86.~創世神話~ オルテックス事変⑨
アノマリー保管庫前で相対する俺とマリア・ニェチェリナ。
【鑑定】を弾くマリアには、俺のアノマリー攻撃もことごとく通用しない。
…まぁ、「今の所は」だけれどな。
とはいえ、状況は芳しく無い。
…さて、いったいどうしたもんか。
『…おい、「鍵の男」…いや、確か「アリババ」とか呼ばれていたか?』
突然、マリアが俺に話しかけてきた。
…って言うか、「鍵の男」…?
なんだそりゃ?
『…レオン様は「ババ・アルト」と呼んでいた…どれが本当の識別名だ?』
『…なんだか知らんが、アリババで良い。』
敵にフルネームで呼ばれるのって、なんか不気味で嫌だし。
…しかし、急にどういう風の吹き回しだ…?
『それでは…アリババ、私はお前の持つ多様なアノマリーに興味がある。…そこで提案。』
そう言って、両手を広げるマリア。
『…逃げない、隠れない、反撃しない。…お前の持つアノマリー、何でも使って私を攻撃してみせろ。』
…。
…。
…あぁ…?
『…お前…流石にソレは俺を舐めすぎだろ…?』
静かに怒る俺に、奴は表情の希薄な能面顔に薄っすら笑みを浮かべて言う。
『手札の多さは称賛する。…でも、どうせ何をしても無駄。…私は、力量差に絶望したお前の顔が見たい。』
… (#^ω^)ビキビキッ
…あ~コイツ、アレだわ。
今巷で流行ってる、大人をナメきったクソガキだわ。
これはもう、アレだね。
…大人として、しっかり分からせてやらんといかんね。うん。
『…ハッハァ!!…良いぞクソガキ、お前のその挑発…乗ってやるよ。』
話しながら、手に持った【錬金術師の驚異の部屋】を捲る。
武具アノマリーが収納されたページを開くと、本は淡く輝き始める。
『…ご自慢のコレクション、早く見せて?』
そう小馬鹿にしたように言うマリアに、俺の堪忍袋は限界をむかえた。
『そうまで言われちゃあ見せない訳にはいかねぇな。さぁ…後悔しな。俺の【錬金術師の驚異の部屋】が火を噴くぜっ!!』
右手で取り出した【呪毒のタバルジン】を振りかぶり、マリアへ袈裟懸けに叩きつける。
ドス黒い呪毒を纏った斧刃が肩口を抉ったかに見えたが──
『…計器に反応…これは…呪い?…興味はあるけれど、効かない。残念…。』
…うん、手ごたえ無し!
呪いか毒によるダメージでも入ればと期待したんだが…。
こりゃあ期待外れ、完全に×だな。
…マリアの奴は片手に謎の機械を持って、何かボソボソと呟いている。
…楽しみやがって、絶対吠え面かかせてやる!
瞬時に持ち替えた【破邪の聖槍】を腹へと突き刺すが、これも手ごたえ無し。
『…パターン「HOLY」…聖属性、これも効かない。』
やっぱ聖属性もダメージ無しか…。
ケリュケイオンみたいなゴーストタイプってワケでも無いか。
返す刀で【秘儀のテポストピリー】という刺突槍に持ち替え、再び腹を突く。
『原始的な槍…パターン「MIRACLE」…何かしらの状態異常?…でも無駄。』
石の刃が着いた穂先がマリアを貫くが、糠に釘…。
おい秘儀はどうした、秘儀は!
深く腰を落とし、【妖刀・危丸】を鞘から抜き放ち…一閃!
『カタナ…これは、妖刀?…効果が分からない…でも、効かない。』
当然の様に無傷…。
アノマリーに付与されたスキル【武装解除】の効果も出ていない。
…ちなみに、効果が出ると身に着けた衣服のみが切り裂かれる。
…赤っ恥かかせてやろうと思ったのによ、残念!
強力な腐食属性を持つ【崩界鋼のクレイモア】を頭部へ叩きつける。
『「ROT」…腐食の力。』
マリアの澄ました顔は微塵も変化せず。
…ってかコイツ、ちょっと飽きてきてないか…?
お前が始めたんだろうが…ムカつく奴だ!
…ダメ元で【龍殺しのアスカロン】を振るう。
細身の刀身に纏った【滅龍】の青白い稲光──
『…龍に特効…龍?……龍?…え?』
ノーダメージ。
…そもそも龍じゃ無ぇしな、仕方が無い。
…心底不思議そうな顔してんじゃ無ぇ!お前が龍じゃ無いことなんか分かってるよ!!
変わり種能力のアノマリーも試す。
切りつけた物体を料理に変える【食道楽のペティーナイフ】…傷口を歪に変異させる【異形のポールアックス】…やっぱり駄目か。
マリアの奴、コメントすらしなくなったぞ…!
完全に飽きている…!
『…もう、おしまい?』
数々の武器アノマリーを試したが、マリアに有効打を与える事が出来ない。
くそっ…まだまだアノマリーは有るけれど…。
…もう、何をしても無駄なんじゃないか…?
俺が集めてきたアノマリーが、ことごとく効かないだなんて──
…万策尽きた…のか?
…。
…あはっ。
『あはははははは…!!』
『…気が狂った…?…意外と早かったな…。』
突然笑い始めた俺を見たマリアが呟く。
俺はそれを無視して…ペラペラと【錬金術師の驚異の部屋】を捲り、飛び出してきたアノマリーを…手に掴んだ。
『あは~はっはっはぁ~!!』
『…何を出しても無……』
…面倒そうに話していたマリアの顔が、面白いようにグシャリと歪んだ。
『……臭いっ!!!!!!』
『アハハハァ~!!』
俺が取り出したアノマリーは…ランクSアノマリー【龍涎香】。
「弩龍ヴァリモア」の体内で発見した、激臭を放つ「龍の結石」だ。
そいつをマリアの眼前に掲げてやったら…慌てて距離を取りやがった。
流石のお前でも匂いは無効化出来なかったみたいだなぁ…!
つーか、だーれが気が狂うかってんだバァーカ!!
ハハハッ!マリアのヤツ、あまりの激臭に鼻を押さえて身悶えてやがるぜ!
ざまあみろってんだ!!
…まぁ、この為に俺は激臭の【龍涎香】を手で持っているんだが。
…【アヴァロン・レイヤー】に臭いが染み付いちゃったら、どうしよう…。
『臭いっ!!臭いっ!!…もういいっ!』
涙目のマリアが地団駄を踏んで絶叫する。
『…打つ手が無くなったからと、嫌がらせ!?…少し躾が必要…!!』
いつの間にかマリアの手には再びナイフが握られている。
…怒りのあまり、約束を反故にする気だな。
…ハァ。自分で言ったことも守れないなんて、これだからガキは──
『痛い目を見るといい…!!』
マリアがナイフを振りかぶり、例の遠距離攻撃のモーションに入った。
…待ってたぜ、ソレを…!!
俺は無手のまま拳を振り上げ、【アヴァロン・レイヤー】の筋力強化を最大にした全速力でマリアへと駆け寄る!
(…本当に狂った?)
冷たい目線を無視し、今まさにナイフを振り出したマリアの頬へと拳を──
…いや、その姿を消失させていた【虚鉱のジャンビーヤ】で斬りかかった…!
『!?』
『…驚いた。…でも、残念だったな。』
実体化した【虚鉱のジャンビーヤ】が、俺の拳ごとマリアを通過した。
…ちっ!これでも駄目か!
普段は攻撃が当たらなくても、こちらを攻撃する瞬間なら流石に当たるんじゃないかと思ったんだが…これも空振りかよ。
『想定していたよりもトップスピードが高い。…その強化服、やはり一度分解する必要がある…。』
落ち着いた顔でそう言うマリアの頬に、一筋の赤い線。
…赤い、線…?
『…?何を驚いている…?私の顔に何か──』
マリアが自身の頬を指で触り──石像の様に、固まる。
アレは…自身に起こっている事に、理解が追い付いていないという表情だ。
いや、そんな事より…何だ!?何でマリアに傷がついた!?
【虚鉱のジャンビーヤ】は確かにマリアを貫通した筈だ。
…いや、待てよ…?
俺はマリアの頬に触れる直前、【虚鉱のジャンビーヤ】を実体化させた。
ギリギリまでマリアを欺くのが目的だったんだが…。
…俺は改めて、【虚鉱のジャンビーヤ】を【鑑定】する。
【虚鉱のジャンビーヤ】ランク:A
存在が非常に不安定な鉱石、「虚鉱」で作られた、反りのある両刃の短剣。
虚鉱は消失と出現を繰り返す魔鉱石で、加工難度が非常に高い。
この鉱石で作られた武器は元の性質を引き継いでおり、所持者の意志で自在に消失、出現する。
消失し、出現する短剣…。
そういうアノマリーだと思って納得していたけれど──
…消失している間、【虚鉱のジャンビーヤ】は何処にあるんだ?
…そうだ、マリアは言っていた。
『折角だから教えてやろう。お前の想像通り、【APOSTLES】と私は同じ能力を持っている。この次元のいかなる事象にも干渉されない、無敵の力――』
奴はこの次元のいかなる事象にも干渉されない…つまり、この次元に居ないんだ。
マリアの身体は別次元に存在している。
…そして、これは俺の想像だけれど…。
消失している間の【虚鉱のジャンビーヤ】って、もしかして「別の次元」に有るんじゃないか?
…だから、マリアに触れられた。
マリアの居る次元に、届いた。
『…こっ…コレは…血?わたっ…わたしのっ…!?』
おーおー、さっきまでの余裕は何処へやら。
…その様子だと、自分の血を見るのは初めてか?
それにしても、ラッキーパンチが当たっちゃう所が、流石は俺ってカンジ?ハハッ!
…マジで有効打が見つかって良かった…危なかったぜ…。
…さてさて、ここからはお仕置きの時間だ…。
大人をナメたツケ、たっぷり払ってもらうぜ…!!




