1-2 『分かたれた2人』
◇←零視点
◆←明日香視点 で進みます。
◇
「獣人の街〈グラシル〉多種多様な獣人が生活しており、その人口は他の街と比べて最大。こっちで言う犬や狼、猫に熊に虎といったーーええと、まぁ陸上生物?がモチーフの人が大半を占めていると。
鳥やら魚といった獣人もいるらしいけど、それぞれ自身が適応した環境に適応しているから別々の街を築いてる……そして、グラシルにいる獣人たちは元々種族ごとにコロニーを作ってこじんまりとした生活を送っていた」
零は覚えるために独り言をつぶやく。
「そんな時、突如として名を挙げた一族が現れた。それが〈カルロフ一家〉
狼の獣人が当主を務め、敵を蹂躙することに特化し、身内を守ることを信条とする組織。つまり警備兵ってところ?それが頭角を現し始めた。」
遺跡からグラシルまでは相当長い旅路になるので、その間にフギンさんから目的地の事や文化についておさらいして貰いながら歩く。歴史を飛ばし飛ばしとはいえ1からなので相当長い。
「分からなければ遠慮なく聞いて大丈夫だよ!知らなかったら不敬でシケイ!とかにはならないから」
「何処でそんな言葉を覚えたんですかね……フギンさん……」
しかもグラシルが出来た前はもっと長い歴史があるそう。ざっくりとした年表なら4000年はあるぞこれ?どうなっているんだこの世界は。
「にしても長い道のりだなぁ……」
「私たちはもっと速い速度で走れるからこれくらいの距離へっちゃらなんだよ!」
「狼に勝てるとは思えないよ」
ここまで1時間は歩いているはずなのにグラシルに着くことはない。
今は道中にある深い森の中、彼女いわく〈ジークフリートの森〉と言われているらしい。森と言っても木が密集しているわけではないが、個々の大きさが神社などになる大木に近しい大きさなので圧は差し引き倍と言ったところだろうか。
「おっとと、木の根が……」
木が大きいということは根も相当に増大しているということ。その分足を大きく上げなければならないので疲労が工場に行くより何倍も早く溜まっていく。足がだんだん重くなってきた。
「もしも明日香なら……いや考えても無駄か。考える前に特攻するなあいつは」
そう思い馳せながら、グラシルへ行くための長すぎる旅路を呪った零だった。
◆
「…………」
「…………」
何処か分からない荘厳な城。大広間の階段を挟む上下に2人はいた。下にいるのは明日香。彼女は転移時、この場所にたどり着き彼と会合した。上にいるのは狼の獣人。身長だけで2mはありそうな大柄の男であり、左目にある眼帯はそこにつけられた大きな傷跡と合わせて痛々しく見える。
「…………」
「…………」
沈黙が場を包む。次に放つ言葉の重要性がどれだけ重いのかを感じ取っていたからだ。なぜなら、両者この出会いが偶然とは思えていなかったから。仕組まれていたのか、故意的なものなのかは分からない。しかし、1つだけ信じれるものがある。『相手が異質な存在』であるということだけは双方確信していた。
「……名を名乗れ、話が進まん」
「私の名前は柊 明日香よ。突然ここに来たから一切分からないわ」
「カルロフ・ヴォルガードだ。……カルロフ家の当主であり、グラシルーーこの街の全権代理人だ」
【グラシルの全権代理人】その肩書がどれだけの重みなのか、グラシルを知らない明日香は感じることができない。しかし、相手がどれだけの大物なのかは理解できる。敵に回してはいけない、確実に勝てない。そう思わせるほどの実力を持っている。
先に口を開いたのはヴォルガードだ。
「こちらに来い。来賓として招待してやる」
「主様!その子は…」
「『私が招いた客』だ。2人だけにしろ」
「…はっ」
近衛兵らしき人物にそう命じる。表情や体躯は鎧に包まれ分からないが、意外な反応だということは分かった。
部屋に入ると、まず最初に目についたのは本だった。1つだけではない。店で置いていそうな1段でも短いシリーズ本全て入りそうなサイズの本棚が両端に空白を一切残さないように並べられていた。本、本、本本本本……これら全て読んでいたとするならどれだけ途方のない時間がかかるのだろうか。
部屋の中央の少し奥に置かれている使い古された両袖デスクは部屋の落ちついた雰囲気にひどく適している。机の上にある明かりが無ければ暗さで恐怖すら感じそうだ。
「……この席に座れ」
明日香とヴォルガードは対面の席に着く。
この話し合いの目的は情報の交換。お互いの素性が確信できない以上、やるべきなのは相手を知ること。暗黙の下に停戦協定が結ばれ、卓に座ることができるのだ。彼は独り言の様に。しかし、明日香へあることを伝えるために言葉を紡ぐ。
「カルロフ家はこの街を守る守護者である。脅威を潰し、平和を享受できる環境を作り上げて。何百年も続いてきた由緒のある名家と言って良いだろう」
「……その頭領さんが隠し事をして大丈夫なの?」
「1人の命など、この街の平和に比べれば大差ないということだ」
解釈するなら、「脅威ではない」という所だろう。何も言うことはできない、黙って話を聞く。
「この街には多くの獣人が生活している。彼らはここで生きてきた者もいれば“外”から来るものだっている。部外者には慣れたものだ。ーーしかし、お前は別だ」
張り詰めた、しかしどこか追い詰められたような顔でそう断言する。漏れ出た感情がその場の空気を支配し、重く、冷たくなった。心外なことを言われた明日香だったが、その心が動揺することはなく、ただ真っすぐ前を見つめていた。
「先程『突如ここに来た』と言っていただろう。お前はこの街について知っている様子は全くなく、更に私たちとは別の…何か違う生き物に見える」
見えると言ったが、実際は視覚的なものだけではない。人間特有のにおいや足音を獣人は全て利き分ける。それらを全てひっくるめて「見える」と言ったのだ。
「それを街の人々が良く思うか悪く思うかは分からない。だが、そこは問題ではない。今重要なのは……お前が、別の世界から来たという事実だけだ」
「そこまで見破られてるのね。話が手短で助かるわ」
「今ので確信しただけだ」
「(いやいや、馬鹿げたハッタリをよく通しに行こうと思ったわね。多分、これ以上のゆすり合いは私が不利になるだけだわ)」
知識も頭脳も相手に上を取られている以上は、何を言ったとしても効果的ではない。なぜなら話し合いという場は対等でなければ成立しない。そうでなければ待っているのは一方的な搾取だけだ。
「(……なら、やることは一つね)」
話し合いが成立しないならば、そして相手が友好的な関係を築こうとするならば。
「私はある人物を探している。名前は柊 零で私と同じ種族。この世界に同じく転移してここに来ているはずだけれど、はぐれて現在行方不明なのよ」
目的を話すことで、相手との友好的な関係を築こうとすることだ。明日香に興味が向いているのは別世界から来たことから由来する。ならば同じ転移者である零に対して興味が向かないわけがない。
「……2人転移しているのか。他にもいるのか?」
「知ってる限りは他にいないわ」
「そうか。なぜその人物を探しているのだ?」
「それは……大切な親友だからよ」
ヴォルガードは明日香が嘘を吐いたとすぐさま気づいた。獣人特有の鋭敏な感覚は人の嘘や動揺を容易に見抜く。そのためこの世界において偽る行為というのはご法度であり逆鱗に触れるようなものだ。
「嘘だな。親友とは別の理由で助けたいように見える。何か思惑があるように考えられるが?」
目を細めて瞳孔を大きくする。明日香が何か一つでも間違えればこの話が流されてもおかしくはない状況だ。
「(まずった……どうしよう……)」
「……ならこうしよう」
ヴォルガードは机の引き出しから何かの紙を取り出し、羽ペンを使ってスラスラと何かを書いている。書き終わったかと思えば軽く待った後に、彼は紙を持ち立ち上がり明日香に手渡す。それには〈雇用手続〉と書いてあった。
「私の下で働いてもらおう。ちょうど問題が発生していたのでな」
「……………………へ?」
歪な物語が、今始まろうとしていた。
【グラシルの全権代理人】グラシルには信仰される神がいて、その代行者という立場にいるのがヴォルフガード君です。全権代理人という大きな肩書だけあって管理、後任育成、政策etr⋯⋯と仕事は多種多様。なのでこの席に付く人は強く、そして賢い人物が求められます。(意味:ものすごく強い)




