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銀の弾丸《シルバーバレット》  作者: オーコ
1章『episode:dreamer』

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1-1 『小さな慟哭』

『畏れるな。立ち向かい、自我を持て。光は、心の中に在るのだと』


 その言葉が頭の中で反芻される。なぜかそれが「引っかかったことに」違和感があった。(れい)には昔に聞いたことがあるような……しかし、そんな記憶はない。なぜなのだろうか、まるで大切な事を忘れているような感覚になり、それを思い出さなければならないという感情に引っ張られる。どれだけ思考したとしても答えが出ることはなかった。


「 一体、ここは何処なんだ?」


 周りを見わたすと、石で作られた建物の中にいるようだ。石の間には木の根が見え、空気は少し冷えている。


「たぶん、古びた遺跡?それも相当大昔の」


 過去にタイムスリップ。というのは先ほどの声からしてありえない。

彼女は〈転移する〉と言っていたのだ。⋯⋯しかし、それが嘘の可能性もあり得るのではないか?


「ーー分からない。決定的な証拠といえる物があまりにも無さすぎる」

 

 一度に新しい情報が来すぎているのだ。素性のわからない人物、突然の転移、何も情報がない遺跡。そして、


「あっ!明日香は!?」


 そう思いもう一度周りを見渡しても明日香はどこにもいない。そして、理解できない状況で、傍から消えた明日香。零が取り乱すには十二分なほどの状況だった。


「誰かーーー!!おぉーーーーーい!!!」


 遺跡に自身の声が響き渡る。しかし、返事はない。ように見えた。


「足音……?」


 どこからか足音が聞こえる。大きさから考えて……こっちに向かってる


「こっちだ、「わおーーーん!」えっ犬!?」


 四つ足の小さな犬がこちらへと高速で向かってくる。向かってくるというか……突撃してきてない!?


「ちょっとストップ!!」


「??」


「待ッッーー!!」


 小柄だとはいえ推定自転車並みのスピードをもってこちらへと突撃してくる。

 そのエネルギーは計り知れず、そして止まることもなく


全力で突っ込まれた


「ーーッッ!!」

 

 背中を大きく打ち付け、肺から空気という空気が吐き出される。大きくふっ飛ばされ壁に全身を強く打ち付けられた。

全身から力が抜けていく。かすかな視界から見えた姿は、深い緑の、狩人の目をした獣の少女だった。

 ここで零の意識は完全に途切れてしまう。古びた遺跡に居るのは一人の青年と一匹の人間と犬のハーフに見える幼い子ども。それも女の子である。しかし、その彼女はーー


「えっと、だいじょうぶ?

⋯⋯(零の顔面を何度も叩く音)

⋯⋯(零の周りを歩く)

⋯⋯(上を向いてどうしようか考える)

⋯⋯(何も思いつかなかったので暫く待つことを決める)」


 自分から気絶させておいて、完全に打つ手が無いのであった。





「ごめんなさい!」


「うんうん。もう大丈夫だから、なんとか生きてるから」


 今日二度目の意識を取り戻し、目の前の幼女から全力の謝りを見せられて逆に罪悪感を覚える。一見すると犬にしか見えないが、人の形を取っており、顔立ちも人間らしさがある。いわゆる「獣人」と呼ばれるものだ。

 獣人を見るのは2度目だが、初めて見た時と、この子はところどころ違う。人が獣になったというより、獣が人になったような⋯⋯?動物を人体の形に変形しましたと言われたら納得しそうな見た目をしていた。


「それで⋯⋯えっと⋯⋯君の名前は?」


 話したいことは多かったが、まずは自己紹介からすることにした。


「名前?私の名前はフギンだよ!」


「フギンさん、苗字も教えてくれるかな?」


「苗字?ないよ」


 彼女は首をかしげる。苗字という文化が無いのか?


「えっと、苗字というのはーー」


「知ってるよ?でもないの」


 一方的に話を切られてしまい、微妙な空気になってしまう。ものすごく色々と突っ込みたい、現代日本とは異なる物事が多いだろうが、正直言ってどれだけ時間がかかるのか分からない。そういう話は安全な場所でやるべきだろう。こんなよくわからない遺跡では安心できるわけがない。


「こういう転生モノって、町とか建物とかに出るものだろ。人が全くいない遺跡とか普通に考えて詰む可能性あるし、近くにこの子がいたから良かったけど」


 子供ーーそう子供だ。だとしたら、親がいる可能性が高い。一人で来ているとは常識的に考えづらい。常識は違うことはさっき理解したが、こんなに小さい子を一人で外に出す大人はまあいないだろう。


「フギンさんはこんな遺跡にどうして来たの?親とか付き添いの人とかは来ていないの?」


「……?いないよ?だってここに行けって言われたもん」


 予想は大きく外れた。頭を抱えつつ、必死に思考する。


「いないのか……どうすれば……ん?〈言われた〉?つまり誰かにお願いされて来たのか?」


「うん。ムニンおねえちゃんに言われて来たんだ。遺跡にいる少年を助けよってーーこれ言って大丈夫なんだっけ?」


 ーーいったん整理しよう。フギンは今言われたムニンという姉に言われてここまで来た。僕は日本から転移してすぐに彼女と出会った。

 そして〈遺跡にいる少年を助けよ〉とは、そもそも僕がここで遭難していなければ成り立たない。つまり転移していることを知っていなければ出るはずのない言葉だ。


「転移したことを知ってるなら、明日香の現在地も分かるんじゃ……」


 あの声の正体か、転移させた犯人なのかは今はどうでもいい。

 僕が転移した場所が意味不明の遺跡なら、同等の場所に行っていたって何も不思議じゃない。一歩間違えれば罪のような場所に居たということ。今やるべきなのはーー


「そのムニンお姉ちゃんのところに連れてってくれないか?」


「いいよ!連れてってあげる!私達の街、グラシルへ!」


 一刻でも早く、明日香に会う事だ。




 その時、零はまだ気づかなかった。こちらに助けが来たならば、あちらにも助けが来る可能性がありえることを。零と明日香の2人によって、この世界の運命が大きく変わっていることを。


グラシルにおける苗字は【所属している組織】を意味します。そのため、フギン目線で言うならシングルマザーの子が授業参観で「父親は来ないの?」と言われているようなもの。

そりゃあ不機嫌にもなるわけです。

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