第5話 夏の夜空と、約束
タイムリープから三ヶ月が経ち、夏の盛りが訪れていた。
蝉の声が賑やかに響く放課後、美術室で絵を描いていた桃華が、少し照れくさそうに提案してきた。
「朱音……来週の夏祭り、一緒に行かない?
去年は行けなかったけど、今年は絶対行きたいな」
その淡いピンクに染まった頰と、期待を込めた瞳を見て、私は自然と微笑んだ。
「もちろん。浴衣でいく?」
「うん! 朱音も浴衣着てくれると嬉しい……」
「わかった。頑張って似合うようにするよ」
夏祭りの当日。
夕暮れの神社境内は、橙色の提灯の光で幻想的に照らされていた。
私は紺と黒を基調にした浴衣に、赤い帯を締めた。
動きやすいように少し丈を短めにしてもらい、髪は後ろで軽くまとめ、いつものスポーツ少女らしい凛とした雰囲気の中に、女の子らしさも少し意識した。
待ち合わせ場所で桃華を見た瞬間、私は息を飲んだ。
淡い水色の浴衣に、白と薄紫の花柄。
長い黒髪を優しく結い上げ、耳元に小さな金魚の簪を付けている。
夕陽と提灯の光が彼女の白い肌を柔らかく染め、まるで絵から出てきたような可憐さだった。
「朱音……すごくカッコいい。
かっこいいのに、女の子らしくて……素敵」
「桃華こそ……本当に綺麗だ。
その水色、君にぴったりだよ」
私は照れくささを隠すように笑った。
胸の奥が、温かい橙色で満たされていく。
私たちは並んで祭りを回った。
りんご飴を分け合い、射的で景品を競い合い、金魚すくいでは桃華が夢中になって何度も失敗し、私が笑いながら手伝った。
「朱音、ほら! 今度こそ取れたよ!」
「すごいじゃん、桃華。
その笑顔、ピンク色に輝いてるみたいだ」
他愛もない会話と笑い声が、夏の夜に溶けていく。
この時間が、どれほど尊いものか、私は誰よりも知っていた。
やがて、花火大会の開始時間が近づき、私たちは少し高い石段に腰を下ろした。
夜空に最初の花火が上がった。
ドン——!
赤と金色の大きな花が広がり、続いて青、緑、紫、ピンク……次々と鮮やかな光が夜空を彩る。
桃華が私の腕にそっと寄りかかってきた。
水色の浴衣の袖が、私の浴衣に触れる。
「綺麗……」
「ああ、本当に綺麗だ」
私は桃華の横顔を見つめた。
花火の光が彼女の瞳に映り、七色の輝きを宿している。
淡いピンクの頰が、橙色の光に照らされて優しく輝いていた。
その光景が、去年の血の赤を思い出させた。
私は無意識に桃華の手を強く握っていた。
「朱音……?」
「……桃華」
私は真剣な声で言った。
「私は、絶対に君を守る。
どんなことがあっても、絶対に。
この夏の花火みたいに、君が笑っていられる毎日を、これからも一緒に作っていきたい」
桃華は少し驚いた顔をした後、柔らかく微笑んだ。
花火のピンクと紫の光が、彼女の顔を優しく包む。
「うん……信じてる。
朱音がそばにいてくれるなら、私は大丈夫だよ」
彼女は私の手を握り返してきた。
その手は小さくて温かく、でもとても頼もしかった。
大輪の花火が次々と夜空に咲く中、私たちは肩を寄せ合って座っていた。
赤、橙、金、青、紫……無数の色が空を染めるたび、私の決意はより鮮やかで、強く燃え上がっていった。
この夏の夜を、私は絶対に忘れない。
そして、これからのすべての日を、桃華と共に輝かせていく。




