然と心がほわっとした。
が、それと同時。あることに気が付いた。
(……一晩泣いた?)
(……今朝の時点?)
「ん?どうかしたのか?」
『イイエ。ナンデモアリマセン』
もう、いろいろいいや。うん。
「でも一緒に住むはいいとして…部屋とかどうすんの?」
「陽智さんの部屋使えってさ」
「麗奈が家にいない間、雅はどうするの?」
「どうするかねー?家の何かしてるか、寝てるか、買い物いってるか、麗奈に地下の機材の使い方教わって歌練してるかだと思うな。あ、もちろんメシは俺が作る」
「あんた以外に家庭的だったもんね…」
断片的な話だけ聞くと、粗方問題は無いと感じられた。澪たちだって時たまだが麗奈の家に足を運んでいるのだ。そこに雅がいるかいないかの話だと考えれば、大きく変化はしなさそうだ。
(あとは、麗奈次第かな…)
後のことはきっと麗奈の頑張り次第で決まってくるだろう。
「早く立ち直れるといいな、麗奈…」
「側にいるからには、ちゃんと支えてやんなさいよ、雅」
「活躍に期待だな」
「へんなことしたら怒るぞー」
「いや、しねぇし」
ここまできてやっと話は和解状態。方はついた。
「んじゃま、とりあえず…」
そう言って5人は立ち上がった。
「麗奈んち行くか!!」
『おー!』




