88.それじゃあバイバイ
本日二話更新です(2/2)
前話未読の方はご注意下さい。
マリア・ニェチェリナをなんとか撃退した俺。
着々と狭まる敵の包囲網を尻目に、目的のアノマリー保管庫への侵入に成功した。
…そして、早速セーフティボックス内のお宝をいただこうとしていた矢先。
「…鍵が開いてるッス…アリババ先輩?…中に居るんスか?」
「気をつけてユトリ君、敵が潜んでいる可能性もあるわ。」
お、どうやらみんな追い付いたみたいだな。
というコトは、アイツ等A.R.K.の部隊長相手に勝利してきたってコトだ。
…え、ウチのファミリー、強すぎじゃない?
相手は世界統一を企む企業国家のハズなんだけど…。
…いやまあ、負けるとも思ってはなかったけどさ。
「…遅かったじゃねぇかお前等。早くこっち来て手伝ってくれ。」
重厚な金属扉を開いて入って来た二人は、顔を見合わせると苦笑しながらこちらに駆け寄って来る。
『…ふ、我が一番乗りだったな。貴様等、不甲斐ないぞ。』
「うぉっ!…ビックリした…。」
俺の隣に突然現れた火球から、アグニが顕現する。
お前…いつも登場が唐突すぎるんだよ…!
…っていうか…いつから居たの?
…え、もしかして結構前から居た?
俺が怪訝な顔をしているのに気付いたアグニが、ニヤリと笑う。
『…紛い物とは言え、我が創造主の領域に一太刀入れるとはな。…全く、貴様は予測不能な男だ。』
やっぱりマリア戦見てたんじゃないですかーもー!!
…こっちは全然、手伝ってくれても良かったんですけれど?
「…それで、自分達は何をすればいいんスか?」
「おう、俺が片っ端から扉に【解錠】かけるから、中身を取り出して俺の所に持ってきてくれ。全部【錬金術師の驚異の部屋】にぶち込むから。」
俺はセーフティボックスの左端に位置する扉に触れると、そのまま右へ歩きながらスキルを使用する。
「【解錠】【解錠】【解錠】【解錠】【解錠】【解錠】【解錠】【解錠】【解錠】【解錠】――」
俺が触れた扉がガチャガチャと音をたてて開いていく。
…おぉ~!?
「うひょ~!なんか見ててメッチャ気持ちいいっス!」
湯取が言う様に、これだけある施錠された扉がバッカンバッカン開いていく様は、中々爽快なもんだ。
…うは、ちょっとドーパミン出るわ、コレ。
「…世界中の泥棒やトレジャーハンターがこの光景を見たら、馬鹿らしくなって発狂するんじゃないかしら…?」
…あっれ~?…こういうのって女子には理解できないのかしら?
…ほらbee!口動かしてないで手ぇ動かしなさい、手!
「…そういえばアリババ先輩、なんかヤバそうな気配が続々と劇場内に入り込んで来てるスよ!…多分コレ、レオンのオッサンが言ってた【あほサル】とか言う奴だと思うんスけど…数がマジ尋常じゃ無いんス!」
回収したオークション商品を俺の元に運んできた湯取が、今思い出したようにそう言った。
俺は受け取った商品を【錬金術師の驚異の部屋】に仕舞いながら応える。
「あ~知ってる知ってる。…ちなみに【APOSTLES】な。マリアの話だと三万体居るらしいぞ、ソレ。」
「へ~さんまんたい…さ、三万体っ!?」
一度聞き流した湯取は、数秒遅れてその意味を理解し蒼白となる。
…なんだよ、魔人湯取ともあろう者がビビってるのか?
情けねぇなぁ~、数の暴力に怖気づくとか、一般人かお前は?
…それに引き換え、beeを見て見ろよ。
俺の言葉に身じろぎもせず、顔色一つ変えてないぞ?
この状況で落ち着き払ってる…なんとも頼もしいじゃねぇか。
「ふぅ…………終わったわね…。」
…違ったわ。もう諦めてただけだったわ。
『…貴様等、何を青い顔をしている?…まぁいい、アノマリーはこれで最後だぞ、主よ。』
両手一杯にオークションの商品を抱えたアグニがやってきて、そっと床に置く。
礼を言ってそれらを【錬金術師の驚異の部屋】に仕舞っていき――
…やっとお目当ての物を見つけた。
「…プシュパカ、聞こえてるか?」
俺は自身の首につけたチョーカーに…その向こうで聞いているプシュパカに声をかける。
『…はい、お側に控えております。』
返事の声が想定外の近場から返って来たことに驚き目をやると、いつの間にかアグニの隣に小さな機械が浮かんでいた。
黒いリングを三つ、互い違いに重ねたような疑似的な球体…天球儀の様な物が、低く小さな音をたててフワフワと浮いている。これは…ドローンみたいな物なのか?
球体の中央部で、赤い光が瞬いている…このデザイン、間違いなくプシュパカ製だ。
「…こりゃあ丁度良かった。まず一つ、ノクス・ミラビリスのヘクセン宛に届け物を頼めるか?」
【錬金術師の驚異の部屋】をペラペラと捲り、目的の小瓶を取り出す。
…【ナーサリー・ライムの香辛料】だ。
『…はい、このサイズでしたらドローンで空輸可能です。』
「良かった。そうだな、一緒に手紙を添えてくれ。文面は…『隠し味は【素敵な何か】』…とかで良いか。…いや、あいつ察しが悪そうだからな。『制作時は何か【アノマリー】を捧げろ。それで多分魂が宿る』…もうソレでいいや。」
俺がそう伝えると、赤いランプがゆっくり瞬く。
するとドローンから細いロボットアームが伸びてきて、俺の持っていた【ナーサリー・ライムの香辛料】を掴み上げて『承りました』と応えた。
さて…改めて俺は、目の前に並んだファミリーの面々を見る。
湯取、bee、アグニ…プシュパカのドローンも、それに気づいて俺に注目した。
俺はその視線に応える様に、ゆっくりとした口調でこう告げる。
「…包囲網を抜けて、ここをなんとか脱出出来たとしても…オークションの商品を掻っ攫った俺達は本格的にお尋ね者だろう。それにレオンの奴、何故か俺にご執心だしな。」
うんざりした表情で告げる俺に、湯取とbeeが苦笑を浮かべる。
「…そういう訳なんで、俺達はしばらく姿を隠す。…正直な話、どうなるか俺にもよく分からんが…【直感】スキルがずっと『上手くいく』って囁いてるんだ、大丈夫だろ。…俺達が不在の間、全権はプシュパカ…お前の判断に任せる。」
『…畏まりました。…願わくば、お早いお帰りをお待ちしております。』
俺とプシュパカ(のドローン)との会話を聞いていた湯取が、なんとも言えない表情で口を挟んで来た。
「あの…アリババ先輩、姿を隠すって…一体何処に?俺達、敵に囲まれてるんスよ?」
「…ああ、ちゃんと説明して無かったな。湯取、bee、俺の体をしっかり掴んでてくれるか?」
意味も分からず不思議そうな顔をしながらも、言われた通り俺の腕や服を掴む二人。
湯取はさりげなくbeeまで抱えるようにフォローしている。
それを確認した俺は、手に持った小箱の中から銀色に輝く指輪を取り出した。
「俺達が隠れるのは――異世界だ。」
「え?」「ちょ――」
そう言うと、左手に掲げた【錬金術師の隠し扉】に、盗賊スキル【侵入】を使用した。
途端に視界が歪む。
俺達三人の身体はスキルの影響を受け、細く長く…フォークに巻き取られた捻じれたスパゲッティのように渦巻き、指輪の輪の中へと吸い込まれていく。
…はてさて、どんな異世界が俺達を待っているんだ?
兎にも角にも、しばらくこっちの世界とはサヨナラだな。
…あばよ現世!俺は必ず戻ってくるからな!
~ ~ ~ ~
チャリーン――
持ち主という支えを失った【錬金術師の隠し扉】が、保管庫の地面に転がり落ちる。
私はドローンを操作し、二本目のロボットアームでそれを拾い上げた。
ドローンのカメラには、見慣れた同胞の姿だけが映し出されている。
『…行ってしまわれましたね。さて、マスターからのお使いもございます。このドローンも無事に脱出させなければ。』
腕組みをして聞いていた彼女は、軽く顎先で室外を指し示した。
『…フン、道中に【イシュバラの瞳】で開けられた大穴があったハズだ。外まで繋がっているだろうから、そこから逃げるがいい。…あの【紛い物共】には注意しろよ?』
『そうさせていただきます。…まぁ、このサイズです。最悪騒ぎが収まるまで劇場内の何所かに隠れてやり過ごしますよ。』
私がそう応えると、組んでいた腕を解き、人間のように軽く背伸びをしてみせた。
…その動作は、貴方に必要でしょうか?
…すっかり人間独自の癖が染みついてしまいましたね。
『…精々上手くやるんだな。さて、我はそろそろ有人を追うか。…全く、手間のかかる主だ。』
そう言うと、彼女は焔の渦となって【錬金術師の隠し扉】の中へと消えて行った。
…マスターの事を頼みましたよ、アグニ。
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今回入手したもの
■秘匿のマスク×4(実質借りパク)
■錬金術師の隠し扉
■魚石
■降魔の石板
■翼猫の石版画
■禁書:殺戮聖典
■銀綬滅竜褒章
■古代式魔法義手
■悪夢のスキレット
■看破の義眼
他、オークション商品であったアノマリー 計71点
■不滅のインク瓶
他、カスヴァルの朝市で見つけたランクD~Bの雑多なアノマリー 計16点
ここまでで一区切り、次章より「異世界編」の予定です。
一度全編見直して修正したり、閑話を追加したり…全く別の、ずっと書きたかった話をちょろっと書いたりする可能性があります。
なので、しばらく更新が開くと思われます。
…顛末自体は考えてあるので、エタらない…と思う。多分。
(…何かの間違いで閲覧数とか伸びるようなら、優先して書く…かも|ω• `)チラッ)




