80.~創世神話~ オルテックス事変③
リベンジに燃えるグラウス・ヘルマーのオッサンを湯取に。
…そしてメンヘラ気味のエリシア・フロストレインをアグニに任せて、俺とbeeはアノマリー保管庫を目指して通路内を飛行していた。
「次の十字路を左!その先、通路奥の階段を下って!」
「あいよっ、任せろっ!」
俺はbeeに言われた通り、進行方向に見えた十字路を左旋回で曲がる。
視界に入った通路の奥に、上下へと続く階段が見えた。
アレを下って──
──【危険察知】に反応っ!?
突如轟音をあげて、四方を囲む壁や天井が砕ける。
コンクリートを破って飛び出してきたのは…なんじゃアリャ!?
無数の節で構成されたソレは、例えるなら「金属製のムカデ」だった。
それが何本も伸びてきて…俺とbee目掛けて突っ込んでくる!
空中で身体を捻り回避するが…早いっ、ギリギリだ!
しかも俺を仕留めそこなった個体が、方向転換して再び迫ってくる!?
これじゃあ避けても避けてもキリが無いっ!!
俺は【アヴァロン・レイヤー】や【奇御魂】で守られているが、このままだとbeeが危ない!
そう判断した俺は、宙を転がる様にムカデを避けて地面へと着地する。
「bee、大丈夫かっ!?」
「あ、アタシは無事よ。それより何なのよアレ!?」
身構える俺達を取り囲むように、空中で鎌首をもたげる金属ムカデ達に【鑑定】を飛ばす。
【SM-10《ヘカトンケイル》】ランク:A
分類:蟲型魔道兵装
使用者ダリオ・ブラッドノートの体を構成する魔道兵装。
節足動物のような見た目の通り、柔軟な可動域と超硬質の外殻を持つ。
鋼鉄を貫き、コンクリートを粉砕し、生物を挽肉に変える。
無数のヘカトンケイルが外殻と人工筋肉のような役割を両立しており、正に「鋼の筋肉」。
ダリオ・ブラッドノート体内の合成魔石「マギクリスタル」をエネルギー源にしており、魔法スキル【修復】が常時発動中。
前述の【修復】が【反発結界】と相性が悪い為、特例として【反発結界】は無効化されている。
…こいつ…魔道兵装なのかっ!?
俺が驚いていると、威嚇していた金属ムカデ…魔道兵装ヘカトンケイルが映像を巻き戻すように退いていく…なんだ?何が起こったんだ?
カツン、カツン──
目前の階段から、誰かが下って来る音が響く。
『…よお兄ちゃん、女連れで何処にしけこもうとしてるんだ?こっから先は…立入禁止だぜ?』
階段から降りて来たのは…金属質な強化服に身を包んだように見える、長身の男。
灰色の髪を短く刈り込み、ソフトモヒカンにしたその男の背中からは、先程襲い掛かって来た無数の魔道兵装…ヘカトンケイルが蠢いていた。
…うっわぁ…!
「…なんだろうコイツ…見てると鳥肌がヤバい…!!」
「うぅぅ…わ、分かるわ!なんか…背筋がゾクゾクする…!!」
魔道兵装だと分かっていても尚、精神を蝕むようなこの嫌悪感…!
俺達が戦慄していると、男はゆっくりとこちらに向かって歩みを進める。
【ダリオ・ブラッドノート】37歳
A.R.K.地上殲滅部隊 隊長
脳以外の肉体を、蟲型魔道兵装『ヘカトンケイル』に換装している。
E:蟲型魔道兵装ヘカトンケイル(ランク:A)
『おいおい、どんな相手かと思っていたら…まさかこの姿を見てビビッちまったのか?』
そう喋りながら、両腕を広げて自らの全身を見せつけるダリオ。
…その身体を食い破る様に、何体ものヘカトンケイルが頭を出し、縦横無尽に動き回る。
飛び出したヘカトンケイルが再び体内に入り、別の場所から飛び出し…ダリオの身体を中心にして、捻じれた円を描く。
【修復】スキルの効果なのか、それとも元からそういう魔道兵装なのか…ヘカトンケイルが体に開けた穴はすぐに塞がっていく。
…うっわぁ…!!
「虫型の魔道兵装っていうか…まるで寄生虫みてぇだな…。」
「ちょっと…ワタシ…生理的に無理かも…。」
『オイオイ…分からんかねぇ、このヘカトンケイルの美しさが。どうやら日本人とはセンスが合わねぇみたいだな。』
そう言ったダリオの腹部から、再び幾体ものヘカトンケイルが飛び出し、こちらに突っ込んでくる!
「アブねぇっ!!」
その場から飛び退き、帰りがけの駄賃とばかりに【プラズマカッター】で切りつける!
バチバチッ!っと音をたてて分断されるヘカトンケイル。
『へぇ…中々良い得物を持ってるじゃねぇか。だが…』
たった今切り払ったヘカトンケイルがグネグネと動いたかと思うと、強力な磁力で引っ張られたように宙を舞い、切断面にへばりつく。
…そして、強烈なアーク光を放ったかと思うと、何事も無かったかのように元の状態に戻ってしまった。
…アレがヤツの【修復】スキル…!
『…っとまぁ、俺の魔道兵装は壊せねぇんだ。でもって、俺は全身がこの魔道兵装ヘカトンケイル…つまり、俺にはどんな攻撃も無意味ってワケだ。…なぁ、無駄なあがきは止めて、大人しく捕まっちゃくれねぇか?』
ダリオ・ブラッドノート…全身が魔道兵装の男か。
中々に面倒臭い相手だ。
…うん、面倒臭い。
面倒臭いんだけど…なんと言うか「やりようはありそう」って気がするんだよな。
俺の【錬金術師の驚異の部屋】内には無数のアノマリー…それも高ランクやクセの強い物も多い。
ああいう面倒臭い相手にこそ、相性の良いアノマリーがありそうな気がするんだけれど…。
…問題は、今はそれを一々検証している時間が無いってコトだな。
そんな事を考えていると、ため息をつきながらbeeが言う。
「…ハァ、仕方が無いわね。アイツの相手はワタシに任せて、アリババは先に行きなさい。」
「えっ!?…いやいや、それはマズいだろ。」
beeはトレジャーハンター…決して戦闘向きの職業では無い。
流石にアイツを相手にするのは荷が重いだろう。
そう考えていたのが顔に出ていたのか、beeが諭すように言う。
「忘れたのかしら?こんな時の為にプシュパカさんはコレをくれたんじゃない。」
そう言って左手を差し出す。
…そこには、プシュパカが渡した【黒のチャクラ】…黒い金属質の指輪が輝いていた。
…何故か、薬指に。
いや何故薬指に!?というツッコミを待たず、beeは【黒のチャクラ】へと唇を寄せる。
…そして、まるで接吻をするかのようにして強制コードを呟いた。
『अहङ्कारः(アハンカーラ)』
…地響き。
ついで、衝撃波。
…暴力的なプラズマ嵐を伴い、空間の断裂から破壊と創造の化身が顕現する。
beeの切り札にして相棒、神話兵装【カーリストラ】が、四本の腕を力強く誇示し、見得を切る。
『アハハハッ!やっと僕の出番だね!!…助けに来たよ、マリー!!』




