87.~創世神話~ オルテックス事変⑩
本日二話更新予定です(1/2)
二話目投下は19:00予定
『やっ…やめろっ!!お前…こっちに来るなっ!!』
『オイオイオイオイ…さっきまでの威勢はどうしたんだよ?逃げないんじゃなかったのか?』
すっかり腰が引けたマリアが、俺から逃げつつも手に持ったナイフを振り回す。
まるで届かない距離だが、直線状は危険なのでしっかり避ける。
…なにせ奴の斬撃には、距離の概念が無いからな。
なんというか…「切りつけたという事象のみを、別の場所に移動させている」って感じなんだよ。
…きっとこの攻撃のタネも、マリアの「別次元」に移動する能力と関係があるんだろうな。
引きつった表情のマリアの視線は、俺の手元を注視したまま。
…正確には、見えない【虚鉱のジャンビーヤ】の存在を恐れているのだろう。
…いや、アイツには見えているのか?
マリアの本体と、消失した【虚鉱のジャンビーヤ】は…恐らく同じ次元に存在しているんだからな。
肌を切り裂かれる、初めての「痛み」…今まで体験したことの無いソレに、マリアは完全にパニックを起こしているようだった。
…傍から見ると、俺が少女をイジメてるみたいに見えるかもしれないが、それは大きな間違いだ。
俺の着ている強化服【アヴァロン・レイヤー】は、人体の能力を最大16倍にする。
そんな強化状態の俺に、マリアの奴は生身で張り合ってるからな。
流石、造られた人間ってトコか。
身体性能はほぼ互角…だけど、パニックを起こした奴の攻撃は大振りで精細さに欠けていた。
一方俺の攻撃は、深手にはなっていないが確実にマリアの身体を切り裂き、傷を付けていく。
その小さな傷が与える未知の感覚、「痛み」…そして「恐怖」が、マリアを更に追い込んでいく。
『痛い…痛い…!!…ふざけてる…!こんなの、おかしい…!!』
『…違うな、傷付くってのは本来痛いもんなんだよ。…傷付かなかった今までの方がおかしかったんだ。』
俺がそう言うと、マリアはキッとこちらを睨みつけて叫んだ。
『…お前ぇっ!調子に乗るなよアリババッ!!私が魔道兵装【チャリオット】を持ち込めていれば、そもそもこんな事にはなっていなかった!!』
『それは…そっちの都合だろ。そもそも俺の事を格下だと舐めていたお前が悪い。』
激昂したマリアがナイフを振るう。
俺はその攻撃を横に飛んで避け…そのままマリアの死角へと回り込んだ。
急接近した俺に気付いたマリアが、ハッと我に返るが…もう遅い。
見えない【虚鉱のジャンビーヤ】が、マリアの左腕…ナイフを握った腕を切りつける。
『ひっ…!!』
今までよりも深く、肉を切り裂いた感触。
…カランカランと音をたて、マリアのナイフが床に転がり落ちる。
『…もう諦めて撤退しろよ?今退くなら、命までは盗らねぇよ。…俺は「盗賊」だからな。』
『くそっ…クソクソクソクソッ…!!!』
あらら…キャラ崩壊しちゃってるよ。
お前、口数の少ないクール系キャラじゃ無かったっけ?
…そんな事を考えていると、マリアの表情が突然スッと消えた。
『アリババ…お前、自分が有利になったとでも思っているのか?…フフッ、それは大きな勘違いだ。』
今度はうっすらと笑みを浮かべている…お前、結構忙しい奴だな。
『…どうせもう遅い。この劇場は三万体の【APOSTLES】に包囲されている。…既に内部に侵入を始め、制圧を開始している…お前等に、もう逃げ場は無い。』
『さ…三万体っ!?』
マリアの言葉に思わずギョッとしてしまった。
そして…思い出した。
以前、湯取の魔眼に操られたエリシア・フロストレインが漏らしていた。
(…マリアが運用試験中の「クローンサイボーグ兵」が、現在約2万体…なおも増産中…。)
…アレって【APOSTLES】のコトだったのか…マリアのクローンサイボーグ兵…か。
…しかもしっかり増産されてやがるし。
『お前のそのナイフは、確かに私に傷をつけた。【APOSTLES】にも通用するだろう。…けれど、数は力。そのナイフ一本で、三万体の【APOSTLES】を相手にするのは不可能…フフフッ…。』
不気味に笑うマリアの身体が、空間に溶けるようにスゥッ…と消えて行く。
『この勝負は…私の負け。けれど…「オルテックス」の勝ち。』
…その勝ち誇るような言葉を最後に、マリアの気配が完全に消失した。
逃げた…か。
マリア・ニェチェリナ…造られた人間、か。
…俺らしくも無いが、アイツには少し同情してしまった。
アイツはオルテックスによって、造られた人間…。
そして…アグニの話が真実なら、俺も異世界で何者かの干渉を受けていた――
ある意味、「造られた人間」だからな。
…マリアの話を聞いた後、妙な気分になっちまって…命のやり取りをする気にならなくなっちまったのが本音だ。
もっとも、アイツはその運命に疑問も持たず受け入れ…俺は抗う道を選んだんだがな。
…ガラじゃあ無いな、やめやめ。
さてと…とりあえず、これで一段落ついた…のか?
まぁ、なんか敵に包囲されてるらしいが…まずは【ポーション】でも飲んで落ち着こう。
さっきから【アヴァロン・レイヤー】の高速移動に、身体が悲鳴を上げっぱなしだ。
…とはいえ、あまりゆっくりもしていられないがな。
俺は【ポーション】を飲み干すと、目の前に立ちふさがるアノマリー保管庫の重厚な金属扉を【鑑定】で見分する。
…電子ロック、指紋認証に網膜認証…。
扉や壁はタングステンが主成分の超硬合金…こりゃあすごいな、1m厚もあるぞ。
…流石の俺も、このレベルの扉に【解錠】を使った経験は無いが…ま、最悪【プラズマカッター】で焼き切ろう。
俺は右手で扉に触れ、スキルを使用する。
『…【解錠】!』
ビー!…という聞き慣れない電子音、そして数秒遅れて「ガコン」という重い音が鳴り響く。
…どうやら問題無く開いたみたいだな。
流石レベル99の盗賊スキル…いや、マジでどうなってるんだろう。使ってる俺でも理解不能だわ。
保管庫内部へと入ると、そこは壁と天井、床の六方を金属壁で囲まれた…正に巨大金庫。
中央には大小の鍵付き扉が幾つも付けられた、巨大なセーフティボックス。
…扉に書かれた数字は、オークションのロットナンバーか?
へっへっへっ…良いね良いね!正にお宝の山…!!
テンション上がって来たぜ…!!
…よし、さっさと回収作業といきますか…!




