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それからと言うもの、麗奈と雅の距離が端から見てもなんとなく近づいたような気がしていた。だが、それを指摘するものはいなかった。
麗奈と雅自身も、なんとなくそう思っていたのだが、互いに口には出さなかった。ずっと敬語だった麗奈は、雅にだけはため口を聞くようになった。それに、前よりも積極的に残りの4人とも接触をはかるようになった。
そうした月日は、あっという間に1年を刻んだ。
麗奈のプロデュースした雅たちの歌は、最近の動画番組で大きく反響をよんでいた。もともと歌がいいだとか、歌う人の声がいいと言うのもあるが、その歌の加工のかっこよさ、うまさなども評価されるようになってきた。
そんなある日のこと。
「こんにちはー」
「やぁ、いらっしゃい」
雅たちを迎え入れたのは、麗奈の父、陽智だった。いつもならこのときに、麗奈もで迎えてくれるはずなのだが、今日は麗奈の姿がなかった。
「麗奈は?帰ってきてないんですか?」
「麗奈は部活が忙しくてね。そろそろ試合があるらしいんだ。2年生になったわけだし、ほぼでずっぱりらしくてね。大変なんだと思うよ」
「そーなんですか」
「運動できて、歌もうまくて、勉強できて......すげぇな!?」
まばらな称賛の声があがっている最中、突然玄関が開いた。
「あ、みなさん来てましたか」
「お帰り、麗奈」
「ただいまー!お待たせしてごめんなさい」
「ううん、いいの。あたしたちも今来たから!」
「そーだったんですね。じゃあ、すぐ準備してきます!下で待っててください!」
麗奈はそう言うと、自分の部屋へ行くべく、リビングに入っていった。
雅たちは言われるがままに一足先に地下へ向かった。
しばらく待つと、麗奈が入ってきた。
「お待たせしました。さ、始めましょう!」
最近の日課のようになっていることが、雅たちが麗奈の家に来たときは、必ず夕食を食べてかえってもらうことだ。
それは、志帆の提案だった。
断る理由もなく、雅たちと何度か食卓を一緒に囲んでいると、それが自然と日課になったのだ。
そしてまた、今日も共に夕食を食べる。
今日は冷しゃぶだった。
「雅ー。ドレッシング取って?」
「はいよー」
たまたま雅の近くにあったドレッシングを取ってもらう。その光景をじっと見つめていた澪が、ズバッと言った。
「2人ってさー。付き合ってんの?」
『...............はい?』
「だって、仲いいし、ため口だし。なかむつまじいし」
『...いやいやいやいやいやいやいやいや!!』
2人は同時に否定する。
「ち、違いますよ!ただあの...えっと、何か...、な、仲間といいますか、秘密仲間と言いますか...」
「普通の友達だよ!別に何もない!なあ!?」
「え!?あ、そー!!そうですよ!」
必死に弁解したせいか、何となく疑惑の目を向けられてしまった。もちろんそれは、親からも。
「麗奈、健全なお付き合いを――――」
「だから!!違うって!!」
「麗奈、父さんは――――」
「だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁもう!」
なかなかに話が進まなかった。
するとすかさず雅が助け船を出してくれた。
「そ、そーだ麗奈!試合があるんだろ!?」
「あ、そうだ!!お母さん!!日程決まったんだよ!」
「あら、いつなの?」
「えっとねぇ、来週末」
すると、突然志帆の表現が曇った。
「来週末?まさか土曜日?」
「え、土曜日だけど?」
「土曜日......ひいばあちゃんの三回忌なのよ」
「ええーー!?」
どうやら、試合の日程と法事が重なってしまったらしい。麗奈は、途端にしょんぼりする。
「ショック...折角従兄弟の優と翔太にも会えると思ったのに......」
「仕方ないわね。親族のみんなには、私から伝えておくわ。麗奈は試合、がんばるのよ」
志帆に続いて、雅たちも声援を送る。
「がんばって、麗奈!!」
「応援しとくぞー!」
「おもいっきりやっちゃいなさい」
「......まぁ、仕方ないですよねー。こうなったからにはがんばります!」
麗奈はそう言うと、吹っ切れたように笑った。
そしてまた、家族だんらんのような楽しい夕食が再開される。
ここには、笑顔しかなかった。
みんながみんな、微笑みを浮かべている。
だからこそ、誰もわかりはしなかった。
このあと起こる、最悪の悲劇はもう、そこまで迫っていたことを――――――




