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異世界盗賊は現代最強のトレジャーハンターになれますか?  作者: 須藤 蓮司


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75/89

75.カスヴァル共和国主催『闇オークション』⑤

『――いやぁ、今回のオークションも盛況で何よりで、ハリード閣下。』


 眼下の競り合いを楽しそうに見つめながらそう口にしたのは、金髪オールバックの紳士…レオン・オルテックス。

 豪奢な天幕の隣に立ち、中に居る主催者に軽口ともとれる態度で話しかける。

 …この態度に、天幕の後ろに控える腹心達は眉間に皺を寄せた。

 幾人かは自らの懐に利き手を差し込み、ホルスターに吊るされた拳銃を引き抜こうとするが――


 スッ――と、天幕の中で影が手を上げる。


 それに合わせ、拳銃を掴んでいた幾つもの手が元の位置に戻された。


 この間、レオンは顔色一つ変えず…いや、それどころか薄く笑顔を浮かべていた。


『…相変わらず、食えぬ男だ。その余裕ぶった面を後悔で歪ませてやるのは容易いが…貴様はアノマリーから無限の金を生む。…いつかその金脈が枯れる日が来るまでは、せいぜい仇敵に首を掻かれぬよう気を付けるのだな。』


 そう言って揺れる影に、レオンは演技じみた身振りで応える。


『ご心配頂き恐縮です…仕事柄、敵も多いもので。』


 そして、そのまま考え込むように顎に手をやった。


『仇敵と言うと…ノクス・ミラビリス辺りですかねぇ?確かに、魔術師は少々厄介ですが…手に入れたアノマリーをそのまま使っているような進歩の無い連中です、脅威にはなり得ませんよ。』


 自分の言葉に肩を震わせ嗤うと、「それに…」と付け加える。


『…幸いな事に、部下にも恵まれておりますので。』


 そう言いながら自らの右隣に目線を送るレオン。

 変わらずの不遜な態度にハリードの護衛達から殺意が溢れ出る…が。

 …一同は戦慄する事となる。


 レオンの隣に…誰も居なかったはずのその場所に、まるで霞か霧の様に少女の姿が現れた。

 いつの間に…いや、いつからそこに居たのか…誰も理解出来なかった。


 銀髪の少女は瞬き一つせず、人形の様にそこに立っていた。

 

『…御覧の通り、彼女は優秀でしょう?』


 その異様な光景に、瞬時に引き抜かれた銃口が一斉に彼女へと向けられる。

 レオンは極めて冷静に忠告した。


『ああ…それは止めておきたまえ。』


『…銃をしまえ、愚図共が。』

 

 怒気をはらんだ声が、天幕の内側から響いた。

 

 …額に脂汗を滲ませた腹心達は、ゆっくりと銃をホルスターへ戻す。

 

『…失礼ながら、そちらはあまり部下に恵まれていない様子ですな。』


『…ぬかせ。怪物を前に主を守ろうとするのは忠臣であろう。…挨拶が済んだのなら、もう失せるがよい。』


 ハリードがそう言うと、ゴゴン…という重い音と共に、背後にあった扉が開かれる。

 レオンは肩を竦め、部屋を後にした。



『…化け物共が。』


 静かになった室内に、ハリードの声だけが重苦しく響いた。

 


~ ~ ~ ~



 アリババ以外の落札者が現れたことで、些か冷静さを取り戻したオークション会場。

 その後も出品は続き、紹介される多種多様なアノマリーに会場は次第に熱を帯びていく。



『…ロットナンバー007番、【翼猫の石版画(リトグラフ)】は220番様が181億カダールにて落札です!!』



『…ロットナンバー019番、【禁書:殺戮聖典】は25番様が210億カダールにて落札されました!25番様は本日二品目の落札です!おめでとうございます!!』



『…ロ、ロットナンバー030番、【銀綬滅竜褒章】は108番様が350億カダールにて落札です!またしても108番!素晴らしい!』



『…ロットナンバー041番、【古代式(エンシャント)魔法義手(マジックハンド)】は311番様が233億カダールにて落札されました!!』




『…さて皆様、オークションも盛り上がってまいりましたが、ここで一度休憩を挟ませて頂こうと思います。再開は一時間後を予定しておりますので、それまでの間はご自由にお過ごし下さい。別室に軽食もご用意しております。…建物内への再入場は出来かねますので、ご注意願います…。』


 舞台の緞帳が下がり、薄暗かった会場内が明るくなる。

 

「ふぅ…これで前半終了ってトコっスかね?先輩、お疲れ様っス。」


 湯取のねぎらいの言葉に、若干だが肩の力が抜けた気がした。

 …意識していなかったけど、俺も多少は緊張していたみたいだ。


「…最初はどうなる事かと思ったけど、後半は落ち着いてくれて安心したわ。…まぁ、相変わらず落札はしていたみたいだけれど。」


「俺はアレでも結構自重したつもりだぞ?」


 非難めいたbeeの視線はスル―し、そう返答する。

 オークション前半戦で俺が落札したアノマリーは以下の通り。


【魚石】ランク:B

 幾多の伝承に語られる不思議な石。

 「内部に水が入っており、不死の魚が泳いでいる。」とされるが、実際入っているのは高濃度の第五エーテルと水精霊である。

 石部分は既に極限まで薄く研磨されており、観賞用には最高の品。

 毎日眺めると【長命】の加護がある。


【降魔の石板】ランク:B

 未知の言語が刻まれた古い石板。乾いた黒い染みがこびりついている。

 生者を生贄に捧げることで悪魔を召喚することができる。

 召喚される悪魔のランクは生贄の数や質によって変化する。


【銀綬滅竜褒章】ランク:B

 ドラゴンスレイヤーに贈られる栄誉の褒章。

 倒した竜の竜核が一部使用されており、装備すると【王者の威圧】が使用可能。


【悪夢のスキレット】ランク:C

 「呪鉄」で作られた小型のフライパン。

 これで頭を殴打すると、高確率で相手を昏倒状態にする。

 調理に使用すると必ず料理が失敗し、不味くなる。


【看破の義眼】ランク:A

 千年月の光を浴びた紫水晶を磨き上げた宝玉。

 古代魔術がかけられており、眼窩に埋め込むことで【鑑定】が使用可能。

 【千里眼】で壁・地形を透過して半径数キロの視界を観測できるが、使用時間に比例して使用者の精神を蝕む。


 …と、合計五個。


 【銀綬滅竜褒章】は赤色の帯((じゅ)と言うらしい)に中央が金、外側が銀のバイメダル。

 金部分にはドラゴンの頭蓋骨、銀部分には呪文のような物がデザインされていて中々重厚な作りだ。

 装備すると【王者の威圧】というスキルが使えるようになるらしい。

 スキルなんていくらあっても良いのでコレは全力で確保した。


 【悪夢のスキレット】…完全にネタ枠、と思われそうだが、出来るだけ怪我をさせずに無力化できると考えると、実はかなり有用なアノマリーな気がする。

 …まぁ、無力化するには近距離まで近づいて殴んなきゃいけないのだが…そこは要検討で。


 そして…【看破の義眼】。

 出ましたランクAアノマリー、その能力も【鑑定】&【千里眼】と破格だ。

 【鑑定】は俺のスキルと丸被りだが、他所の誰かに渡すのは危険と判断した。

 【千里眼】…精神を蝕むってのが厄介だけど、これも超有能なスキルだろう。

 一番の問題は…使用条件が「眼窩に埋め込む」ってコトだな。

 ハードル高ぇわ!!

 A.R.K.の奴等みたいなサイボーグ?なら使い道もあるんだろうが…プシュパカにでも相談するか?


 いやぁ…流石は闇オークション、アノマリーの質もランクも高い。

 後半はもっと高ランクのアノマリーが出品されるんだろうし、今から楽しみだ。


『それより有人、貴様がいらん注目を浴びたせいで、幾人からか監視されている…今も話しかけるタイミングをうかがっているぞ。』


「げ、マジかよ…。」


 目線だけで辺りを見回せば、複数のテーブル席から視線が…って、悪人面の四面楚歌状態じゃねーか!

 

「…あ、何人かこっちに近付いてきますよ先輩!」


 うわっ本当だ、なんか護衛を引き連れてゾロゾロ集まって来たぞ!?


「…面倒だなぁ、一旦席を離れるぞ。」


 俺がそう言って立ち上がると、追従するように皆も立ち上がった。

 …三十六計逃げるに如かずってな!


 軽食が用意されている部屋にでも逃げ込もうと移動し始めると、その進路を遮る様に黒服の男達が立ち塞がる…ちっ、先回りされたか。


『おい、そこのお前――』


「――あ゛ぁ゛っ?」


 横柄な態度で話しかけて来たヒゲ面親父…の前に、湯取が割って入る。

 見た目と態度は完全にヤンキー…だが、全身から立ち上る威圧感…強者のオーラが、空間を歪める。


「――ウチの先輩に、何か用かよ?」


『あぅ…アあぁぁ……!?』


 これはマズイ…言葉も通じていないだろうに、オッサン顔面蒼白でガクガク痙攣し始めたぞ…。

 魔人のオーラとか一般人(?)には猛毒だろうに。


「ホ…ホラホラ、早くあっちの軽食見に行こうぜ!」


「うっス!」


 まったく…コイツは前からこうなんだ。

 絡んでくる輩相手だと急にガラが悪くなるんだから…。

 今のお前がガン飛ばしたら、相手がショック死しちまうだろうが。


 …つーかそんな悪人面してると、お前がお熱のbeeに悪印象与えちまうぞ?

 そう思ってbeeの方をチラリと振り返ると――


(…先輩大好きヤンデレヤンキー後輩…だと!?じ…実在していたのか…どんだけ属性盛ってくるんだよ最高か…?いやアリかナシかで言えば全然アリ!!)


 …なんかおっかねぇ顔でブツブツ呟いてる…しばらく放っておこう。


 



 オークション会場から出て隣のちょっとしたホールに入室すると、さながら立食パーティーといった感じだった。


 部屋のあちこちでマスクを着けた各国の悪人面達が談笑中…また絡まれたら面倒だ、近付かないでおこう。


 中央に用意された料理はサンドイッチやら…やら……やばい、サンドイッチ以外見たことも無い料理ばっかりだ!味の創造が出来ねぇ!!

 どれも色鮮やかなんだけど、薄い「何か」で包んだ「何か」とか、小さくて平べったい「何か」に「何か」が乗っかった「何か」とか…え、カスヴァル料理?これもカスヴァル料理なのか?

 ここ数日でみたカスヴァルの料理とはまた一風違った様相…富裕層向けのカスヴァル料理なんだろうか?


「おおぅ…何だコレ、何だか分かんないけど美味いっスよ、コレ。」


 湯取は早速食ってる。

 …お前凄いな、何だか分かんない物を何の迷いも無く食えるって。

 原材料に何が使われているのかも分からないのに。

 若さゆえの無謀…蛮勇か。

 …俺はジジイか。


『…ウォッカは無いのか?スピリタスとか言うヤツだ。』


『お客様、生憎アルコール類はワインとシャンパンのみとなっております。』


 アグニはバンケットスタッフに絡んでる。

 …お前っ!今日は酒は禁止っ!!


 アグニをキツく言い含めていると、beeに上着の裾をチョイチョイッと引っ張られる。


「…アリババ、あそこに居るのって…」


 beeの視線を追うと、その先には見覚えのある銀髪黒マスクが二人。

 …料理の乗った皿を持つアステリオスと、その隣でカナッペみたいなモンを両手で持ってカリカリカリカリ食ってるヘクセン。

 リスかよ。


 つーか、正体バレないからって威厳もへったくれも無ぇ姿だな!ノクス・ミラビリス(みうち)の奴等が泣くぞ!


 俺は気配を殺し、二人の後ろからそ~っと近づくと、ヘクセンの耳元で呟いた。


『…【弩龍の卵】返せやコラ。』


『!?…ゴホッゴホゴホッ!!!』


 咽るヘクセン。


 急な事態に普段冷静なアステリオもアワアワしている。

 その隙に俺は人ごみに紛れ、何事も無かったかのように仲間達の元へと戻った。


「あれ…アリババ先輩、何処行ってたんスか?」


「ああ、何でも無い。…ちょっと催促にな。」


「?」


「アリババ、アナタ…くだらない事に盗賊の能力を使って…。」


 どうやら見ていたらしいbeeに呆れられる。

 いや、流石にスキルは使ってないぞ!気配を殺すのは盗賊としての素の能力だし!



 …まぁそんなこんなで、馬鹿やりながら軽食をとって小休止。

 小腹も満ちたのでオークション会場へと戻って来た。


 しばらく待っていると再び会場の照明が暗くなり、舞台の緞帳が上がった。


『皆様、お待たせいたしました…ここからはオークションも後半戦、出品されるアノマリーも大変個性的…まぁ、一癖も二癖もある品を多数ご用意しております。本日ここでしか入手不可能な逸品ばかり、是非奮ってご参加下さい!』


 …司会はMr.ペンタゴンが続投するようだ。

 

『さぁ…後半戦最初の「商品」はこちらになります!』


 恒例の銅鑼の音と共に、舞台袖からバニーガールが小箱の様な物を持って登場する。

 …これまた、ずいぶんと小さなアノマリーみたいだな。


『それではご覧いただきましょう…オープン・ザ・アノマリー!!』


 Mr.ペンタゴンの合図で、小箱の蓋が開かれた。



 …アレは…!!



『ロットナンバー066番…【指喰いの指輪】でございます。』


 箱の中身は、銀色に輝く指輪だった。

 遠くてあまりよく見えないが、細かな装飾が施された美しいリングだ。

 …だが――


『銅と銀の合金「朧銀」で作られたこちらの指輪…指を通すと、輪を境に指が消えさります。もっとも、外せば元通りに戻りますが…時折、激痛と共に指を失うことがあるのでご注意を。』


 …と、そこまで言って、一度言葉を切るMr.ペンタゴン。


『…ここまでお聞きの聡明なお客様方なら、違和感にお気づきでしょう。「それだけでは、当オークションの商品としては弱いのでは?」と。…実はこちらのアノマリー、とある伝承によると「異界の叡智を手にする為の鍵」と伝えられているそうです。』



 オオオオオオオッ…!!



 会場がざわめく。

 「異界の叡智」…これが何を指すのかは不明だが、その「お宝の匂い」に色めき立つ。


 …湯取が小声で「異界のエッチってどういう意味っスか?」と聞いてくるが無視する。


 …俺には確かに見えていた。

 こいつは…「異界の叡智を手にする為の鍵」なんかじゃ無い。

 だって、俺の【鑑定】には――



【指喰いの指輪】ランク:C

 〈!〉高位の錬金術による偽装が施されています。


 【鑑定】スキルにより看破しました。


錬金術師(アルケミスト)隠し扉(ゲハイムテュア)】ランク:S

 異世界の錬金術師が作り上げたポータル。

 向こうとこちらの二個一対で、二つの世界を繋ぐ通路を形成している。

 現状で最大サイズの為、通るには小人化の魔法やホムンクルスを使う等の工夫が必要。


 

 「鍵」なんかじゃ無い。


 …こいつ自体が「扉」なんだ。

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