81.~創世神話~ オルテックス事変④
『カスヴァル・アウレウム歌劇場』地下2階。
その最奥部、保管庫へと続く階段前――
そこに今、二体の異形が対峙していた。
片や、「蠢く影」。
全身に金属光沢を纏ったソレは、かろうじて人の体裁を保っている。
…そう、かろうじて。
全身がのたうつ様に蠢き、表層を突き破って飛び出しているのは…ムカデに酷似した異物。
見ているだけで本能的な嫌悪感を感じさせるその異形は…果たして「人」と呼べるのだろうか?
片や、「黒き神像」。
黒い装甲を全身に纏った巨大な女神像には、四本の腕。
敵対者を睨みつける三眼は、高精度のセンサーアイ。
…SFめいた装甲板の隙間が、生き物が呼吸をする様に明滅する。
『PX-03…神話兵装【カーリストラ】か。そういえば、お前が盗んだんだったな…「墓荒らし」。』
『その「墓荒らし」っていうの、いい加減止めてくれないかしら?…アタシはbee、トレジャーハンターのbeeよ。』
カーリストラを背に従え、そう啖呵を切る。
そんな話を聞いているのかいないのか、ダリオは興味深げに問う。
『…お前、さっき何をした?どうやったんだ?…カーリストラが突然現れたように見えたが、ステルス状態を解除したってワケでは無いよな?…ソイツにそんな機能があるとは、俺は聞いていないぞ…?』
『…ソレって、答える必要があるかしら?乙女の秘密を暴こうなんて…無粋な男ね。』
不敵に微笑むbee。
ダリオの疑問は最もな話だ。
奴が今目にしたのは、オルテックス・インダストリーによって設計・開発された【カーリストラ】…そのオルテックス側の人間であるダリオが知らない、存在しないはずの機能。
…否、それは元から存在したのだ。
プシュパカがbeeに渡した【黒のチャクラ】…その能力は至ってシンプルな物だ。
【黒のチャクラ】ランク:B
神話兵装カーリストラと装着者間での連携を強める為の指輪。
相互通信機能、装着者の座標をカーリストラに発信する機能を持つ。
この機能はどのような電波障害・通信障害下でも妨げられない。
そう、【黒のチャクラ】自体はただの超高性能な通信機&発信機。
…まぁ、これも十分に凄い技術らしいんだけど。
カラクリの鍵は、【カーリストラ】に使用されている動力機関『サンサーラ・コア』。
…これは、アグニやプシュパカと同じ源流を持つアノマリーからもたらされたリバースエンジニアリング…って言うのか?要は異星のアノマリーを解析して再現したモンなんだと。
で、ここからが超重要。
オルテックスは、それを解析して再現する際に、自分達では解析しても理解できなかった未知の領域…いわゆる「ブラックボックス」まで再現していたらしい。
そりゃあ仕方がないと言える。
理解不能な部分とはいえ、オリジナルと同じように再現しないと正常に機能しなかったんだから。
そしてこの「ブラックボックス」…実はアグニ達にとっての「枷」となる部分なんだそうだ。
つまり、万が一にも無いことだが…何かの誤作動でアグニ達が主に反抗した時、その行動を「強制」する為の安全装置ってことだな。
具体的に言うと、アグニ達異星のアノマリーには、「マントラ」と呼ばれる強制コードが存在する。
コレは特定の行動を強制的に行わせるキーワードみたいな物で、以前プシュパカが酔っぱらったアグニを無理矢理起こした時にも使っていた…らしい。
アグニ達からすれば、主以外には知られてはいけないトップシークレットだ。
今回プシュパカは、カーリストラのみに有効な「マントラ」を幾つかbeeに教えた。
先程カーリストラが唐突に出現したのも、「強制的に呼び寄せるマントラ」を唱えたからだ。
…もっとも、これに関しては【黒のチャクラ】の座標発信機能と紐づいているらしいので、マントラ単体で唱えた所で何も起こらないらしいがな。
ちなみに…アグニ・プシュパカ両名の主である俺は、その「マントラ」なんてものの存在を知らなかった訳なんだが…二人に聞いてみたら、「知る必要があったか?」と逆に聞かれてしまった…。
…いや確かに、そんなモン必要無いくらい信頼してるけどさ…。
カーリストラが四本の腕を前方に突き出すと、beeを護るように半球状のバリア…【反発結界】が展開される。
『さぁマリー乗って!二人であの気持ち悪いヤツをやっつけよう!』
そう言うと、促す様にカーリストラの胸部が開いた。
beeが軽やかにジャンプして飛び込む。
「…そう言う事だからアリババ、ここはアタシ達に任せて行って頂戴!保管庫は階段を下って真っ直ぐのはずだから!」
そう言ってウインクすると、ガシャンと音をたてて装甲が閉じた。
そして二対の拳を合わせガシガシと打ち鳴らすと、ダリオに向けてファイティングポーズをとる。
『よ~し暴れるぞぉ~!!…また後でね、変な名前のアリババ!』
うるせぇ!お前だって十分変な名前だっつーの!
…ああもう、仕方ねぇな!
「…分かった!ここは二人に任せたぞ!!」
『…オイオイ、黙って行かせると思うか?』
駆けだした俺の背に、ダリオの放った無数のヘカトンケイルが迫る…!
『あら、ダンスのパートナーがアタシ達じゃあ不服かしら?』
差し込むように出されたカーリストラの腕から、展開する【反発結界】!
弾き返されたヘカトンケイルが床や壁のコンクリートを削った。
『…【反発結界】か、敵に使われると面倒なモンだな。…後でニェチェリナに対抗策を考えさせるか…。』
『ダンス中に他の女のコトを考えるなんて、アナタ随分と浮気性なのね。』
『や~いや~い、浮気者の浮気虫!』
『…おいお前、カーリストラのAIに何をしやがった?なんだそのガキみたいな…なんだ?』
俺は後ろから聞こえる会話を無視して、階段を駆け下りた。
すぐに戻る、ここは任せたぞbee…!
…あ、あとカーリストラもな。




