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異世界盗賊は現代最強のトレジャーハンターになれますか?  作者: 須藤 蓮司


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82/89

82.~創世神話~ オルテックス事変⑤

 『カスヴァル・アウレウム歌劇場』地下3階。


 最下層へと下る階段を駆け下り、一直線の通路を進んだ先。


 合金製の見上げるような扉の前に、ソイツは待ち構えていた。



 積み上げられた骸は…恐らく、保管庫を護っていた警備の者。

 その骸の山に腰掛ける姿が、俺には…退屈そうに玉座へと座る、独裁者の姿に見えた。



『…残念だけど、ここが終着駅。…追いかけっこは、もうおしまい。』


『…マリア・ニェチェリナ…!』


 そう言いながら、骸の山から立ち上がった。

 腰まである長い銀髪が揺れる。


 まだあどけなさの残る子供の様な顔。

 …しかしながら、その両腕や服にはおびただしい血痕。

 …無論、自らの物では無いのだろう。


『…随分と遅かったな?…何処か寄り道でもしていたのか?』


『お前のお仲間がしつこくてな。…いや、そもそもお前とデートの約束をした覚えは無いんだが?』


 …無表情だった顔が、ほんの僅かに笑ったような気がした。

 …何だ?一体何がコイツの琴線に触れたんだ…?

 …マジでよく分からんヤツだな…。


『…安心しろ、お前は殺さない。…レオン様の命令。』


『いやぁ…残念だけど、俺ってば急いでるんだ。お前をブッ倒して、さっさとアノマリーだけ回収してトンズラさせてもらうわ。』


 俺の切った啖呵に、僅かに緩んだように見えた表情が、再び消える。


『…調子に乗るなよ?お前は「殺さない」だけ。生きているなら、たとえ四肢が無かろうと問題無い。』


 そう言いながら、ニェチェリナがナイフを構える。

 ひどく華奢な腕に握られた軍用ナイフは、無骨に見え過ぎて現実感が希薄だ。


『…それはもう、生きてると言えるのか?…お前、マジでサイコパス女だな…。』


 こちらも腰から【プラズマカッター】を引き抜き構えた。




 一拍。




 ドンッ!!


 

 …まるで交通事故のような音が地下に響く。


 俺の頭には…ニェチェリナの振り下したナイフ。

 垂直に振り下されたソレは、刃の根元まで――



『…刃が溶けた?これは…防御系アノマリーの干渉能力?』



 左手の【奇御魂(くしみたま)】が展開した高温の防御膜が、ナイフの刃を消滅させた。

 …ってか、頭狙ってるじゃねーか!殺さないんじゃなかったのかよ!!


 防御に関しては完全に【アヴァロン・レイヤー】と【奇御魂(くしみたま)】任せ。 

 いい加減に思えるかもしれないが…違う、これはアグニとプシュパカに対する信頼だ。

 二人の防御は必ず俺を護る。


 防御を捨てて手に入れた千載一遇のチャンス…だったのだが――


『…くそっ、やっぱり当たらねぇのか。』


 【プラズマカッター】は確かにニェチェリナの右腕…ナイフを握るその腕を切り払った筈だった。

 これは…やはり同じだ。


 オークション会場に現れた異形の兵隊、【APOSTLESアポサルズ】が見せた能力。

 これは…「非干渉能力」…とでも呼べばいいのだろうか?


『…まるで予想していたような言い方だな。』


『…あの【APOSTLESアポサルズ】とかいう兵隊も、お前と同じで俺の【鑑定(ちから)】を弾きやがったからな。…だったら、逆も想像してたさ。』


 俺がそう言うと…何が面白かったのか、声を出して笑い始めた。


『…クックックッ…そうか、意外と察しが良いんだな。』


 刃の消失したナイフを放り投げると、ニェチェリナは饒舌に語り始める。


『折角だから教えてやろう。お前の想像通り、【APOSTLESアポサルズ】と私は同じ能力を持っている。この次元のいかなる事象にも干渉されない、無敵の力――』



『――【APOSTLESアポサルズ】のオリジナルは、私。そして…私は【異星人の遺骸】から造られた、造られた人間(デザインヒューマン)。』



~ ~ ~ ~



 地を這う雷がフロア全体を凶悪な罠に変え――


 灼熱の爆炎が空間を埋め尽くし――


 飛来する氷柱が制空権を支配する――


 そして…僅かに残った安全地帯には、正体不明の黒い霧――




(こりゃあ…()()()()()ってヤツだな。)


 【浮遊】で床の電撃を回避し、爆炎は【火炎耐性】に任せて無視、危険なコースの氷柱は【魔弾】で各個撃破して…あの黒い霧は何だ?どんな効果かは分からないけど…どっちみち触れたら危険だ、徹底的に回避っ!


『…さっきまでの威勢はどうした小僧!逃げるばかりでは俺は倒せんぞっ!?』


 俺を煽りながらも、ヘルマーのオッサンは両腕で四種類の極大魔法を連発する…マジで無制限だな、どうなってんだよオイッ!


「おいおいオッサン、新しいオモチャでテンション上がってるのは分かるけどさぁ…ちょっと年甲斐も無く、はしゃぎすぎだっつーの!」


 そう話しつつも、ダメ元【魔眼】で操れないか試してみる…けど、オッサンの周辺で魔力が霧散するのを感じた。くそっ、やっぱり駄目か…。


『フッ、貴様の軽口にはもう騙されんぞ!この身体がオモチャかどうかはその身をもって味わうがいい!!』


 !!

 一気に距離をつめてきたオッサンが右腕を振りかぶる!

 この距離じゃ俺のスキルは無効化されるっ…!!


 仕方なく両手で持った【断罪の十字架】で、正面から攻撃を受け止める―― 




 ゴォーン…という、銅鑼を叩いたような…馬鹿な音が聞こえた。




 俺の体は吹っ飛ばされ、数十メートルある通路の最奥の壁に衝突することで止まった。


 !!!


 マジ…かよ……!?


『…どうだ小僧。俺はお前を倒すために、人間である事を辞めたのだ。この身は正に「生きた魔道兵装」…これは俺の、俺自身への放漫に対する贖罪の証なのだっ!!』


 拳を振り上げ、叫ぶように言うヘルマー。



 …俺は、あまりの衝撃に言葉を失っていた。



 …なんてこった。









 …え、こんなもんなのか?








 …前に戦った時はなんつーか…経験の違いみたいなもんを見せつけられるカンジだった。

 あの時は正直、途中でbeeさんが来てくれなかったら早々に負けてたと思う。

  

 でも、なんだろう。

 今のオッサンの一撃、確かに威力は半端無かった。

 今までの人生で一番重いパンチだったかもしれない。



 …でも、ぶっちゃけ俺の体、ノーダメージなんだよなぁ…。


 

 う~ん…これはこれで困ったぞ?

 ヘルマーのオッサン、俺を倒すために全身サイボーグ化手術したって言ってたのに…。

 …なんつーか、非常に申し訳無い。


 …いや、考えてみれば…そもそもソレがいけなかったのかもしれない。

 俺は「魔人」としてコツコツとレベルアップを繰り返し、レベルも40まで上がった。

 一方オッサンはサイボーグ化…それって、成長する可能性を自ら捨てたってコトじゃん?

 

 まさかレベルアップの恩恵が、こんなに大きなモノだったとは…たまげたなぁ…。



『どうした!?立ち上がって来いっ!!俺の恨みはまだまだ、こんなものでは終わらんぞっ!!』



 …ヘルマーのオッサン、人の気も知らないで…。

 こっちはオッサンの激重感情に報いれないことに対する罪悪感に押しつぶされそうだってのに…。


 …いや、そうだった。

 今は一秒でも早く、アリババ先輩の元に駆け付けなくちゃならないんだった。



 …許せ、オッサン…!!




「…オッサン。」


『…なんだ小僧、やっとヤル気になったか?』


「…今から俺は、そっちに行ってオッサンを殴る。」


『…気が狂ったか?俺の【反発空間】内では全ての能力は発動できんのだぞ?』



 壁から身を起こした俺は、オッサンに向かって歩き始める。


 その速度は近づくほどに段々と増していき――



『きっ、貴様っ…正気かっ!?』



 いつしか走っていた。


 …そして、既に【反発空間】の範囲内。

 俺はさっきのオッサンの様に、右腕を大きく振りかぶる。


 これから放つのは…【ブースト】も何もかかっていない、ただただ全力の一撃。

 …正に、渾身の通常攻撃。



『きさ――』


「能力が使えないなら、使わない。…全力の一撃をくれてやる。」


 スローモーションの様に間延びした時間の中で――


 ――俺の拳が、オッサンの魔道兵装(からだ)を殴り付ける。




 ――粉々になって散らばる魔道兵装。


 ――驚愕に染まった顔のヘルマーのオッサン。


 ――何が起こったのか、未だ理解出来ない…そんな表情のまま――



『小僧ぉぉぉぉぉぉっ!!!!』


 オッサンの首は、まるで漫画みたいに彼方へと飛んで行った。


 …通路奥の壁に当たった音が聞こえたから、まぁ…大丈夫だろ、多分。 

 頭だって魔道兵装なんだろうし。


「…悪いっスけど、いつまでも相手してる時間は無いんスよ。…先輩待たせちゃってるんで。」


 …なんだか拍子抜けしちゃったなぁ。

 色々試行錯誤したのに、結局「レベルを上げて物理で殴ればいい」だなんて。

 …それなんてクソゲー?


 …とりあえず、サッサとアリババ先輩と合流しよう。

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