プロローグ 『鏡は表面を写し取る』
「久しぶりに来たら、想像以上に廃れているわね。どれだけ放置すればこんなことになるのよ……零、場所あってる?」
「明日香、えっと、うん。GPSは正常に動いてる。正しいよ」
舗装されていない道を通り、倒れた木々を乗り越え、ある場所へたどり着く。
「ようやく着いた、鏡島工場」
そう、ここは工場。ただし「元」であるが。
工場の外装は手入れがされなかった結果、雑草やツタが無秩序に生えており、外壁は自然に侵食されところどころ穴が開いている。
「そりゃそうだけど、人の気配は無いわね」
「あんなことがあった後に来るもの好きは少ないよ。そもそもここを知る人自体…僕たち以外にいないしさ」
『大災害』そう形容するほどの事件がこの場所で起きた。万を超えるほど死者を生み出し町1つが丸ごと機能を失った。今はもう、ここに住み着く者はいない。
私たちはこの事件の生き残りであり、お参りをしに来たのだ。
「ほら、早く行くよ!」
奥に行ってまず目についたのは、ステンドグラスだった。
この工場はガラス製品を多く作っており、特にステンドグラスに関しては日本でも上のほうだったらしい。そして、装飾や棚においてある物は全てそれで作られたもの。
それらに対して二人は完璧に同じことを思った。「綺麗だ」と。
太陽から射す光が屈折し、多彩な色と装飾を作り上げている。使われている一つ一つのガラスが計算されて作り上げられているとすら思われるような、「芸術」という言葉を表した結果と表現しても過言ではないと直感させられるだけの美しさと神秘さがそこに詰まっていた。
「何度見ても、ものすごく綺麗で見とれるわね」
「こんな物があるなんて⋯⋯想像もできない。でも実際そこに在る。不思議な気分だな」
「一つくらい持ち帰ってもバレないでしょ。探してみる?」
「それは泥棒だよ、明日香。やるならライア先輩に許可取っておくべきだったね」
このステンドグラスはホントに綺麗で、確かに持って帰りたくもなる。これとか、新品同然のような……
「新品?傷が一切ない……?」
「どうしたの?」
「ーーなんでもない。」
色々と疑問が残るが、今考えるのは彼女に悪いと思い後にする。なぜなら、そろそろ目的地の場所に着くからだ。
そこにあったのは、一つの墓。古びているとはいえ、機械やステンドグラスの装飾とは似つかないものがそこにたたずんでいる。
天井につけられた装飾に光が射し、反射を繰り返して一つにまとめられた光が墓を照らし出している。
「ここに来ると思い出すね」
思い出すのは、三年前のあの時の光景。今でも鮮明に想起することが出来る。
街の人々が突如獣になって、それにあいつも巻き込まれた。最初は簡単な謎解きをするかのような、軽い出来心での探索だった。はずなのに、そこで深淵を見て、取り返しがつくわけもない事をしてしまって、ぐちゃぐちゃな感情で……なんで
「……大丈夫?また思い悩んでない?」
「どうして、何であいつが巻き込まれなくちゃいけなかったんだよ」
あふれ出した感情は、喉から口へ伝って言葉として吐き出された。過ぎ去った現実は、後悔となって今更出てくるのだった。
しかし、現実は待つことなどしなかったようだ。
『でも、もし生きているとしたら君たちはどうするかい?』
突如どこからか声が聞こえてくる。周囲を見渡すが、誰もいない。
『さて、君たちにはやるべきことがあるんだ』
「まずあんたは誰なのよ!姿くらい見せてもいいんじゃない!?」
『姿を見せるのは確かに礼儀ね。でもごめんね、君たちには姿を見せられないんだ』
「……!?……ッ!?」
まるで話がかみ合わない、得体が知れなさすぎる。突如こちらに話しかけてきたが、場所は一切分からない。相手が語る言葉の節々から、自分たちの知らない「何か」があることを実感させられる。
そこにある暴力的なまでの情報の格差は、相手に不気味なまでの全能感を与えていた。
『時間が惜しい、話を戻そう。今から君たちはある場所へ転移させてもらう』
突如、差し込んだ光が白から多彩な色に変化し始める。さらに光量が増し始め、目が開けられなくなってきた。
『銀の弾丸
それは、僕が作った最高傑作であり、君が手に入れなければならないもの。その核心はあの世界にある。だから君たちには探してほしい』
意識がかすれてくる中、一瞬だけ光の柱から人が見えた。いや、人と言っていいのだろうか?なぜならその姿はーー
『畏れるな。立ち向かい、自我を持て。光は、心の中に在るのだと』
まるで狼の様な、凛々しい耳を持ちながら、泣いていたのだからーー
「ーーごめんね」
明日花と零の年齢はどちらも21。
高校時代からの知り合いでもあり、『あの事件』を生き抜いた戦友でもあります。




