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異世界盗賊は現代最強のトレジャーハンターになれますか?  作者: 須藤 蓮司


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79.~創世神話~ オルテックス事変②

 レオン・オルテックスの発した世界征服宣言により、オークション会場は地獄と化していた。


 抵抗の意志を見せ、異形の兵隊【APOSTLESアポサルズ】に殺害される者。


 服従の意志表示をし、その身柄を拘束される者。


 …図太い者にいたっては、恭順の意志を示して取り入ろうとする…もはや流石、といった所である。



『レオン・オルテックスッ…このようなことをして、タダで済むとおもっているのか!?』


 複数のアポサルズに取り囲まれた天幕の中で、影が揺れる。

 兵を率いるレオンが、自ら天幕の前まで進み出た。


『…閣下、往生際が悪いですよ?貴方はここで終わりだ。』 


 レオンが手を上げると、アポサルズの腕部…手の平が開閉し、不気味な穴が現れた。

 乱杭歯が並ぶ生物の口を思わせるその穴が…にわかに輝き出す。



『私は必ず貴様を──』



 手を振り下ろすと同時に、天幕が無数のプラズマ球で打ち抜かれる。

 …声は絶え、電流に焼かれた天幕が一気に燃え上がる。


 やがて、バサリと音をたて…天幕が落ちた。



『──必ず貴様を、殺す。』



 天幕の内に居たのは…いや、存在した物は。


 …核を討ち貫かれ崩れかけた、土塊の人形。

 …巨大な土偶であった。


『…ふん、やはりアノマリーによる身代わり、か。…あの臆病者め。』


 物言わなくなった不気味な土偶を、忌々しげに蹴り倒す。


『ま、少しばかり寿命が延びただけだ。…今生との別れをする時間くらいはくれてやるか。』


 そう呟くと、レオンは辺りを一瞥し、意識を自らの耳へと向ける。


『…こっちは粗方片付いたよ。ハリードには逃げられたが…まぁ想定内さ。』


 傍から見れば独り言のように見えるが、彼は部下と連絡を取っていた。

 レオンが耳元につけた銀色の小さな丸いピアス…一見すればシンプルな装飾品にしか見えないソレは、オルテックス製戦略統合通信端末――《ヘルメス》


『…ふむ、そうか。外に出ていないという事は…この状況下でアノマリーを狙う気かな?流石は「鍵の男」、肝が据わっているねぇ…。』


 事も無げに…まるでゲームでも楽しんでいるかのように言うレオン。


『…むしろ好都合じゃないか。外で待機中の【APOSTLESアポサルズ】を順次突入、包囲網を狭めて逃げ場を潰せ。』


 そう言い終わると、再び会場内に目をやる。

 …通信はもう繋がっていないようだった。


 美しかった劇場内は所々焼け焦げ、血が飛び散り…今もなお、捕えられた貴人達の呻きや悲鳴が響く。

 その様子を、レオンは絵画でも眺めるように見つめながら呟く。


『…確か日本の言葉で…「袋の鼠」と言うんだったかな?』



~ ~ ~ ~



 ヘルマーを湯取に任せ、俺達三人は保管庫へと急ぐ。


 先行して前を飛ぶbeeに追走する俺とアグニ。


 時折、ハリード陣営の警備兵と鉢合わせるが、その度俺が前に出て無力化する。

 アグニに埋め込まれた【契約の勾玉】は銃弾なんか物ともしないし、スーツの下に着込んだ【アヴァロン・レイヤー】で強化された体は物理で問題を解決してくれた。


 通路を曲がった先で、ふと開けた空間に出る。

 

 円筒状の吹き抜けになったそこには、上下に伸びるガラス張りのエレベーターが二基。

 …なんだココ?劇場出演者用のロビーみたいなモンか?


 そんな事を考えていた俺の視界に、階下から超高速で飛翔する影が迫る。


『…させん!』


 アグニの操る紅蓮の炎が迎撃するが、飛翔体に当たる直前で唐突に炎は霧散する。

 【反発結界】持ち…!!

 それを瞬時に察した俺達は、三方向に散らばる様に距離を取った。


 聞き覚えのある、リィィィン!という鈴の音のような高音が、周囲に響き渡る。

 …空中で静止したかのようにホバリングするソレが、俺を睨みつけた。


「…お前は…!!」


『…()()()()()()、異能使い。』


 全身銀色の装甲に身を包み、背中には背嚢型の飛翔用魔道兵装…【セレスティア・ペイル】。

 高速飛行戦闘を得意とする、A.R.K.空挺魔導部隊隊長──


 エリシア・フロストレインだ。


「くそっ、さっきから隊長クラスが続々と…ボスラッシュかよ…!?」


『今日はあのアタッカー…ユトリは居ないのか?奴には前回、恥辱を味わわされたからな。この手で引導を渡してやるつもりだったのだが…まぁ、居ないのなら仕方が無い。』


 …!


 コイツ…記憶が戻ってるのか!?

 確か湯取の【魔眼】スキルで記憶を改ざんしといたハズなのに──

 …ちっ、流石はオルテックスって所か…。


『……ユトリ……ユトリ…く…ん?』


『ユトリくんユトリくんユトリくんユトリくんユトリくんユトリくんユトリくんユトリくんユトリくんユトリくんユトリくんユトリくん』


『何だコイツきっしょ。』


 …な、なんか微妙に【魔眼】の後遺症が残ってるみたいだな。

 ヤンデレ化したフロストレインに、アグニがドン引きしている。


【エリシア・フロストレイン】27歳

 A.R.K.空挺魔導部隊 隊長 状態:魔眼による精神汚染(軽度)

 魔道兵装の直結使用に耐えられるよう肉体改造を施している。

 自重が飛行性能に影響する為、改造は比較的小範囲に納まっている。

 E:飛翔用魔道兵装セレスティア・ペイル(ランク:B)

 E:A.R.K.空挺兵装コンバットアーマー(ランク:C)


【SM-06《セレスティア・ペイル》】ランク:B

 分類:飛翔用魔道兵装

 背嚢型の魔道兵装。魔術回路を内蔵し、空中を自在に駆ける「魔導の翼」。

 風属性特化の合成魔石「マギクリスタル」を搭載しており、魔法スキル【光翼】が使用可能。

 使用者のエリシア・フロストレインとは軽度の改造手術により背部で接続されている。

 両者には低温圧縮エーテルガスが循環されており、その燃焼により爆発的な攻撃力を発揮する。

 また、副次的にマギクリスタルの自動防衛機能が装着者を守る【反発結界】を発生させる。


 …うん、やっぱり軽度ながら「魅了」って判定が出てるな、コイツ。

 装備やなんかは前回と変わってないみたいだけど…。


 高速飛行や【反発結界】、【光翼】のスキルが厄介な相手だった。

 前の時は湯取の【グラビトン】や【魔眼】が有効だったけれど、残念ながらアイツは今ここには居ない。


『…ちっ、仕方が無い。コイツは我が仕留めておくから、貴様等はさっさと先に行け。』


「え…お前が?」


 アグニの唐突の提案に、俺は間抜けな声を上げてしまう。

 …いやだって、アグニは俺を守る存在だから、自ら離れる提案をしてきたのが意外だったんだ。


『仕方があるまい、その女は道案内に必要なのだろう?…全く、「他人の所有物は探知できない」とか…貴様のスキルも穴が多いな。』


 ぐ…ごもっともです。

 俺のスキル【財宝検知】は、遺跡やダンジョンにある「所有者不在の財宝」しか反応しないからな。

 あくまで「()()を検知するスキル」というワケだ。

 【盗賊の鼻】も、お宝のある方向が感覚で分かるスキル…ダンジョン探索ならともかく、緊急時や時間の無い時には向かないスキルだろう。

 

「…任せて、良いんだな?」


『くどいぞ。…すぐに追う。』


「…感謝するわ、アグニさん。」


 アグニとフロストレインに背を向けると、俺は【アヴァロン・レイヤー】に思念を送る。

 上に着込んでいたスーツの背が破け、小さく畳まれていた補助推進モジュール【オービタル・ウィングス】が展開する。

 …元はドッキング型のモジュールだったのだが、なんか一人で接続するのが異常に困難だったんでプシュパカに相談して【アヴァロン・レイヤー】に内蔵する形に改良してもらったんだ。

 小型化の影響で出力は元の七割程に低下してしまったが、緊急時に展開してすぐ使える利便性はそれでもおつりがくる位だ。…丁度、今みたいにな。


 一息に飛び出した俺は、【空飛ぶ日傘】に跨ったままのbeeを抱えるようにして抜け出した。


『そう簡単に逃がすと思うか?』


 正気になったフロストレインが、俺達の後を追う。

 出力が低下した俺の【オービタル・ウィングス】より、奴の【セレスティア・ペイル】の方が性能は上…だが。


『…それは我の台詞だ。』


 突如として、アグニとフロストレインを取り囲むように顕現する「炎の壁」…いや、全方向を取り囲むソレはもう、「炎の檻」だった。


『…こんな物、【反発結界】の前には無駄だと理解できないのか?』


『そうか、じゃあやってみろよ。』


 フロストレインは檻を突破しようと、速度を上げて炎の壁へと突っ込もうとする。

 …だが、その試みは失敗に終わった。

 フロストレインを中心に、追従するように「焔の檻」ごと空間が移動したからだった。


『くっ…姑息な真似を。』


『クックック…どうした?ご自慢の【反発結界】も、触れられなければ無意味だな?』


 不敵に微笑むアグニに対し、フロストレインは努めて冷静に返答する。


『…それならば、まずは貴様から始末するだけだ。』


『…さっきからくどいぞ。さっさとやってみせろと言ってるんだよ!』

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