76.カスヴァル共和国主催『闇オークション』⑥
カスヴァル共和国、闇オークション後半戦。
壇上に現れた【指喰いの指輪】は、巧妙な偽装が施されたアノマリーだった。
俺の【鑑定】が看破した、その正体は…
【指喰いの指輪】ランク:C
〈!〉高位の錬金術による偽装が施されています。
【鑑定】スキルにより看破しました。
【錬金術師の隠し扉】ランク:S
異世界の錬金術師が作り上げたポータル。
向こうとこちらの二個一対で、二つの世界を繋ぐ通路を形成している。
現状で最大サイズの為、通るには小人化の魔法やホムンクルスを使う等の工夫が必要。
…ランクSアノマリー!!
しかもこの名前…【錬金術師の隠し扉】だと!?
…俺の所持するランクSアノマリー、【錬金術師の驚異の部屋】と何か関係が…!?
分からん…分からんけど…このアノマリーは絶対に俺が手に入れる必要がある!
【直感】スキルが…そして盗賊としての本能が、猛烈にそう訴えている!!
『「異界の叡智を手にする為の鍵」だと…?』
『…要するに「隠された財宝」…それを見つける為のキーアイテムか…。』
『なるほどねぇ…真の価値は別にある…と。』
周囲の参加者達のつぶやきが聞こえてくる。
…競合相手は多そうだが…ま、それは関係無い。
今回のオークション…多分このアノマリーが、俺の正念場だな。
『それでは皆様、準備はよろしいでしょうか?【指喰いの指輪】…最低落札価格は本日最高額の300億カダールとなっております。それでは…入札スタート!!』
『310!』『315億っ!』『320!』『330っ!!』
うぉっ!値段の上がり方が半端無ぇ!
よぉし、俺も気合入れて入札するぞ~!!
『…500億!!』
!!
…ざわっ…
『出たぁ~108番様、一気に500億カダール!流石の豪胆!!これに追従する方はいらっしゃるのかぁ~!?』
「…あ~あ、先輩また熱くなっちゃってるっスよ…。」
「…後半戦が始まったばっかりだってのに、アナタねぇ…!!」
『ぐっ…アレは落とさせん!510億っ!!』
『…貴様の好きにはさせん!515億だっ!!』
俺の方を苦々しい表情で睨みつけながら、更なる入札を続ける参加者達。
…中々やるな。
だけど、ココだけは俺も引けない…!
『じゃあ…1000億!!』
!!
…ざわっ…ざわざわっ…
『いっ…1000億!!1000億カダール出ましたっ!!一気に本日最高額です!!』
『ば…馬鹿げているっ!!』
『本気かっ!?』
『アリババ、貴様ぁ…本当に払えるんだろうな!?』
…大丈夫、1000億カダール…日本円で100億円という大金だけれど、俺の資金にはまだまだ余裕がある。
…思えば、こんな事もあろうかとセッセと『【換金】錬金術』で資金作りをしてきたんだ。
『さあさあ皆様、他にございませんかっ!?いらっしゃらなければ108番様が1000億カダールで――』
『…では私は2000億カダールだ。』
!!
…ざわざわざわっ…
2000億カダールっ!?
一気に1000億上げて来やがった!?
…俺以外の奴で、そんな無茶な値上げをしてくるとは…!
俺は競売相手を確認しようと、声のした方向へ顔を向けた。
!!!
そこに居たのは、銀色のペストマスクで顔を覆った男。
白いスーツに金髪のオールバック…って、この男…!!
…【鑑定】を使うまでも無い。
レオン・オルテックス…!!
会場内で見かけないなぁとは思っていたが、遂にここで出て来やがったか…!
『にっ…2000億っ!!2000億カダール!!!とんでもない金額が飛び出しましたっ!!…これには流石の108番もお手上げかぁ~!?』
…おぅ、煽るねぇMr.ペンタゴン。
いいぜ、その勝負乗ってやるよ。
『…3000億カダール!!!』
『けっ、桁がおかしいだろうっ!!』
『馬鹿が二人になって、これじゃあ手が付けられんぞ!?』
『…ふざけている、俺はもう降りる!』
『…では、4000億カダール。』
『5000億カダール!!!』
『せっ…1000億単位で競り合いが続いていますっ!!正に異次元の競り合い!!…我々は何を目撃しているのでしょうか…!?』
『…6000億。』
『7000億っ!!』
「先輩っ!?アリババ先輩っ!?」
「ちょっ…少し冷静に…」
湯取とbeeが何か言ってる気がしたが、今はそれどころじゃ無い。
『8000億。』
『9000億っ!!』
『…駄目だな、聞こえて無いぞあの馬鹿。』
…アグニも何か言ってるが、無視だ無視!
『…では、1兆カダール。』
…シン…
…おお、人間って本気で引くと黙るんだなぁ。
…まだまだ、ここからだ。
『2兆カダール!!』
『馬鹿だろっ!!』
『馬鹿だ馬鹿!』
『…アリババって男は馬鹿なのか?』
…人間って、ドン引きしすぎると語彙力が小学生になるんだな。
大の大人が揃いも揃って馬鹿馬鹿って…。
『ウヒャヒャヒャッ!!ちょ…兆単位の競りて…アホや!アホがおるで!!…これだから辞められんわぁ…。』
『3兆。』
『4兆!!』
『5兆。』
『6兆!!』
『…ふぅむ、キリが無いねぇ。…面倒だ、20兆。』
『こっちも面倒になってきた所だ!…50兆!!』
…どうだ?日本円で5兆円…。
自分でも、もう意味が分からなくなってきたな。
『…君がそこまでして手に入れたいアノマリー…興味があるねぇ。』
不敵な笑みを浮かべたレオンが呟く。
『おう、張り合おうっていうなら幾らでも付き合うぜ!』
レオンの眼を見つめ返し、負けじと笑顔で返す。
この広いオークション会場で、俺とレオンの二人だけが「存在」している。
…さあ、勝負をつけようぜ。
『楽しい時間だが、そろそろケリを付けよう。100兆カダール。』
『まだまだ付き合えよ?200兆カダールだ。』
いつの間にか、レオンの隣に立つ銀髪の少女。
猫を模ったハーフマスクを着けているが、間違いない…マリア・ニェチェリナだ。
彼女はレオンの耳元に顔を近付けると、何事かを伝えたようだった。
『…ふむ、そうか。残念だがこの辺にしておこうか。…この勝負は私の負けだ。』
…ウォォォォォォォォォッ!!!!
オークション会場に渦巻く、熱狂的な歓声。
壮絶な競り合いは、レオンの唐突な撤退により終わりを告げた。
勝った…のか?
『き…決まったぁぁぁ!!!【指喰いの指輪】は、当オークション市場過去最高金額の200兆カダールにて、108番様が落札されましたぁぁぁ!!!』
…ウォォォォォォォッ!!!!
Mr.ペンタゴンのアナウンスに煽られるように歓声を上げる会場。
…アリババッ!アリババッ!アリババッ!
「…何スか、このコール…。」
アリババッ!アリババッ!アリババッ!
「もう、なんて言うか…頭痛い…。」
アリババッ!アリババッ!アリババッ!
『馬鹿しか居らんな。』
…自分でも分かる。
流石にやり過ぎた。
…とにかく、これで【指喰いの指輪】こと【錬金術師の隠し扉】は俺の物となった。
~ ~ ~ ~
熱狂を遮る様に、オークション会場の入口が閉まる。
会場の外に立つ二つの人影。
『…なんでオークション、参加したの?…無意味。』
猫マスクの少女の問いかけに、ペストマスクの男が答える。
『…ん?意味など無いよ?…ただ、あのアノマリーに対する彼の執着に異常性を感じたのでね。』
いつもの紳士然とした態度は何処へやら…レオンは悪戯が成功した子供の様に、ニヤニヤと笑っていた。
『ま、所詮は遊びだよ。準備が整ったのなら、そちらが優先さ。…さぁ、最後の仕上げといこう。』
そう言うと二人は何処かへと歩き出す。
その後ろを追従するように、幾つもの影が規則的に揺れる。
…誰に言うでも無く、レオンが呟く。
『――それに、どのみち全て「私の物」になるのだからね。』




