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第4話 守るための拳〜強くなる理由〜

それからの日々は、幸せに満ちていた。


しかし、完全に平穏というわけではなかった。


ある放課後、私は空手道場の帰りに学校へ戻ってきた。


道着の袋を肩にかけ、美術室の前を通りかかったときだった。


中から、桃華の小さな声が聞こえた。


「……やめてください、先生」


私は足を止めた。


ドアの隙間から見える光景に、胸がざわついた。


美術講師の男が、桃華のすぐ近くに立っていた。


桃華は後ずさり、背中をキャンバス棚に押し付けている。


男はニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべ、桃華の肩に手を置こうとしていた。


「桃華、もっと近くで見せてくれよ。

 君の絵、俺は本当に好きなんだ。君自身も、な」


桃華の声が震えていた。


「やめてください……

 そういう言い方、嫌です。

 私はただ、絵を教えてほしいだけなんです……」


男の笑みがさらに深くなる。


指が桃華の髪に触れそうになった瞬間、私は我慢できずに美術室のドアを勢いよく開けた。


ガタンッ!


「やめてください!って言ってますよ」


私の声は低く、冷たかった。


男がゆっくりと振り返る。


その目は明らかに苛立っていた。


「うるせえ!

 邪魔するとどうなるか、分かるか?」


男が一歩近づいてくる。 


威圧的な体躯と、元格闘家らしい鋭い目つき。


確かに強そうだった。


私は拳を強く握りしめ、グッと堪えた。


今ここで喧嘩をしても、桃華を守ることにはならない。まだ、完全に強くなっていない。


(……絶対に負けてたまるか。

 今は我慢だ。我慢して、もっと強くなる)


私は男を睨み返しながら、静かに言った。


「今日はもう帰ったらどうですか?

 桃華も疲れてるみたいです」


男は舌打ちをし、私を睨みつけた。


「チッ……今日は俺が帰る。


 赤い女、覚えておけよ」 


男は桃華をもう一度振り返り、ニヤリと笑ってから美術室を出て行った。


足音が遠ざかっていく。


ドアが閉まった瞬間、桃華の体から力が抜けた。 


「朱音……」


「桃華」


私はすぐに彼女の元へ駆け寄り、優しく頭を撫でた。

長い黒髪がさらりと指の間を滑る。


桃華の体はまだ小さく震えていた。


「ごめん……また、先生が……」


「謝らなくていいよ。桃華は何も悪くない」


私はできるだけ優しい声で言った。


胸の奥では、緋色の怒りが静かに燃え続けていた。


「大丈夫。私がいるから。

 もう、怖い思いはさせない」


桃華が私の制服の袖をそっと掴む。


その瞳に、淡いピンクの涙が浮かんでいた。

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